「レボリューション」

テーマ「異能者」
お題「兵士」「変身」「羽」「魔」「血」「口紅」「異形」「荒野」


 PM11:20『ある清掃事務員』

 いつものように仕事を終えて、一杯引っ掛けた帰りのことだった。よれた背広を買い替えないとな、などと思いながら、歩きなれた道を歩む。今日は週末、金曜日。明日は休日、寝てられる。そういう思いがあったからだろうか、いつもより多く酒を飲んでしまった。
 しかしまあこれもお決まりのコースなのか。彼の足取りはややふらついているものの、とりあえず目的地には向かおうという意気込みが感じられる。もっとも、酔っ払いの意気込みなどたかが知れていて、いつもより足取りが遅いのはしようのないことだが。
 そんないい気分の彼の横を、一人の男が駆け抜けていこうとした。

「……ごめんよっ!?」

 後生大事そうにバッグを抱え、すぐ脇の小道から飛び出してきたにもかかわらず左右の確認もしないで走り続ける。まるで何かに追われる様なそぶりだったが、周りが余りにも暗すぎ、顔の方は一切分からない。
 男は声のおかげもあって男が急いでいること、そして周囲の様子を確認している暇がなさそうなことぐらいまでは理解できたが、それと体が同時に駆動するには深酒が過ぎた。
 避けようと体を横にどかすも、肩口が男の肩を、かすめる。

「おおっとおっ!? 気をつけろばーろーっ!」

 酔った勢いも手伝ってか、大声でまくし立てる。それで大分気分が良くなったのか、よろけた体を補正して再び歩き出そうとし。
 その後ろからやってきたものと、目があった。

「あ、ああ、あ……。何だ、こんにゃろ……。体がでかけりゃえらいのか、ええ?」

 男の後からやってきたものは、自分の三倍は大きかったが、少なくとも人間には見えなかった。道がせまいとは言え、乗用車が一台進めるような道である、一人の人間が道を埋めるなどと言うことは考えにくい。
 何より、普通の人間と言うには、下半身が余りにも巨大だった。普通に考えれば、足が六本もあるようなものを人間と呼ばないことには普通気が回るだろうが、酔って気が大きくなっている手前、自分の目の前にいるのが常識を逸脱したものとは考え付かなかったのだ。
 時間にして、おおよそ三秒。それが彼の明暗を分けた。

「……オマエデハ、ナイ……」

 ぷしゅう、と。穴から蒸気が吹き出るような音と共に、たどたとしい声音が頭上から降ってくる。ついでとばかりに六本ある足の一つが振り上げられた時、男はようやく、そこで自分に降りかかろうとしていることを知った。

「あ、ああ、ああああああーっ!?」

 絶叫が、夜のしじまを引き裂いていった。


 PM11:40『文月 漣』

 ようやく、あのがさがさと言う音が背後に消えた。それを自分の耳で確認すると、漣は大きくため息を吐いた。深く息を吸い込むと、全身に疲労が積み上がってゆく気がする。
 まだ、立ち止まれない。背後から来る声に怯え、立ち止まっての休憩など選ぶことが出来ず、全力疾走から歩きへとスピードを落とし、少し体を休ませることにした。
 しかし、何故自分なのだろう、とも思う。容姿は十人並だし、目もやや垂れ気味であんまり精悍とはいえない。唯一の自慢は後ろで束ねて尻尾にしている肩までの黒髪だが、これだって手入れすればそれなりのものは楽に手に入る。170後半の体格も骨ががっしりしているせいでスマートとは言い難く、むしろ筋骨隆々とした印象を与えて今の流行からは逸脱している。そもそも、こんな時間に男を追い掛け回すなんてことがありえない。
 辺りを見回してみると、メインストリートから遠く離れた、どこかの路地裏のようだった。偶然見つけた標識を見ると自宅の近所であることは分かるのだが、見覚えもない場所なのは変わらない。近所だろうが荒野のど真ん中だろうが、帰り道が分からなければ一緒である。
 脇腹が痛い。肺が悲鳴を上げている。出来ることならばこの場にくずおれて休息を貪りたいところだが、それをしてはいけないと心の奥で何かが警報を発していた。
 まだ、油断は出来ない。確かにそうなのだが、いい加減体のほうは限界に来ていた。これ以上走るのは物理的に無理であろう。へたり込むよりは、歩いてでも逃げ続ける方がましだ。

