五聖戦記エルファリア

第三章 その名は疾風<11>



 話は少し遡る。場所はベルスタッド空軍基地内部、時間は、ミドガルズオルムによる地雷発見直後。
「ギアス=ロシュタールは、我々空軍基地に多大なる“置き土産”を残していった」
 隊長がよく通る声で、基地内のカタパルトに集った全ての兵士たちに告げる。その表情は、怒りと緊張の為か硬く、作り物めいて見える。
「こちらに避難してきた戦艦“ミドガルズオルム”の発進時に於ける通信を傍受したところ、どうやらあいつらは基地周囲に御丁寧にも強烈な指向性地雷(クレイモア)を仕掛けたらしい。これでは、向こうに出ろと行っても出れないし、彼らを狙ってこの基地が被害を受ける可能性がある……。なにより、奴らは俺たち空軍を侮辱した!」
 隊長の言葉に、涌き上がる隊員たち。全員が全員、賛同の意を示すように。
 隊長たちの号令があっても、しばらく彼らは怒鳴り止まなかった。
「奴らはこちらの行為に寄る補修事業を無に返し、なにより補給ルートを地雷と言う方式で潰そうとしている! こちらとしても、最強の物を出さなくてはならない……。地に落とされた空軍の威信を、この一戦で回復する!」
 浪々とした号令の元、作業員たちが、兵士たちが命令を待つ。その中で、隊長は決定的とも言える言葉を、放った。
「これより、新型アームド・フライヤーの実験を執り行う! 目標はGAMS軍隊長、ギアス=ロシュタール!
パイロットには、メルヴィ=ラシュフォールが当たれ!」
 浪々とした号令が響くや否や。
『イエッサー!』
 基地全てから、賛同の言葉が投げかけられた。

 そして、時間が流れ。
《GAMSが無茶やらかしてるわね……。あたしたちの領域でさ》
 全方位に飛ばされる通信波。しかもチャンネルは暗号化により傍受を防ぐ事の無いオープン回線。唐突な発言者に、フォーゼル始めミドガルズオルムの面々。さらに指揮に当たっていたギアスさえも表情を変える。
「あたしたちの、領域……? お前はっ!?」
《空の上は、地面を動き回るGAMSのお呼びもつかない場所なのよ? そんな不細工な翼でのろのろ飛びまわられると、迷惑な訳》 
 思わず反応し、通信機に声を上げたフォーゼルに、悠然と応える通信の相手。
 真っ向から、自分の存在と通信内容をばら撒く為の通信。そして、その内容は今この場では明らかに挑発が過ぎた。空中戦を可能にしたGAMS部隊の前で、それを不細工と言い切ったのである。立派な啖呵だとは思うが、実力が伴っていなければただの空意地に過ぎない。
《だから、これから見せてあげる……。空の上の戦い方をね!》
 一方的とも言える通信の後、いきなり発着場が動く。攻撃の止まった地雷原の海の中で、フォーゼルは機体を通信の大元に向けた。
 この件に関しては沈黙を守るはずの、ベルスタッド空軍基地。そこから、銀の矢が浮上する。
「何だ、あれは……?」
 あまりと言えばあまりの光景に、フォーゼルは我が目を疑った。
 そこから舞いあがったのは、一機の戦闘機だった。いや、あれを“戦闘機”とカテゴライズして良いものか。
 全体的にはシャープな印象を受けるものの、ある程度独立稼動するらしい短い主翼と垂直尾翼。本来機動性能、旋廻性能を重視するために武装が犠牲になる戦闘機にあって、バルカンにミサイル、そしてカノン砲と思しき砲門と言う重武装に、さらに荷物を搭載する為のハードポイントと言う重武装ぶり。
 全体的に潰されたような印象を受けるためシルエットは普通の戦闘機とさほど変わり映えは無いが、注意深く見れば見るほど我が目を疑う、そんな戦闘用マシンだった。
《アームド・フライヤー『シルフィード』……。その力を思い知りなさい!》
 啖呵を切ったその声に、フォーゼルは思わず我が目を疑った。

「こちらメルヴィ。パワー値、エンジン共に良好。これより飛行、並びに戦闘テストを行います」
 通信士にしっかりと連絡し、真っ直ぐレーダーを見る。今までの機体では積めなかった、ステルスすら見ぬく特殊な物だ。
 GAMSはあらゆるマシンの良所を受け入れて成功したマシンだが、以外にもそこで培われた技術をフィードバックした例は少ない。
 地上をかなりの速度で駆動し、マニピュレーターの採用によって多彩な道具の使用が可能。さらにパーツごとの整備も容易とあれば、世の流れがそちらになびかない方がおかしい。
 しかし、万能選手であるが故に、一つに特化した機体が無いのも特徴だ。
 シヴァルツヴォルフのような機動力、ファイアガンナーのような火力を重視したマシンが出始めているとは言え、世間の主流は汎用マシン。なんでも出来るが故に何も出来ない、それがメルヴィの、GAMSに対する正直な感想だった。
 そして、そんな“何も出来ないでくの棒”が、自分立ちの領域である空を侵している……。彼女にとって、それは許しがたい事だったのである。
「さあ、行くわよ……。空軍の戦い方を教えてあげる」
 狭いコクピットの中で、メルヴィは大きな啖呵を切った。





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