硝子狩り4
昭彦はガラス玉を光に透かしてみた。
数字や模様は重なりあっているように見える。
ふっと思いついて光を部屋の壁に投影させてみた。
・・・それは平面図だった。
模様と数字は緯度と経度を表していた。
まぎれもなくそれはあの「じじい」の工場の見取り図だった。
(何を指しているのか?)
翌日昭彦は模造紙を買ってくると部屋の壁に貼付けた。
そしてガラス玉を固定し、投影した図を模造紙に写しはじめた。
(でもあそこはたしか更地になっていたはずだ)
(入口はどこにあるんだ)
図の中には×印がついている。
昭彦は市街地図を広げた。かつて工場があった場所には「山田」と書いてある。
(山田・・・?)
久し振りに昭彦は工場跡地に行ってみた。
「山田不動産」の看板が立ててある。
昭彦は住所と電話番号をメモした。
工場の跡には一面にコンクリートが流し込んである。
周りをぐるりと柵が囲んでいた。
(この「山田」って人に聞けばいいのか?)
(何て聞くっていうんだ・・・)
「昭彦ちゃん」
「あ、こんにちは」
近所に住む飯倉という婦人だった。
「久しぶりねえ。小さい頃はうちによく遊びにきてくれたのにねえ。
うちの正が出来が悪いから、昭彦ちゃんと同じ高校いけなかったのよねえ。残念だわあ」
昭彦は笑って「ここでよく正と遊びました。すっかり変わっていて驚きました」
「ひどい火事がだったわね。よくけが人が出なかったと思うわ」
「おばさん、この「山田不動産」って知ってます」
「知ってるわよ。あの火事の後ここを買い上げたのがこの「山田不動産」でね」
「この土地が売れないってぼやいてるらしいけど、売れないんじゃなく売らないって噂よ」
「そうだったんですか・・」
飯倉は、はっとして「そうだわ買い物の途中だったわ」と言い、
「またうちのほうにも遊びにきてね。正が喜ぶわ。じゃあまたね」と笑顔で手を上げた。
昭彦もつられて笑顔になった。「はい。さようなら」
昭彦は久し振りに正に電話をかけた。
「どうしたのよ、珍しい〜」と正がおどけた。
「今頃勉強漬けになっていて、オレのことなんて忘れてると思ってたぜ」
昭彦は笑いながら「今日お前のお袋に会ったんだよ」
「へいへい、そんなことでしょうとも」
「なあ、また狩りをやらないか」
「狩り?がきのころやったあれか?」
「何だあ?どうしたんだあ?今さら。懐かしいってか」
「違えよ。オレにも何が何やらわかんなんねえんだよ」
「オレの家に来てくれないか。聞きたいことがある」
「何だよ。恐ええな」と正は笑いながら、明日行くと約束した。
翌日、正は約束通り昭彦の家にやってきた。
昭彦は正を自分の部屋に招き入れると、ガラス玉を見せた。
「工場のじじいんとこのガラス玉だろ?」
昭彦は黙ってガラス玉の映像を壁に投射した。
図面を見ると正は息を呑んだ。
「何なんだ、何なんだよ、こりゃ」
「工場の図面らしいな」昭彦は淡々と答えた。
「たまげるぜ」正は昭彦を見た。
「お前平気なのか?」
「オレだってたまげたさ」
「こういうのって、お前、警察とかによ」
「警察か・・・何て言うんだ?」
「いや、分からねえ。分からねえけど、やべえもん見ちまった気がする」
「そしてこれは今山田って奴の持ち物なわけだ」
二人は平面図を見て沈黙した。
<つづく>
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