読後感想文

MMさん
(77歳 千葉県在住)

 この度は「くるめんあきんど物語」をお送りいただき有難うございました。興味深く読ませて頂きました。
 「まぼろしの久留米縞・小川トク伝」は、主人公の女の一生が淡々と語られており、徳川末期から明治維新へ、更に西南戦争と文明開化が進む歴史の時代の流れが上手に取り入れられていて、時代背景がよく解ります。
 私の母も機(はた)を織っていまして、我々子供の着物を作ってくれました。小さかった頃のことですが、傍で面白く興味深く眺めていたことを思い出しました。
 小川トクの生涯には、人の縁ということを強く感じます。トクの生まれはさいたま市の見沼区です。幼馴染の清吉の手引きで、息子の栄三郎を残して江戸に出て、久留米藩士の戸田覚左衛門屋敷に女中奉公にあがります。そして、大政奉還を機に角左衛門の母摂子、娘モト(1歳)を連れて久留米へとやってきたのです。
 久留米では、江戸屋敷で知り合ったb時計屋宗野末吉との再会します。末吉には倉田雲平を紹介されました。そして井上伝との出合い。何か運命的なものを感じます。そしてトクは、いろいろな人たちの助けを借りて、明治9年春「小川縞織商店」の設立し、久留米縞を売り出したのです。
 二度の結婚も長続きせず、男運のなさを嘆きます。久留米で恵まれた娘にも早死にされて、子供運にみ放されました。しかし、自分の仕事に励む女性は強いのです。文明開化が進展していく中で、久留米縞は強い人気で販売増加し、トクの人生の花が開きました。
久留米商人の雲平、末吉、庄平、喜次郎などの活躍、久留米商業学校の創設に伴い、次世代を担う青年たちの登場と、時代は進んでいきます。
 昭和40年頃、私は渋谷道玄坂にある久留米屋(絣屋)を訪ねたことがあります。久商の先輩岡本政七氏の店です。そこで岡本さんから、故石井光次郎さんや石橋正二郎さんが出席した久商久留米同窓会の話などお聞きしました。
 一世を風靡した久留米縞も、年老いたトクの手から離れると、彼女の心に望郷の念が強まります。30年間肉親以上の間柄だったシゲやウメ、お世話になった本村庄兵衛さんもこの世を去りました。
 孫の徳次郎の迎えに、トクは「大恩なるこの地に、何のお返しもしないまま去るなんて・・・。むかしばなしにあるじゃないか、月の世界からお迎えが来た」と、雲平にかぐや姫に自分を重ねて思いを伝えます。
 そして取材に来た新聞記者には、「帰る旅費も息子に出してもらい、久留米のお金を一文たりとも持ち出さない私を、金にきれいな女だと褒めて下さい」と思いを告げました。
 トクは、故郷宮ヶ谷塔へ帰ります。帰郷後、幼少の頃に亡くなった父母の墓前で泣き崩れたのです。
 息子の栄三郎ともすっかり打ち解けて静かな余生をおくりました。トクの一生は久留米縞の華々しさに比べ、有名でありながら二タ子織の地味さに似て、また近所の娘さんたちに縞織の手ほどきを続けていきます。
 物悲しさのともなう一生であったような気もします。後に小川トクの称徳の碑が故郷の神社境内に建立されました。
しかし、爽やかな読後感です。よい本を有難うございました。

「くるめんあきんど物語 まぼろしの久留米縞 小川トク伝」の全文は、本サイトに掲載しています。

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