飯田橋は山奥の別荘に監禁されていた。 監禁といっても、手錠をかけるわけでも外出禁止というわけでもない。 今朝も山道を銀縁眼鏡の男と歩いていた。 この男は飯田橋の身の回りの世話を命じられているようだった。 色白細面に切れ長の目をしているビジネスマン然としたこの男が 飯田橋の横に並んで歩いているというのは不思議な光景だった。 男は飯田橋をちらりと見て薄く笑った。 「考えていることは分かりますよ。僕には超能力はありませんがね」 「僕自身自分がここにいるのが不思議なんですよ」 二人は黙って歩き続けた。 つま先から冷気が這い登ってくるようだった。 空気は頬を切るように冷たかったが、別荘にじっとしていることに比べれば、 この開放感は何ものにも代えがたい。 男が口を開いた。 「あなた方が我々の情報を掴んでいるのは分かっています」 「だが我々はあなた方の情報を掴んでいるとはいいがたい」 「あなたはあの小さな玉のことは分からないと繰り返してばかりだ」 「我々が圧倒的に不利な状況の中で、あなたが監禁されるがままになっているのは」 「僕には不思議でならない」 男は立ち止まって煙草に火をつけた。 飯田橋にもすすめたが、飯田橋は首を横に振った。 「もう御存じでしょうが僕は森本一といいましてね」 「学歴も自分で言うのも何ですがそこそこだと思いますよ」 「一流企業に勤めて高収入を得ることも夢ではなかった」 「そんな僕がどうしてこんな所にいるのか自分でも不思議でならない」 「僕の運命を握っているのがたかだか10歳の少年だとはね」 飯田橋は静かな瞳で森本を見ていた。 「どこで狂ってしまったのか・・・」 森本はイライラした調子で煙草を吸っていたが、 ジャケットから携帯灰皿を取り出すと、 吸い殻をねじ込んだ。 飯田橋を挑むように見たが、飯田橋は森本を黙って見返すだけだった。 「オレをバカにしているのか!お前は!」 飯田橋は微笑むと 「バカになんかしていませんよ」と言った。 |