五聖戦記エルファリア

第ニ章 風と炎の刺客<10>


 時間は、少し前に遡る。場所は『東』の第七GAMS分隊基地。
「本当か?」
 追われていたに受けた未曾有の被害の処理に追われていたギアスは、報告を受けるなり机を蹴り倒さんばかりの勢いで立ちあがった。
「は、はい。報告によれば、それは間違いなくシヴァルツヴォルフだったと……」
 駆けこんで来た下士官はそう言うと、彼にビデオテープを差し出した。ギアスはそれを受け取り、机に備え付けられているデッキにセット。再生を始める。
 そこには、補給舞台を強襲する、ニ対のGAMSが写されていた。画面によれば一体はミフネの改良型、そして、もう一機は……!
「場所を割りだし、すぐに追討部隊を編成しろ!」
 檄を飛ばさんばかりの声で命令を告げられ、怯えたように下士官は出て行く。その表情を見て溜息をつくギアスではあったが、口の箸には笑みが浮かんでいた。
「見つかったのですか」
 いつの間にやら室内に入って生きていたアルファが、タスクにそう問い掛ける。文句を言おうにも、彼のほうが現在の階級は上だ。そうなると礼儀も何も無視出来るのが通例である。
「ああ。まずは第一戦と言った所だ」
 ギアスの顔に、楽しげな笑みが浮かぶ。
「……出るなら、グノフコマンドを使いたまえ。指揮官まで量産機では、様にならん」
 立ちあがったギアスに、アルファはそう告げる。それに対し、ギアスは腑に落ちないと言いたげな表情を浮かべる。
「……何故だ? 今回の戦闘は様子見……。次に、全精力を傾ける物だと聞いていたが」
 ギアスの問いに、アルファは相変わらずの涼やかな表情で、
「だからこそ、お前が専用機で出て行くのだ。能力云々より、指揮官の無い部隊など存在しない。そして、新型機投入と言う事実は、奴らに本格的戦闘の開始を予測させられる。あながち、外れてはいない」
 静かに告げるアルファ。
「何もかも、お前の計算通りと言うわけか……」
 話しながら準備を進めるギアスに、アルファはその美麗な顔を僅かにしかめて。
「後方舞台の手配はやっておく。お前は、ただ敵を殲滅する事を考えろ。今はな」
 と、冷ややかな声で告げる。あんまりと言えばあんまりな物言いに、ギアスはただ苦笑を浮かべながら部屋を出て行く他になかった。

 黒い機体が、戦場を駆け巡る。反重力ブースターとホバー移動によって。
「これで……もう一体!」
 言いざま、素晴らしい勢いで距離を詰める。マシンガンを構えたビーゼルクの胸をカタールがえぐり取ったのは、次の瞬間の事だった。
「これで2小隊か……? 全く、ある程度の物量差には目をつぶらなければならないとは言え……」
 苦笑しつつ、敵影をレーダーで探る。味方の表示は自分以外は二つ。それに対し、もはや真っ赤とでも言わんばかりの敵影である。
「この敵影は……。冗談としか思えねえ……」
 苦笑混じりにぼやくフォーゼル。そして、忘れないように通信機に向かって声をあげる。
「巴! もうニ小隊ほど追加だ……。行けるか?」
 うんざりしきった、と言うべき声で、通信機に呼びかける。
《……また、ですか? これで蹴散らした分と合わせて六小隊はいますね……》
 巴の声も、ややくたびれたと言う響きが混じっていた。さすがに二人で愚痴を言い合っているから疲れは減っているとは言え、量が量である。疲れが回り始めても不思議ではない。
「物量作戦は卑怯だよな……」
《最も有効な手段なのは認めますが、性根は正しくないと言うのは確かですね》
 反乱軍の方に常備してあるGAMSは、そのほとんどが修理中で使えるような状態ではなく、パイロットも未成熟である。故に、一部の手馴れたパイロットが頑張っているのが現状だ。実際、巴もその一人である。
 フォーゼルの加入は反乱軍にとってかなりの有効打ではあったが、いかんせんそれでも大国を相手にするには数が足りない。いくら強い人材が揃っていても、数の暴力と言うものはかなり強烈なのだ。いや、フォーゼルたちは良く耐えていると言えるだろう。しかし、そんな体勢にも限界は来る。
 レーダーは、絶望的な数字を叩き出した。
「もう一小隊? まずい!」
 思わず、コクピット内で声を上げるフォーゼル。押さえられても、自分たちでは一小隊がせいぜいだ。
 ミドガルズオルムには対した火器はない。つまり、これを通したら、負ける……!
《もう一つ相手は……。無理ですよね?》
「残念ながら」
 どうやら、巴も同じ考えに至ったらしい。簡素な問答には、同じ意味合いの響きがあった。
 絶体絶命、と言う奴である。

 その頃、そんなレーダー上のことはしっかりとミドガルズオルムに届いていた。薄情とかそういうのではなく、レーダーの性能が違いすぎるのだ。
「まずいな……。戦力が無い……」
 レーダーを見据えながら、タスクがぼやいた。なんて事は無い、戦力はいても、乗る奴がいないのだ。他の平氏はフォーゼルとの戦闘の際に怪我してしまっているし、かと言って自分が出れば……。
 そんな事を考えていると、ふと室内灯が一瞬だけ消え、代わりに灯るのは赤ランプ。
《ちょっと待ったあ! ここは、俺が行ってやるぜ!》
 どこからか、妙に陽気な通信が環境にこだました……。


続きを読む

書斎トップへ