五聖戦記エルファリア

第三章 その名は疾風<14>



「良い物を見せてもらったお礼に見せてやる。本物のGAMS乗りの戦い方って奴をな……!」
 啖呵を切ったその直後、フォーゼルはマシンを動かさなかった。最初にやった事はレーダーの起動。ファイアガンナーとリンクしてあるディスプレイとは別に、個別に搭載したレーダーを起動する。肉眼でもカメラアイでも見つからなかった探し物のために。
(ここのどこかに、奴はいる……!)
 レーダーを睨むその目には、ある種の確信があった。
 ここまで大規模な策を展開する以上、ギアスはどこかで指揮している。そして、功を焦るあいつのこと、何を使うか……!
 そして、それは容易に見つかった。地雷の海のすぐ外で、この前見た反応がある。
(見つけた!)
 探し物を見つけたフォーゼルは、すぐさまスロットルを倒した。音もなく、黒いGAMSが滑り出す、前へ!
《フォーゼル、なにやってる! そっちは地雷原の……》
「終わらせてくる! こんな馬鹿げた戦いを!」
 ジレットの通信に対して噛みつくように答えると、フォーゼルはさらに加速する。マシンガンで前の地面を掃射しながら、走る。風よりも、音よりも速いと思しき錯覚すら引き起こすほどに振り返らず、迷いすらなく!
「らああああああああああっ!」
 そして、地雷原の海に築いた安全地帯の一番端で。
 漆黒の影が、舞った。

「黒い、狼……!」
 地雷原の中央上空。地面を走る漆黒のGAMSを見やり、メルヴィはそう呟いた。彼の機体の名前を知っているわけではない。思いついたから、そう言うのが正しい。
 群れの中にあって己を見失う事無く、阻むものに対しては命をかけて戦う存在。牙を持ち、大地を雄雄しく駆ける、一匹の餓狼。
 メルヴィがフォーゼル=エリオンドと言う男から感じた印象は、間違いなくそれだった。
 普段は牙を隠し、群れの中に溶け込んでいるが。いざとなれば牙を剥き、己の敵を倒すことを辞する事は無い。彼の声が聞こえたGAMSは、文字通りそんな様相を見せながら大地を駆け抜ける。
 地雷の海の遥か先にたたずむ、一体のGAMSめがけて襲いかからんと。
(アレが司令官ってことね……)
 分かってしまえば、メルヴィのする事など一つしかなかった。自分が何物であるかなど、昔から知っている。
「人のお手柄横目で見てるのほど、暇なことって無いのよね……!」
 すぐさま、邪魔をしようと編隊を組んで襲いかかる空戦GAMSを、ローリングしながら次々に迎撃して見せる。鉄塊と化したGAMSの破片が地面に落ち、指向性地雷を作動させて豪快な爆発を引き起こす。
 今まであったはずの物。つまり地対空ミサイルの迎撃が無くなっている事に、彼女が気付くにはもう少し時間が必要だった。

 フォーゼルの顔が引きつっていた。無理も無い、ここは危険過ぎる地雷原の海の中なのである。
 1歩間違えれば信管を叩いてジ・エンド。そんな極限状態に限りなく近い戦場の中で、フォーゼルが目指すのは地対空ミサイルを装備し、砲台となっているGAMSたちの所だった。あらゆる角度に対抗するためばらばらに配置された彼らは、地雷原の中の“浮き石”と呼べる場所を形成している。
 そこをめがけて、フォーゼルは機体を走らせた。先程までの掃射で、道は作っている!
「邪魔なんだよ、お前らは……っ!」
 コクピット内部では僅かな声を上げる者が居る中、彼を覆う漆黒の鎧は右手を持ち上げ、カタールが唸りを上げて繰り出される。一機目が沈黙したのを見るや、そのまま拳をそこから最も近い敵の方に向けて突き出す。
 カタールの一撃を受けて空を舞ったGAMSの残骸は周囲にばら撒かれ、次々に周囲のクレイモアに反応。爆発の華を開かせる。
 その只中で、ただ一つだけ。破片の消し飛ばなかった場所があった。
 どんなGAMSであろうと、その場限りの消耗兵器にしたいわけではない。地対空ミサイル補充のため、そして機体の退避をするために作らざるをえなかった、外周への回避ルート……!
 ジレットが今も回しているレーダーを十分中心の構図として表示すれば、今自分が進むべき道がはっきりと見渡せた。そして、それに会わせるように。ミサイルポッドを水平発射状態にまで落とし、明らかに迎撃状態になったGAMSたちがフォーゼルに銃口を向ける。
「お前らは、どいていろ」
 フォーゼルがコクピットの中で声を上げたと同時、シヴァルツヴォルフが滑るように走り出す。退避路の大路に出るのと、数十体のGAMSたちがミサイルを発射するのは全く同時だった。すぐさまコクピットに警報が鳴り響き、暗いコクピットが警告の赤ランプで埋め尽くされる。
「……さあ、始めようか……。相棒!」
 フォーゼルはそう声を上げると、一つのレバーを倒した……!






続きを読む

書斎トップへ