五聖戦記エルファリア

第三章 その名は疾風<11>



「空飛ぶ、GAMS……。いつかは来るんじゃないかとは思ってたけどさ……!」
 ギアスの立てた計画の念密さに、改めてフォーゼルはコクピット内で頭を抱える。してやられた、それが一番正しい反応だった。
 地面には地雷の海、そして空から攻めて来る空戦GAMS。地上のターゲットを地雷で脚止めしておいて、それを空中からしとめると言う二段構えの計画が、ギアスの作戦だったのだ。
 およそ、上方からの攻撃と言うのは戦闘に応じて有利である。上からなら防御の薄い場所などが一目瞭然である上に、高度が高過ぎれば地上からは察知されない。戦術の組み立てが容易である上に、この地上に重力と言うものがある以上、最悪墜落する事でその身を弾丸の如く使う事さえ可能である。当然、上方からの攻撃に備えると言う思考もあるにはあるが、それはあくまでも戦艦クラスの話。地上限定使用と言う目的で制作され、なおかつ戦闘機の攻撃ではびくともしないほどの安定性と装甲を持つGAMSは、当然対GAMS用の強化はされたが、他の、特に対空性能はおざなりにしてきた感がある。そこを突いた、見事な策略だった。
「けど、こっちも簡単に負けるわけには行かないんだよな……っ!」
 飛行反応に向けて、すぐさまイクシードの狙撃銃が、ファイアガンナーのレールカノンが火を吹く。フォーゼルが呆然としていた一瞬の事だったが、それだけにその攻撃を見た彼は思い直す。
(相手はただ、飛んでるだけだ……! それに、でっかい爆撃機って可能性もまだ棄てられるわけじゃない……!)
 言い聞かせる様にそう思うと、不思議と気分が楽になった。発想の転換と言うのは中々面白いものである。しかしシヴァルツヴォルフに装備されている兵装は対GAMS用、とりわけ白兵戦をメインとしたセッティングである。空中にいるものを相手にするには流石に荷が重い。
(ジレットたちに任せるしか無いか……)
 そう思ったフォーゼルの視線が、地雷用のレーダーに向かう。ふと気が突いて、フォーゼルは飛行編隊とそれの位置を確かめる。
 瞬間、彼の顔に笑みが閃いた。

 ギアスは、今回の作戦に付いて絶対の自信があった。
 技術部から無理を行ってビーゼルクのWタイプ、つまり空戦仕様のプロトタイプを借り受け、それを量産すると言う暴挙をやってのけたのだ。
 指向性地雷を大量に仕掛けたのも、プロトタイプを無理やり量産したのも、全ては中立地域に行く前にミドガルズオルムを破壊しようとする自らの意思が招いた事。それだけの無理を通したものであるために、今回の作戦は完全が期され、すぐにでもミドガルズオルムは落ちるはずだ。
「さあ、空戦GAMS部隊を相手に……っ!?」
 絶対の勝利を確信していたギアスの目に、とんでもない光景が現れる。
 それは地上から空戦GAMS部隊を阻むべく立ち上がる、指向性地雷の牙だった。

 フォーゼルが見たもの、それは高度計だった。いかに空戦GAMSとは言えど、あれだけの巨体、死かも人型を持ち上げるのはかなりの無理を有する。それだけに、その高度はかなり低くなるはずだ。
 そして、最初何故空戦部隊が来なかったのか。もちろん戦艦の対空装備の事もあるのだろうが、それ以上に地上に仕掛けられた指向性地雷の事があるのだろう。
 高度が低ければ、真上に向けられた地雷の牙が、部隊に何らかの影響を及ぼすのは確かな事。それに賭け、フォーゼルは部隊の目前にある指向性地雷を破壊し、爆発を起こして対空砲の代わりに仕立てたのである。
(しかし、効率は悪いな……)
 コクピットの中で苦笑するしかないフォーゼル。空中戦が出来るとは言え所詮GAMS、GAMSで戦える道理なのは分かる。しかし、相手が空にいると言うだけでここまで戦えないとは……。
《敵編隊三つ、狙撃可能領域通過!》
《思ったより装甲厚い……。そっち行くぞ!》
 巴とジレットの声を聞き、フォーゼルは自分の足場を再度確認した。情報から攻撃が来る以上、逃げるための足場は多い方が良いのだが、今の状態はお世辞にも広いとは言えない。
 そもそも、攻撃が届く事さえないのだ。出来る事と言えば避ける事か、自棄の様に指向性地雷を破壊しての対空攻撃……。
(中々にハードだな……)
 苦笑を浮かべるフォーゼル。そして、レーダーに空戦部隊の姿が認められる。すぐさま、矢のように銃弾の雨が降る。空は、危険物反応で赤く染まった。
「……いきなりかよっ!」
 愚痴をこぼしながらも機体を制御し、次々に迫る攻撃を避けるフォーゼル。地雷の内側に作られた小さな舞台の中を、黒き狼は雨のように迫る空対地攻撃を避け続けていた。
「避けるので手一杯、攻撃は無理……。さて、どうするかね……」
 フォーゼルが乾いた笑いをこぼしながらも機体を必死に動かす。そんな、時だった。
《GAMSが無茶やらかしてるわね……。あたしたちの領域でさ》
 全領域に向かって放射された、一つの通信を受信したのは。




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