「何で……。こんな目に……」

 自問するも、明確な答えなど返ってこない。手がかりになることを何か覚えてないか、と歩きながら記憶をめぐらせているうち、ある事に気が付いた。
 今日は朝からシフトの都合でバイトがあって、昼に家に戻ってカレーを食べて、三時ぐらいに大学から呼び出しがあって、それから……。
 その辺りで、違和感があった。

「記憶が、欠けている……?」

 声に出してみると、はっきりする。自分が何かをしているはずなのに、何故か三時から先の記憶が消えていた。普段なら気にも留めないことだが、今回は特別だ。
 何せ三時に呼び出しがあって、家を出てからすぐに記憶がとぎれ、次の記憶といえばすでに走っている状態だった。後ろからは奇妙な物音が聞こえるし、耳をつんざくような悲鳴までもが聞こえてきたので考える余裕もなく走っていたものの、一体何がどうなったのだろう。
 とりあえず一応は落ち着ける状況にもなったので、それを考えてみることにする。三時頃の自分と、今と何が違うのか。取り敢えず、身なりから確認してみた。
 ややよれ気味のズボンに、ハイネックのシャツとベスト。手には途中で放棄したらしい手袋とマフラー。ポケットの中には財布と携帯電話に家の鍵、そして、ナップザック。見える範囲の私物に問題はない、と頷きかけた辺りで、手の中にある違和感の正体に気が付いた。
 こんなもの、出てゆくときには持ってなかった。少なくとも、防災かばんに使うような防水・断熱材で作られたナップザックなど、普通の家庭でお目にかかれるような代物ではない。
 とりあえずそっと開いてみると、中には無数の小瓶、そして魔法瓶と思しき水筒。手にとって軽く振ってみると、どうやらまだ中身は入っているようだ。ちゃぷちゃぷと言う音が聞こえたのを確認してから、再び頭をひねった。
 何故、俺はこんなものを持っているのだろう。ひとしきり考えるために立ち止まり、結果としてそれが、彼を救った。
 背後から、何かが飛んでくる。それは今まさに足を踏み出さんとした彼の目前に落ち、数度バウンドして周囲に赤黒いものを撒く。周囲にも撒かれ、顔にもかかったらしいそれを指でぬぐうと、その赤黒さと鉄サビのようなにおいに、思わず気が遠くなりかける。
 それが血である、と言うことを頭が認識するのにしばらくかかった。

「これは……っ!?」

 現実離れした状況にくらくらする頭を押さえながら、とりあえず降ってきたものを確認する。
 何らかの荷物に見えたそれは、どこかで見たことがあるような人影だった。目は驚愕に大きく見開かれ、口にはまるで紅でも差すかのように血が塗られており、なおかつ左胸の辺りに綺麗な穴が開いている。本来ならば急所を防御するはずの肋骨すら、綺麗にへし折られて。
 どう見ても、生きているようには見えなかった。

「ミツ、ケタ」

 不意に、先程まで聞こえていなかった妙な物音が、聞こえた。どこか乾いた物音と、筒から空気が噴出すような排気音。あまりにも近くで聞こえたため、振り返ることさえ忘れ背筋が震える。ようやく振り返った彼の眼に、信じられないものが飛び込んできた。
 大きさにして、大体六メートルぐらいの下半身。カブトムシの甲羅に似た外骨格は何色かに分かれているらしいが、うすぼけた街灯の下で見るそれは黄色と黒ぐらいの見分けしかつかない。見た感じを一言で形容すれば、縮尺を軽自動車サイズに巨大化した蜘蛛。その頭に当たる部分から、鎧を着込んだような人の上半身が生えていた。
 蜘蛛と人が混ざった魔物。漣が最初に抱いた感想はそれだった。

