硝子狩り2
教室に入っていくとノバクが目ざとく昭彦を見つけて、
「遅いよ吉沢くん」と言った。
この女は本当はキムというのだが、
キムという名が多すぎるので、
昔いた女優のキム・ノバクからとって(顔が何となく似ている)
昭彦はノバクと呼んでいる。
ノバクは何かにつけ昭彦にからんでうるさい。
「うるさいよ」
「ニュース今日も見てないでしょう」
「見てませんよ」
「アジア連合のニュースよ」
日本がアジアの国々とアジア連合なるものを結成してから
どれくらいたつのだろう。
昭彦にとっては、日本にはそういうニュースが流れた、
だからどうだという感じである。
クラスメイトの名前にバリエーションが増えたという点か。
あとこういう呼び方をする。「ネイティブ(日本人)」
「韓国系日本人」(ノバクがそうだ)。「フィリピン系日本人」
・・・だからどうだというのか。
今日も昭彦は食う飯には困らない。
昭彦は自分の席に座って鞄を開けた。
始業前には何とか間に合ったようだ。
(引き出しに入ってたアレは何だったのか)
(家に帰ったら見てみよう)
後ろからノバクの声が聞こえた。昭彦に話しかけているのだ。
(しつこくて、うるさい女だ)と昭彦は無視を続けた。
ノバクはこんな昭彦には慣れているから話をやめない。
「アジア連合で決定したからには、徴兵制度ができるし」
「認識票を付けないと」
「もしかして昭彦はまだなわけ?」
「え?」
昭彦はノバクの方を振り向いた。
「だからね」ノバクは淡々とした口調で言った。
「ひょっとしてこうやって高校なんかに通ってられるのも
今日までかもしれないって言ってるのよ」
「見せてあげる」
ノバクは昭彦の方におもむろに左手を差し出し、
ブラウスの袖をまくり上げると、手首の内側を見せた。
そこには赤黒い痣のようなものが付いていた。
<つづく>
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