<第二幕>

       明転
       舞台上には永倉、原田、沖田、斎藤がいる
       どうやら新撰組の屯所らしい


 永倉   あ〜あ、最近さぁ、本当に忙しくなってきたよなぁ。
 原田   そうだな。まぁ、あちらさんもそろそろ本格的に追い詰められてきてるってことだろ。
       近いうちに何かしら仕掛けてくるんじゃないか?
 斎藤   
そうなったら全面戦争ということになるな。今よりもずっと忙しくなるぞ。
       これくらいでへばってたら、真っ先におだぶつだな。
 永倉   おだぶつねぇ・・・。でもさぁ、あいつらもしつこいよなぁ。
       いくら頑張ったところで、俺たち新撰組には勝てっこないのにな。
       なにせ、俺たち新撰組は最強なんだから。そうだろ?沖田。
 沖田   えぇ、当然じゃないですか。
       僕たちは「誠」の正義の下に集う志士です。負けるはずがありません。
       僕たち新撰組は、この国に住むすべての人たちのためにも勝たなくてはならないんです。
       だから、今のうちからいざというときのために備えておかなくては!!
       ・・・って聞いてますか?
 斎藤   聞いとらんな。
 沖田   もう・・・どうしてあなた方はいつもそうなんですか。
       話し掛けてきたのは、永倉さん、あなたの方でしょう?
       人の話は最後まで聞くのが礼儀ではないんですか?
 永倉   え・・・いやぁ、聞いてたよな?原田。
 原田   あ・・・あぁ、聞いてた聞いてた。
       「誠」だっけか。副長のおかげでもう耳タコなんだよなぁ、それ。

       土方登場

 土方   原田、そんなこと言うもんじゃないぞ。
 永倉   げっ!!副長・・・。
 土方   「誠」こそが俺たちの生きる意味。「誠」こそが俺たちの正義の証。
       俺たちが「誠」を捨ててしまえば、新撰組は最強でなくなり、正義でなくなる。
       そのとき俺たちを待ってるものは、悪という名と死のみだ。
       だから・・・
 斎藤   だから、俺たちは常に「誠」を持っていなければならない。
       人斬り集団とさげすまれないためにも。自分自身の誇りを見失わないためにも。
       ・・・だよな?副長。
       原田じゃないが、こう会う度会う度言われるんじゃぁ、さすがにしつこいと思うぞ。
 永倉   そうですよぉ。今日だけでも三回は聞きましたよ、それ。
 沖田   いえ、四回です。土方さん、もしかして、何か悩み事でもあるんじゃないですか?

