五聖戦記エルファリア

第二章 風と炎の刺客<12>


『ブルーリーダー、戦線を突破。”大蛇”に接近する』
《ブルーα、了解》
《ブルーβ、了解》
 定時連絡を繰り返しながら、一小隊がフォーゼルと巴、二人の奮戦する主戦場を突破する。いくら相手の戦艦が能力を持っていたとしても、機動力と言う武器を身につけたGAMSには勝てる理由が無い。
 そんな理由からか、GAMSの絡んだ戦闘ではいかに戦場を抜け、相手の母艦を落せるかに勝敗がかかっている。戦闘の役には立たなくても、母艦が落ちれば士気も落ちるし混乱も出る。そこを狙えば、大概の戦闘には決着がついてしまうものなのだ。
『さあ、そろそろ今日のディナーが……』
 隊長の口調に余裕すら見え始めた時、彼らは気が付いた。
 今まで何も無かったミドガルズオルムの艦橋に、何かが乗っている……?
 それに気がついた次の瞬間、隊長機の右に構えていた偵察機が爆発、四散した。唐突に起こった事態に混乱しかけ、思わず自機を後退させる隊長。しかし、その動作はあまりにも遅かった。
「何だ、これは……? 何故、戦艦の砲撃がこんなに速い……?」
 装甲を叩いていたのは、艦載の大口径バルカン。それが次々に装甲に突き刺さり、隊長の表情も固まる。そして、後退の間に装甲は限界に達した。
 戦艦の砲塔に、何故あんな旋回性能が。
 それが、彼の考えた最後の事だった。

「さあ、かかって来やがれえっ!」
 コクピットの中で、挑発的に吼えるジレット。すでにこちらに迫る敵機の割り出しは済んでいる。後は、相手がこちらの射程圏内に入って来るのを待つばかりなのだ。
 突き進んでくる小隊は、ここからは丸見えになっている。まず小手調べとばかりに、戦艦に搭載予定だった大口径のバルカン砲(手持ち火器としても使用可能にしてあった)を構え、小隊の先頭に撃ち込む。続けざまに装甲を叩くバルカン砲は、綺麗な鏃形を描く小隊の内二機を破砕。
「他愛も無い……! じゃ、次に行こうかっ!」
 ロクに狙いもつけられないバルカン砲でここまでやれた事に気を良くし、ジレットは機体の肩に装備したバズーカ砲の準備を進める。磁気でもって弾頭を飛ばすと言う珍しいタイプのそれを構え、混乱をきたした敵小隊に次々と叩き込む。
 古来より、戦闘はいかに相手の裏をかくかにかかっている。つまり策略なのだが、東の取った物量作戦に対し、こちらは予想外の実力を持つエースで対応すると言う構図に落ち付いていた。
 少し考えればそれほどの実力者の存在など容易に割出せるのだろうが、数が生み出した慢心が彼らの危機管理を鈍らせ、それが今の状態を招いていた。
 もっとも、それは余裕の表情で敵を屠るジレットにも言える事である。彼がちょっとした異変に気がついたのは、上機嫌でバズーカを使い、敵の七機目を倒したあたりの事だった。
「……にしても、妙に熱いな……」
 額の汗をぬぐいながら、照準装置に目をこらすジレット。その横で、赤ランプが点灯しているのにはさすがの彼にも気が付いた。
「熱量過多……? オーバーヒートかよ! 何でこんなに早いんだ!」
 唐突にやって来た緊急事態に頭を抱えるジレット。機体動作に簡単にストップがかかってしまうオーバーヒートを容易に起こしてしまうのがこのマシンの欠点だと、工場長には言われていた。
 その対策に、足を止めての攻撃に当たっていたと言うのに……。
「何だ、何が原因だあっ!?」
 マシンの様子を観察するジレット。少しして、その原因はあっさりと見つかった。
「余剰エネルギー率……。88%……?」
 GAMSには、多くのエネルギーを使う。しかし、動力炉から得られるエネルギーを全て使い切ろうとすればとっさの際のフルドライブが出来ないばかりか、駆動時間が短くなりすぎてしまう。それを防ぐために、全開ですぐに動けるようにエネルギーを蓄える安全装置のような機構が装備されているのが常道だ。
 だが、新機軸のエンジンは、現行最大のエネルギータンクをも容易に一杯にしてしまうらしい。そして、たまったエネルギーは熱量だけを放出する……。
「どうすりゃ良いんだよ……」
 赤ランプの回るコックピットで、ジレットは途方にくれた。

「ったく、量が多すぎるっての!」
 一方、前線ではまだフォーゼルたちは沈んでいなかった。もっとも、フォーゼルも巴も携帯火器を撃ち切り、白兵戦のみと言う情けない構図になってしまっている。
《まだ数は……!》
 巴の声が聞こえるか聞こえないか。そんなところで異変に気がつく。
 こちらに向かってくるGAMSがいる。反応は赤で、一つ。
「何、だ……?」
 コクピット内で不信の声上げるフォーゼルに、答えはすぐに出た。
 熱源体、接近。慌てて機体を切り返してその射線から外れる。少し後、光り輝く帯のようなものが今までシヴァルツヴォルフのいた場所を通り過ぎた。
「新型機……? まさか?」
 考えるより早く、体が動いた。スロットルを開け、その一点向かって突き進む。
 その横に追走する、巴。
「あれを叩く、援護頼む!」
《了解です!》
 すぐさま互いに意思を固め、時折来る砲撃のようなものを回避しながらそこに接近する。
「あれは……?」
 光源に接近し、フォーゼルの心に戦慄が走る。
 緑に塗られた大型砲を持つGAMSが、今まさにその一撃を放たんと、狙いを定めていた。


続きを読む

書斎トップへ