五聖戦記エルファリア

第一章 真実と正義<2>


 フォーゼルが所属する4th.eastGAMS部隊の新型機実験施設。過去の地名からアサマベースと呼ばれる、中規模の軍事施設である。
「ふあああああ……。暇だなあ……」
 そろそろ30歳に届きそうな兵士が、管制塔で欠伸をしていた。本来なら見張りなどいらないのだが、体裁上兵士たちが交代で立つことになっている。
 今まで何も起こらなかったため、彼を始め全ての兵士たちに油断があったのだろう。見張りが眠気と真剣に戦う構図は、中々おかしい物があるがそれ以上に物騒である。
 腹も減ったし食事でも、と立ち上がった兵士の目が、偶然レーダーを見る。そこに写った赤い点を目撃した瞬間、反射的に手が警報スイッチを押す。
 その直後、管制塔にめり込んだ砲弾が、彼ごと管制塔を崩壊させた。

《敵GAMS、数にしておよそ五機! 武装は……! うわぁぁぁぁぁっ!》
 前線で戦っていた兵士からの連絡が、それきり途絶える。八割ほど整備の済んだ機体のコクピットで、ギアスは歯噛みしていた。
 トライアルにも使っていた、ビーゼルクのカスタムタイプ。部隊長用に全能力が強化してある分、整備にも多少手間がかかる。それが、こんな所で響くとは……。
(新人兵士では、一対一の戦いは無理だ……。早く行かねば、奴らにあれを持って行かれる……)
 火器の最終チェックのために動こうにも動けない自分の現状に歯噛みしながら、レーダーを見つめる。一方的なそれに、ちょっとした変化が起こっていた。
 南にあるトライアル用機体が置いてあったドッグから、味方の識別反応が戦場に向かっている。C型にしては、移動速度が速すぎる。
「F型? ……奴かっ!」
 現状を変えようとする存在の正体を知り、ギアスはコンソールを叩いた。
「ビーゼルクC型1小隊の出撃準備を急げ。装備は何でも構わん」
 通信用のマイクを下げ、技術藩に命令を下す。その時にはもう、彼の顔から感情は読めない。
「攻撃目標は潜入してきたテロリスト……。並びに軍規違反者だ」
 そう告げる声も、冷え切っていた。

 ――作戦領域オーバー。速やかに帰還せよ――
 ――任務不明。待機し、任務内容転送を待て――
 ――警告、軍規に違反している。速やかに機体を停止せよ――
 狭いコクピットの中には、様々な音と光が満ちていた。
 どういじっても止める事の出来ない警告の赤ランプを無視し、スピーカーのスイッチを切っても流れてくる嫌味ったらしい警告音の群れを聞き流し、フォーゼルはビーゼルクを走らせる。
「……見えた!」
 基地の横を走り抜けるようにして戦場を目指していたビーゼルクのカメラが、ミサイルか何かを受けて崩壊した管制塔の残骸をとらえる。その後方には、両肩に楯のような板を取り付けたGAMSが見えた。
 汎用量産型GAMSミフネ。最近はテロリストなども良く使うベストセラー機。それぞれ違う武器で武装し、役割分担をきっちりとこなしている。
 武器の状態を確認する。高周波ブレードのスイッチは入っておらず、腰にマウントしたマシンガンにはペイント弾ではなく実弾。確実に、相手を破壊するための装備。
「そちらがそう来るのなら……。破壊するまで!」
 覚悟を決め、フォーゼルは高周波ブレードのスイッチを入れる。全武装の火器管制が解除されると、捉えていたミフネが手のライフルを構える。
 一発だけ撃たれた弾丸を右に避けると、左手に持たせたマシンガンが唸る。不安定な状態だったにも関わらず、弾丸はミフネの胴体にめり込み……。
 動力炉の爆発が、ミフネの右半身をふっ飛ばした。戦闘のせいで壊れかけていた施設を吹き飛ばし、破片が雨あられのように周囲に降り注ぐ。
 支えを失った左側がゆっくりと地面に崩れ落ちるまで、フォーゼルはその場から動けなかった。
(胴体はまずい。下手にやったらこの基地ごと吹っ飛ぶ……。何とかして、敵を無力化しないと……)
 盛大な爆発が、逆に彼の頭を冷やした。程なく、レーダーの方が新たな敵影を捉える。今度の相手は基地に近い。爆発させたらそれこそ大参事を引き起こす。
 それ以上考えている時間など、彼に残されてはいなかった。こちらを見つけたらしいミフネの一体が、肩に装備していたミサイルを発射してくる。乱数回避を発動しながら、記憶をたどる。
(ミフネの装備するミサイルは、ホーミング性が弱い……。ならばっ!)
 おぼろげな記憶が、彼の行動を決めた。回避されたのを見て取り第二射をかけようとする敵機に向け、マシンガンを放つ。
 弾丸は左肩のミサイルポッドに命中。残っていたミサイルが爆発し、機体がバランスを崩す。その隙をついて横を走り抜けるビーゼルク。バーニアをふかしてジャンプしつつ、マシンガンで左肩を射貫く。何も出来なくなった敵機を尻目に、空中から敵チームの様子を確認する。
 空中から見る限り、大将格らしいグレイブ持ちに、ライフルを持った奴が2機。さらには、C型に切りかかるブレード装備の機体。
 あれほど響いていた警告音が、いつの間にやら消えていた。
「下がってろ! スピードのないC型じゃ、接近戦は辛い!」
 通信機のコンソールを下げてそう告げると、ブレード持ちのミフネをマシンガンで牽制する。追い込まれていたC型が後退するのを見て取り、右足のホバーのみを使って反転。
 目的は、ライフル持ちのミフネ。近い方に向かって全力で接近する。まるで瞬間移動するかのような、急加速。
 それに気が付いたミフネが、ライフルを構えるより速く。すれ違いざまに走った高周波ブレードが、ミフネの首を跳ね飛ばした。
 加速はそのままに、グレイブ持ちのミフネに近寄る。右からの斬撃を受けとめるミフネ。受け流しながらの薙ぎ払いを、バックダッシュで回避する。
 追いかけて来るミフネの一撃を刃で流し、胴体に向けて剣を振るう。防御のために出されたグレイブの柄を叩き切り、追撃しようとした所で警報が鳴った。
 ――接近警報、注意せよ――
 一体何事か分からないながらも、乱数回避を開始する。一撃目のライフル弾を回避した所で、背部に衝撃が走った。
 衝撃を受けて動きが鈍っている間に、次から次へと弾丸が押し寄せる。
「な、何が……」
 フォーゼルはカメラを回し、そして見た。
 自分に向けて標準装備のキャノンやらマシンガンやらを撃ちまくる、ビーゼルクC型1小隊の姿を。
(そう言う事かよ、ギアス……)
 衝撃に体を揺さぶられながら、何とか脱出装置のレバーを引く。それを最後に、彼の意識は途絶えた……。



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