「セルヲ、ヨコセ」

 人とはどう頑張っても形容できないそれが、たどたどしい日本語で話しかけてくる。
 まあ、人の上半身が移植されているのだから人間の言葉は話せるよな、とかどうでもいいことを考えられるのも、ひとえに恐怖を感じる部分が麻痺しているからに過ぎない。気を失わないのは幸運とも、また不運ともいえた。
 このまま死ぬのはごめんだが、こんなものを直視し続けるのも辛い。そういう気持ちが現れてか、声が乾いてひび割れた。

「せ、セル……? 何のことだよ!?」
「オマエガ、モチダシタ。ソレヲヨコセ!」

 たどたどしい言葉での宣言。巨大人間蜘蛛はそう告げると、おもむろに足の一本を振り上げ、横なぎに振り払った。がつん、とひどい衝撃が漣の体を襲い、なす術もなく真横に吹っ飛ばされる。
 そのまま体が壁に叩きつけられると、ぎしり、と全身が痛んだ。振り返る巨大蜘蛛の動きが、やけにスローモーションに見える。死に瀕するとそんな風になる、とか言うアクション映画か何かで仕入れた知識を、漣はおぼろげながらに思い出した。

(殺される……!?)

 体の奥から、恐怖に支配された時。どくん、とどこかでありえない音が、聞こえた。


 PM10:30『……ここではないどこか』

 ふいに、思考がクリアになった。今まで動かなかった体が、動くようになる。別にどこか拘束されていたわけではないのに、今まで全身が動かなかった。

 ――気が付いたかね?
「……ああ。けど、あんたは誰なんだ!?」

 どこかから聞こえてきた声に、苛立たしげに返す。男はそこで、自分が文月 漣であると言うことに気が付いた。今まで忘れていた事なのだが、思い出したと同時に記憶が戻ってくる。
 こんなことは初めてなのに、何故かそれが当たり前であるかのように、感じた。

 ――今はそんなことを、気にしている場合ではあるまい。逃げたまえ。君が君でいるうちに。
「俺が、俺でいるうち……?」

 問い返す漣。だが、声はそれに答えない。よく見れば周囲に人影もなく、ただ自分のものである私物と、ナップザックが置かれていた。恐らくこれが自分のものなのだろうと納得して、それらを手にする。

 ――恐らく、これから君は、自分の常識が覆るような光景を目にするはずだ。そこで私は、君が一度だけその危機を乗り越えられるように、処置を施した。
「処置? 処置って何だよ!」

 苛立たしげに声を上げる漣。まあ、それも当然のことだ。いきなり訳の分からないところにつれてこられて、処置などされたとあっては。こんなことを許せるのは、よほどの聖人君子かのんき者ぐらいのものであろう。

 ――後は、君自身で決めたまえ。ヒントはそのナップザックにある。そして、君は思い出すはずだ。自分が、何をされたかを。君は……!

 そこまで告げられると、不意に声が消え。代わりに、妙な物音が聞こえてきた。乾いたものをこすり合わせるような物音と、妙な、排気音。
 漣はそれに深い恐怖を感じ、ともかく走り出した。背後で何か悲鳴のようなものが聞こえたが、考えている余裕などなかった。


 PM11:50『ヴァースド』

 一瞬、フラッシュバックした風景から現実に帰る。そこでふと、体が軽くなっている事に気付いた。同時に、無理やり詰め込まれた記憶が、せきを切ったように理解できるようになる。
 足を振り上げた巨大人間蜘蛛の一撃を、そのまま身をひねり、紙一重でやり過ごした。

「ナニッ!?」

 巨大人間蜘蛛の、驚愕する声が聞こえてくる。確かに、あれは普通の人間には何が起こったかもわからず、刺し貫かれるレベルだろう。肋骨を全てへし折られた、あの酔っ払いと同じように。
 しかし、全てを思い出した自分には、あんな攻撃などスローに過ぎた。その証拠とばかり、声を張り上げてやる。

