五聖戦記エルファリア

第三章 その名は疾風<10>



 タスクの命令が出るまでは、それぞれGAMSの中でスタンバイしていたフォーゼルたちは、今までの戦術形態から簡素なフォーメーションを試作、それに応じた装備のチェック中だった。(ちなみに、立案したのは巴、実際にデータ集計したのはカスミである)
「ったく、人使いが荒いって言うか何て言うか……」
 流石に作戦内容を聞いて、やれやれと肩をすくめるジレット。最も、今回の場合は彼のような反応が一番正しい。
《作戦を再確認する。お前たちの役回りはミドガルズオルムの機動ルートの確保。つまりは地雷除去だ。敵の長距離狙撃による作業妨害を考慮し、GAMSでの作業となる》
 気楽そうに言うタスクだが、やらせる事は無謀としか言い様が無い。
 実際、設置された対戦艦用指向性地雷を除去するには、専用の工作員を向かわせるのが常である。GAMSではそんな細かい作業は実質不可能に等しい。それで地雷を除去するには、ただ一つしか方法が無い。
 つまり、地雷そのものをピンポイント狙撃していく事。このために、ジレットのファイアガンナーには高性能の熱源レーダーを装備。その情報を常時味方に送信する事で地雷の位置を確認、狙撃して破壊すると言うなんとも無謀な作戦だった。いや、そもそも作戦と言える領域なのだろうか。
(こいつらは十分に強いけど、んなことマジにできるのかよ……)
 ため息をつきながら、黙々と作戦の準備を進めるジレット。
《出来るできないじゃなくて、やらなくちゃ道が無い。だったらやるしかないって事》
「わーってるよ、そのぐらいは!」
 フォーゼルに突っ込まれて、思わず声を上げる。そう、やるしかないのだ。改めてそれを確認する。
《作戦開始だ……! 健闘を祈る!》
 タスクの声が流れると同時。甲板で狙いを定めていたジレットたちのすぐ横を、漆黒の影が踊った。
 右肩にロゴデザインされた、銀色の狼のエンブレムが軌跡を残す。
「フォーゼル!」
 ジレットは思わず声を荒げ、彼が着地しそうなところを算出しようとレーダーの精度を強めた。

 我先にとばかりに飛び出したフォーゼルだったが、無論計算がないわけでは無い。ただ、それが実際に出来るかどうかが分からないだけ。
(まあ、なるようになるか……!)
 僅か苦笑を浮かべながら、天空を舞い踊るシヴァルツヴォルフ。その足元を、無数の弾丸が通過し、土煙に混じって爆発音が木霊する。
《無茶な真似ばっかりするんじゃねえ! 足場は確保するから気張って来い!》
 オープンにしていた通信回線から、一気にまくし立てたようなジレットの声が木霊する。それに会わせ、さらに単発の銃声と爆発音が等回起き、さらに行動範囲が広がっていった。通信で声などかけない巴が、彼を補佐しようと艦上から精密射撃を披露している。
(こりゃ、応えないとどうしようもないな……!)
 苦笑を浮かべ、レーダーをしっかりと見る。こちらが回避運動として普通のGAMSと戦うのに必要な大きさまでまだ少しある。それならば、とやや狭い方向に向かってマシンガンを正射して地雷を破壊し、距離を開きにかかる。
 そして、三人の努力の果てにぽっかりと地雷原に開いたエアポケットの中へと、シヴァルツヴォルフは吸い込まれる様に着地した。
 すぐさま、彼に向かって突っ込んでくる反応が多数。しかし、ややあって光が連続し、破壊を呼び。そのどれも、地雷にやられて消えて行く。
(本物の阿呆なのか、それともこれさえ布石か……!)
 コクピットの中で計器類をチェックしながら、フォーゼルは頭を抱えていた。

「地上部隊は当てにするなといっただろう!」
 グノフコマンドのコクピット内で、ギアスは頭を抱えた。
 今回は必勝を期した作戦のはずだった。ミドガルズオルムが入口前で止まったのも、彼らの寿命をほんの少し延ばすためのものになるはずであった。
 しかし、それはGAMSで地雷を迎撃すると言う不自然極まりない行動によってあっさりと覆され、地上部隊も数名が先走って地雷原の中に消えた。戦況は確実に悪化している。
(それもこれも、俺があいつらを舐め過ぎていたせいなのか……?)
 もはや、手段を選んでいる暇などない。その覚悟がギアスに、切り札の使用を決定付けた。

 それを一番最初に見つけたのが、ジレットのレーダーだった。
《高速飛行物体多数、反応あり。これから迎撃する!》
  そのままガトリングガンでは無くレールガンに装備を切り替え、飛行物体が来ると思しき方向に狙いを定める。スナイピングスコープを覗いて照準を合わせていたジレットは、その瞬間僅かな笑いをこぼした。可笑しいのではなく、信じられないと言いたげな苦笑。
《何だよ、ありゃあ……》
 思わずボヤキが出る。その声はコクピットで相手の出方を伺っていフォーゼルにも聞こえて。
「ジレット! どうした?」
 通信機に向かって声を上げるフォーゼルに、ジレットはターゲットサイトから得た情報を、レーダーの代わりに表示して見せる。次の瞬間、フォーゼルの顔も固まった。
 そう、空を切り裂き、今まさに飛んでくる『高速飛行物体』とは……!
「空飛ぶ、GAMSだとでも言うのか……?」
 引きつった笑い顔のまま、フォーゼルは静かに呟いた。




続きを読む

書斎トップへ