硝子狩り14
エンケと昭彦と正は、東京の町を移動していた。
基地で整形手術を受けた二人は、ちょっと見ただけでは家族でも本人とは分からないほど外見が変わっていた。
エンケが「じじい」が持っていたような地球基地に二人を移送させ、地上に連れ出していたのだが、
昭彦と正には、もう、何がどうなっているのか分からず、ただエンケの後をついて歩いているだけだった。
エンケは二人を大通りから路地に入った小汚いビルの中へ連れていった。
4階建てのそのビルには、エレベーターもついていなかった。
「**商事」と書かれたドアを入った事務所も古びていて、
ちょっとした地震で天井が落ちてくるのではないかと思わせた。
小さい事務所には何か分からないが色々なものが雑然としていて、
人間のいるスペースはほとんどなさそうだった。
そんな中に社長らしき男が書類が山と積まれた社長用の事務机らしき所に陣取って何か作業をしていた。
男は3人に目をやった。
小柄だが、油断ならない目をしていた。
エンケを知っているらしくもそもそと「あ、毎度どうも・・」と言って、片手を挙げると、
これまた、くたびれた応接セットを指差した。「座って」。
社長らしき男は、事務机の横から書類の束を持って現れた。
その風体が人間離れしていると思った昭彦はエンケにそっと
「あの人地球人?」
と聞いた。エンケは笑いをかみ殺しながら、
「正真正銘の地球人ですよ」
と言った。
男は向い側のソファに腰をおろすと、ぶっきらぼうに
「戸籍二人分、同年令、手に入ったよ。買っておいたから」
「助かるよ」
男は昭彦と正を値踏みするように見た。
「アパートも大した所じゃないけど、押さえてあるから」
男は持っている書類をぱたぱた振った。エンケは懐から分厚い茶封筒を取り出した。
男はエンケに書類を渡し、エンケは男に茶封筒を渡した。
「これでいいな?」
「いつもすまないね」
男はニヤリ、と笑った。
「まあ、これがオレの商売だからな」
「その商売のおかげで、俺達も生きていけるというわけだ」
「まあな」
エンケは昭彦と正に目配せをすると立ち上がり、
「じゃ」
「まいど・・・」
事務所の出口へと向かった。
路地を抜けてさっきの大通りに戻ると、ビルの壁面が日射しを反射して、町並のあちこちが金色に光っていた。
その光に少しずつオレンジが混じっていく・・・。
三人は眩しくて思わず目を細めた。
昭彦と正は呆然と道に佇んでいた。地球に帰って来たのに、なんだか随分遠くに来てしまった気がした。
ふと見ると、道を挟んで向いのビルの前に15、6歳の少女が立っている。
色白で、目がこぼれ落ちるかと思うくらい大きい。
ショートカットが年相応でよく似合っていた。
少女は三人に気付くと、笑って、突然大きな声で
「迷子なの?」
と聞いた。あまりにも唐突だったので、なんと答えていいのか分からなかったが
<迷子>という言葉が胸にずしりと響いた。
通行人がちらちらとこちらを振り返っている。
<迷子か・・・>
若い男がどこからか少女に走り寄ってきて「美夜ちゃん、探したよ!」と少女の腕を掴んだ。
男は三人に目礼をし、美夜と呼ばれた少女の肩を抱くようにして、人込みの中に消えていった。
美夜は微笑みながら三人に大きく手を振っていた。
「オレたち、迷子なんだな」
正が呟いた。
「うん・・・」
エンケが二人の肩を叩き、
「いくぞ」
と言った。
二人が案内されたのは、二階建ての古いアパートだった。
階段を登って一番奥の203号室が二人の家になった。
エンケがさっき渡された封筒から鍵を出してドアを開けた。
部屋の中には綺麗に何もなくて、埃の匂いすらなかった。
「気持ち悪いほど綺麗だな」
エンケはそう言うと、二人に例の封筒と現金を渡した。
「今自宅に帰ろうと思うなよ」
二人は黙ってうなずいた。
一通り説明したあと、エンケが帰り、昭彦はアパートの窓から町並を見ていた。
夕陽に真っ赤に染まった町並は、何か懐かしい感じがした。
「あのガキと話してみたい」昭彦は淡々と言った。
「何だって?俺達をこんな目にあわせた奴にか?」
「バカみたいなことを言っているのは分かってる。でも話してみたいんだ…」
正は昭彦の顔をまじまじと見ていた。
<つづく>
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