「……生命体に人工的な進化を促す、ヴァース酵素をベースに合成された変異溶液フォトジェニック・セル……。確かに、外部にもれちゃあまずいよな……」

 変異酵素を体に摂取した生物は、例外なく高い生命力と、ある能力を会得する。
 自分のDNAをベースに、さまざまな状況を取り込み、進化する能力。恐らく、目の前にいる巨大蜘蛛は、人と蜘蛛が融合した存在なのだろう……。自分と同じ、種類の。

「キサマ……。キオクガ!」
「ああ、最悪の目覚めだよ……。ヴァースド・ソルジャー02、ダークスウィドウ!」

 からからと、瓦礫を払いのけて立ち上がる。声だけは漣であるが、もはやそれは漣であると言うべきではなかった。切れた雲間から覗く月が、その体を照らし出す。
 全身を暗緑色の外骨格で覆われてはいるものの、むき出しにされた筋肉が関節の駆動を助け、行動に一切の支障はなさそうである。全体的に鋭角の少ない、マッシブな体つき。全身鎧にも見えはするが、時々脈打つ筋肉と、カチカチとかみ合わされるカミキリムシのような鋭利な顎が、それが生身であることを周囲にアピールしていた。
 人型ではあるが、もはや人と言う事はできない。文字通りの異形となったそれは、ダークスウィドウと名づけたもう一つの異形に向き合った。

「シネ、プロト・ヴァースド!」

 ウィドウはそう言いざま、人間の両手を向けて白いものを打ち出す。プロトはそのまま横っ飛びに跳躍してかわし、白いものはそのまま壁とアスファルトに突き刺さった。しばらくして、じわり、と溶け出す。粘液状になったそれが繊維質を残していることから、その正体はおのずと知れた。

「超高出力の蜘蛛糸か……。なら!」

 プロトは声を上げつつ、アスファルトを踏み砕きながら接近。そのまま勢いを殺さずに肘打ちを繰り出す。がつ、と鈍い音を立ててウィドウの胸板に突き刺さる肘ではあるが、尋常ならざる体格差からかたいして効いたように見えない。

「ソノテイドカ!」

 お前の攻撃など効いていない、と言わんばかり。自信にあふれたウィドウの声と同時に、次々と前足による打撃が繰り出される。六本ある脚部のうち、二本の前足は三節に分かれており、しかも先端部が鋭い槍のようになっている。稼動域に問題はなく、振り回せば棍棒、突き出せば槍となる近接戦闘に便利なつくりになっていた。

「そんなものっ!」

 前から迫るそれを避けるプロト。確かに近距離でも戦えるようになってはいるが、基本的に突くか払うかの二つしかなく、しかも脚が長すぎるためにその軌道は案外読みやすい。接近戦ならば、プロトの方に分があった。突き出された左前足をもぐりこんで避け、右のパンチを胴体部に叩き込む。それでも効いたようなそぶりを見せず、ウィドウは右前足を上げ、そのまま串刺しにしようと脚を勢いよく振り下ろす。

「たっ!」

 その一撃を待っていたとばかり。わずかに身をそらして攻撃を避けると、プロトは大きく跳躍した。蜘蛛の下半身にいくら攻撃を仕掛けても無駄ならば、狙うところは自然一つしかない。そのまま、体をコマのようにひねって繰り出した右の飛び回し蹴りは、ウィドウの首を容赦なく捉えた。
 右足にジンとした痺れが走り、クリーンヒットしたことを確信する。
 だが、ウィドウの身体構造そのものが、人間のそれとは大きく異なっていた。

「……アマイ!」

 たどたどしい言葉で言いざま、放たれた前足の一打を受け、プロトは再び壁へと叩きつけられる。身を起こそうとしたところに、続けざまに蜘蛛糸が放たれた。瓦礫を叩きつけようと投げつけるも、糸は瓦礫を貫いて彼の両脇に突き刺さり、じわりと溶けてその身をからめとる。
 溶解していくそれは、強固な接着剤のように彼の体をその場に縫い付ける。溶けるのは物質化に耐えられないからではなく、対象の動きを効率よく止めるためである、とプロトはここで気付かされた。
 蜘蛛の糸には、獲物を逃がさないために張り付くものがある。それを仕掛けるのではなく噴射することで、相手へのダメージを加味した仕組みになっていた。

