読後感想文




 前略、素晴らしい作品を拝受しました。
「まぼろしの久留米縞」は、(これまでのくるめんあきんど物語の内)第一、二作より格段に読ませる作品になっており、郷土のための得難い読み物として、特に筑後の人々には必読して欲しいと思います。
 東京や埼玉まで出かけられての取材は大変だったでしょう。江戸から久留米まで50日もかかった時代、まるで異国の三途の川をも渡る決意でやってきたトクさんが、年産40万反を全国に売るまでになった久留米縞の創始者として頑張れた、足かけ44年の筑後の生活が見事に活かされています。
 そのトクさんに縞織の高機を手探りで創り上げてくれた田中久重さんや亀大工の亀吉さん夫婦はもちろん、当時の久留米には絣の井上伝さんに続いてたび屋の雲平さん、時計屋の末吉さん、久留米つつじの赤司喜次郎さん、写真屋の中村勝次さん、活版印刷の野村生助さん・・・と、数多くの幕藩体制の崩壊から新しいご時世を創ろうとする産業革命の旗手たちが輩出しかかっていたこと、その風土があったことがよくわかりました。
 晩年独り暮らしのトクさんを、実は捨てられた息子の栄三郎さんが埼玉から遠く気遣われていて、トクさんには孫にあたる徳次郎さんが大宮に帰ろうと、思いもよらなかった帰郷になる。
縞織の仲間からは、50円もの大金の選別が送られ、久留米の停車場には見送りの人々が、立錐の余地がないほど詰めかける・・・、美しい光景には思わず感動の涙を流しました。
 そしてトクさんを乗せた汽車は、その昔渡し船で渡った大川の鉄路をあっと言う間に越えてゆく。
 小生は、筑後ではなく筑前の生まれ育ちですが、実に感慨深い物語を読ませて頂きました。
有難うございました。一層のご健勝をお祈り致します。
4月27日
「くるめんあきんど物語 まぼろしの久留米縞 小川トク伝」の全文は、本サイトに掲載しています。

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