 原田   え?そうなんですか?副長。
       副長に悩みごとだなんて、天変地異の前触れか!?
 永倉   副長に悩み・・・似合わない・・・。
 原田、永倉   きゃぁ、おそろしいわ〜。
 土方  (咳払い)お前らにだけは、言われたくないんだがなぁ。
       まぁ、総司。心配してくれたのはありがたいんだが、別に悩み事なんかないさ。
       原田に永倉、残念だったな。
 沖田   ・・・そうですか。いや、僕の取り越し苦労だったみたいですね。
       それならいいんです。変なこと言ってしまってすみませんでした。
 土方   ところで、長州のやつらだが、その後何か変わった動きは?
 沖田   今のところ、目立った動きは見せていません。
       とりあえず、見張りの方はしっかりつけてあるので、
       何かあったらすぐに知らせてくるでしょう。
 土方   そうか。最近、小さな動きが目立っているからな。
       おそらくは近いうちに大きな動きを見せるはずだ。
       あちらさんはそこで全勢力をかけてくるだろう。
 原田   そうなると、少しやっかいですね。このごろでは、疲労で寝込む隊士が増えてきていますし、
       見回りをしている者たちにも、大分疲れが見られます。
       今仕掛けられたら、こちら側の被害も少なくはすまないでしょう。
       何か手をうたないと・・・。
 沖田   僕も原田さんの意見に賛成です。
       向こうにはもう後がありません。死ぬ気でかかってくるでしょう。
       死を考えた人間はこわい。何をしでかすかわからない。
 斎藤   死を見据えた人間は強くなる。本来以上の力を発揮することもある。
       向こうの出方を待つといった悠長なことは言ってられんな。
 永倉   先手必勝ってやつか。・・・どうします?副長。今晩か、あるいは、明晩にでも・・・。
 土方   いや、こちらから仕掛けるにはあまりにも情報が足りない。
       もうしばらくは様子を見ることにしよう。
       引き続き、見張りの方気を抜かないよう伝えてくれ。
       それから、隊士に何か精のつくものを食べさせて、労をねぎらってやってくれ。
       お前らもたまにはぱぁ〜っと騒いできたらどうだ?
       休息はとれるときにとっておいた方がいい。
 永倉   え?本当ですか?やったっ!!
       俺ねぇ、すきやきが食いたいなぁ。
 原田   俺は鍋だな。
 斎藤   ぞうすい・・・。
 沖田   土方さんも一緒に行きませんか?
 土方   俺か?俺はいいさ。お前らだけで行ってこい。万が一ってこともある。
       一人くらい屯所に残っておかないとな。
 沖田   何言ってるんです?一番疲れているのは土方さんでしょう?
       土方さんが残るというのなら、僕も残ります。
       万が一のとき、一人よりは二人の方が何かと心強いでしょう?
 永倉   ・・・あ〜あ、仕方ねぇなぁ。すきやきはあきらめるか。二人よりは三人ってね。
 斎藤   三人よりは四人だな。まぁ、ぞうすいなんて、いつでも食えるしな。
 原田   鍋、鍋・・・俺の鍋・・・。ごめんね、俺の鍋ちゃん。
       俺ってばもてるからぁ、皆俺がいないと寂しいって言うのよ。
 永倉   誰も言ってねぇよ。
 斎藤   むしろいない方が・・・。
 原田   何だよ、お前ら。別に照れることないんだぜ?
       いやぁ、もてる男は辛いなぁ。
 土方   お前ら、いいんだぞ、俺に遠慮なんぞしなくても。
 永倉   そう言われても・・・あとで恨まれても嫌だしなぁ。
 原田   そうそう。
 斎藤   人の好意は受け取っておくもんだ。
 沖田   いいじゃないですか、土方さん。ここで鍋でも作って皆でつつきましょうよ。
 土方   ・・・そうか。すまんな。
 原田   もしかして、鍋で決まり!?じゃ、俺早速買い出し言ってくるよ。永倉、行くぞ。
 永倉   あぁ?俺も行くの?
 原田   あったりまえだろ。お前が来なかったら誰が荷物運びするんだよ。

       永倉、原田退場

 土方   あいつらが戻ってくるまで、俺は、近藤さんと今後の対策について話し合ってくる。
 沖田   出来たら呼びに行きますね。近藤さんも誘っておいてください。
 土方   あぁ。わかった。

       土方退場

 沖田   さてと。僕らもヒマになっちゃいましたねぇ。あの二人が帰ってくるまで。
       そうだ。一局相手してくれませんか?

       沖田将棋を持ってくる

 斎藤   別に構わんが・・・。
       なぁ、沖田。さっきの話なんだが・・・。
 沖田   え?さっきの話って?
 斎藤   副長に悩み事があるとかないとかっていうあれだ。
 沖田   ・・・あぁ。あれは僕の勘違いだって土方さん言ってたじゃないですか。
       それがどうかしたんですか?
 斎藤   本当に勘違いだと思うか?
 沖田   え?
 斎藤   実は俺も最近副長の様子が気になっててな。
       俺はお前の勘違いではないと思ってる。
 沖田   ・・・そうですか。斎藤さんも気づいていたんですね。
 斎藤   あぁ。
 沖田   それなら、斎藤さんには言ってもいいのかな。
       ・・・土方さんって、まじめで一本気な人でしょう?
       自分が一度決めたことには決して妥協を許さない。
       だから、他人に厳しい。でも、何よりも自分に厳しい人なんです、あの人は。
       その分、すぐにわかっちゃうんですよねぇ。悩んでたりすると。
       目が曇ってるっていうのかなぁ。その上、態度に出ちゃうもんだから。
 斎藤   あぁ、無意識に同じ話題を繰り返すってやつか。
 沖田   その通りです。まさに今の状態なんですよねぇ。
 斎藤   ・・・副長は「誠」に自信が持てなくなっちまったのかもな。
 沖田   今まであの人は「誠」のためだけに生きてきたんです。
       もしそうなら、今とっても苦しんでると思うんです。
       なにか力になれればと思うんですけど・・・。王手!!
 斎藤   え・・・もう?強いんじゃん。
       ま、まぁ、こればっかりは副長が自分でどうにかするしかないんじゃないか?
       ところでさぁ、ちょっと待ってくれない?その王手・・・。
 沖田   嫌です。待ったなし。
 斎藤   そう言わずに、なぁ。頼むよ。
 沖田   勝負は勝負ですから。

       二人の言い合いが続くなか、暗転