「くっ……。そおっ……!」
「ムダダ。ブソウノナイキサマニ、コノウィドウ・バスターハトケナイ!」

 何とか戒めを解こうともがくプロトにゆっくりと近寄りつつ、勝ち誇るような響きで声を上げるウィドウ。もし直撃を受ければ文字通りひとたまりもなく、たとえ外しても近距離にいれば動きを封じる。悦に入るのも理解できる、見事な武装ではある。
 だが、相手も同じもので進化していると言うことと、戦場ではすぐに止めを刺すべきだという真理。この二つを、勝利の悦楽に酔ったウィドウは忘れていた。

「武装なら、ある!」

 プロトはそう言いざま、自由に動く左手を伸ばし、右腕部に触れた。中ほどにあった突起を掴み、引っ張る。
 振り上げたウィドウの前足が、振り下ろされるのと、プロトが右手をわずかに振るのがまったくの同時。
 ほんの少しの静寂の後、振り下ろす動きそのままにウィドウの右前足が、吹き飛んだ。

「ギャアアアアアアアッ!?」

 たまらず叫びを上げるウィドウ。そのまま戒めを解き放ち、自分の武装を持ったプロトがもう一度右手を強く、振る。それだけで空気がえぐれ、左の前足が半ばほどから断ち切れた。
 プロトの武器、それは右腕にしまいこまれていた鞭だった。多節鞭のように筋肉と外骨格の組み合わせで構成されたそれはしなやかさと強さを併せ持ち、強度でいえばウィドウの足よりもはるかに強靭で、細かい動きが効いた。
 ウィドウの武器が遠距離なら、プロトの武器は明らかに近距離。しかも、鞭の速度は人が使っても、音速を超えることがあると言う。ならば、人を超えた力を持つ者が振るえば、どうなるか。

「これで、終わりだ!!」

 プロトはそう言いざま、まるで剣のようになった鞭を振り、目前にある人と蜘蛛の境目に容赦なく突き刺す。声にならないウィドウの悲鳴を聞きながら、プロトの多節弁は確実にその目的を実行した。打ち込まれた体内で、ある酵素を分泌する。
 鞭が引き抜かれると、ウィドウの体は恐るべき勢いで熱を上げ始めた。しゅうしゅうと体から上がる水蒸気は、体内にある水分が気化している証拠だ。

「コ、コレハ……。コラップス(死滅)!?」
「……消えろ」

 生物の遺伝子には、ダメージが深刻なとき、多くの場合は敢えて細胞を死滅させることで、組織全体の健全さを保とうとする。このとき変異を起こした細胞に対して「死滅せよ」という命令が成され、これに従いその細胞は死ぬ。それはどんな生物でも、強化された存在でも変らない。プロトは自分の武装であるその鞭から、対象の細胞を死滅させる命令を発生させる酵素を分泌することが出来るのだ。これが彼の能力にして最大の武器、『コラップス・アウト』であった。
 細胞死滅命令により全身の熱量処理が不可能になり、燃焼点を通過して燃えてゆくウィドウを振り返りもせず、そのままプロトは歩き出す。どこへとも知れぬ闇へと向かって。


 AM08:00『警視庁特命調査室報告書』

 今日未明、未確認と思しき生命体の消失跡を発見。
 周囲の破壊状況を調査するに、どうやら多数のUMA(未確認生命体)の戦闘があった模様。
 消失跡を調査したところ、人と蜘蛛と思しき生命体の合成物であると断定。同時に、ヴァース酵素と何らかの混合物も確認。
 これを現時点よりバイオ・ミキサー、略称VMと呼称し、事態の調査に乗り出すこととします。

 なお、この地点より200メートルほど離れた場所で、同種混合物と人間のものと思しき変異細胞を確認。
 これをネオ・ヒューマン、通称NHと一時的に呼称し、その行方を追跡することとします。

 警視庁特命調査室。

 なお、この資料は以後ブラックファイルとして扱い、外部に決して情報漏洩のないように。




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