硝子狩り10
飯田橋は昭彦に右手を差し出した。
「昭彦、君が持っているガラス玉を貸してくれないか」
昭彦が飯田橋に玉を渡すと、飯田橋は手近にあったくぼみに玉をはめ込んだ。
玉は赤い色を発し、次に緑色に光った。
飯田橋は玉を取り出すと昭彦に渡した。
「早く奥の部屋へ!急いで!」
昭彦と正は言われた方向へ走った。
目の前に部屋の入口が見えてきた。
部屋の中は真っ暗だった。
「早くドアを閉めるんだ!」飯田橋が叫んだ。
二人は部屋の中に駆け込み、昭彦はドアを勢いよく閉めた。
暗くて何も見えなかった。
昭彦は辺りを見回した。
すると、離れた所に小さな明かりが一つだけ見えた。
近づいてみるとちょうど玉と同じ大きさの明かりだった。
「何だろう?」
「早く何かしろよ!」正が昭彦を小突いた。
昭彦はさっきの飯田橋を思い出し、明かりに玉をはめ込んでみた。
玉はきっちりと明かりにはまり込み赤い色に輝いた。
「赤い・・・!緑色じゃないぞ!」
「くそ!」正が玉をこぶしで叩いた。
「正、何をする!?」
その時、玉が緑色に変色し、部屋は明るくなった。
その途端に、身体が軽くなる感覚がした。
ちょうどエレベーターに乗っている時に似ていた。
「移動している?」
めまいのようなふらつく感覚が二人を襲った。
こちらの部屋にもさっきの部屋のようにスクリーンがあり、ボタンがいくつも並んでいた。
そのスクリーンに飯田橋の顔が映った。
「君たちは脱出した。今は地球の外にいる」と飯田橋が言った。
「そこまで届く能力をあの少年は持っていない」
「仲間に君らのことを連絡してある。そっちにじき連絡がいくだろう」
「じじいはどうすんだよ!」
「私も今脱出するつもりだ・・・正、じじいっていうのはやめなさい」
飯田橋は少し笑った。次の瞬間飯田橋は後ろを振り返り、「君は?」と言った。
映像がプツンと途切れた。
「おい!じじい!飯田橋のおっさん!」
正が叫んだが、応答はなかった。
「くそっ、冗談じゃねえぞ」正が唸った。
「地球外だと?軽くいいやがって!」正は小さな部屋の中をうろうろした。
昭彦は部屋の小さな窓から外を覗いた。
そこには数知れない星と果てのない暗い空間が広がっていた。
昭彦は小さくため息をついた。
「昭彦、お前何落ち着いてんだよ!」正が怒鳴った。
「別に落ち着いてないぜ。呆然としてるだけさ」
「お前だって、びびってんだろ?」
「分かったようなふりすんなよ!お前のそいいう態度、いらいらすんだよ!」
「いちいち怒鳴るなよ、正」
「悪りいな、俺はどうせ小物だよ!こっからどうやって帰れってえの?連絡なんて来ねえじゃんかよ!」
「畜生、畜生!」
「落ち着きなさい」スクリーンの方から男の声がした。
正はスクリーンに駆け寄った。
スクリーンには透き通ったような肌をした銀髪で赤い目をした男が映っていた。
「あんた、何者?」
男はふっと笑った。「お言葉だな」
「飯田橋さんはどうしました?」
「飯田橋は消えた。しかし死んだわけではないらしい。どこにいるのかは不明だ」
「あんた、誰よ?」
「私は月面基地の管理者だ」
「月面って月に建物があるんですか?」
「そうだ、君らをこれから迎えにいく」
「地球に帰してくれよ」
「まずはこちらに来てくれ。それから計画の練り直しだ。飯田橋のこともある」
「こちらから誘導するから少し待ってくれ」
「何なんだ!畜生!人を何だと思ってやがるんだ。いいように弄びやがって・・・!」
「落ち着きなさい」スクリーンの男が言った。
「落ち着けだと?バカ言うな!最初は地下だ、次は地球外だ、今度は月面基地だ?」
「こんなに連れ回しておいて、落ち着けだと?笑わせるなよ」
「そうだ、落ち着くんだ。それに空間移動は正君、君が思っているほど大変なことじゃないんだよ」
「うそつけ」
「本当だ。地球人の理解が遅れているんだよ。」
「地球人が次元と空間の仕組みに気付きさえすれば、」
「遥か遠くの星にさえわずかな時間で到着することができるのだが」
「残念ながら地球人はそこまで覚醒していないようだ」
昭彦と正はポカンとスクリーンを見ている。
「分かったかな?」
ようやく正が口を開いた。
「新手の宗教なのか?それ」
<つづく>


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