①明治二十五年、大雪のため由布岳の谷間に落ちて、死を覚悟したとき 豊国の積る雪をも尺八や 谷間に落つるうぐいすの声 ②明治二十六年七月二十五日午後二時、森町の八丁坂より切ふたきまでの原野の間で大夕立に遭いし時 鳴る神や茅の野原に臥し居るを 何とて我をぬらしけんかも ③千町無田開拓にかかる時 我行かば山も野原もにいはりし 稲の花をば咲かせざらめや ④明治二十七年二月三日の夜、先発隊として二十七人を引き連れて初めて入植した日 昔より今に変らぬ玉すがた あらわれ出でしは神か仏か ⑤明治二十七年四月一日、福万山に登り、神仏を祀らんことを思いて(福万山は、森町(現在の玖珠町)の北方山地、開拓当初は千町無田と北方山地に分散していた。) 登り見れば三十四十の峰あるに 神や仏をまつりすえまし ⑥数年間千町無田等の原野願いとらんと思いしに、今月お引渡しを受けて かくれては古井の中に住む竜も 今日は雲井に登らざらめや ⑦今までは官山、今日は自分の所有となるにつき 千年より福萬の嶽に住む竜も 這い出て来てもまみへざらめや ⑧明治二十七年四月廿九日、わが身を竹にたとえて 今までは浮世の下にねむりしも 土をさきてもいづる竹の子 ⑨明治二十七年九月、 見る度に驚きけりな蹴岩 いかなる神がなせし業かは ⑩明治二十七年旧五月八日、我が家の棟に白鳩一羽一時三十分余りとまりしを見て 白鳩のはにふの小屋にとまりしは 早来ませとの神の使か ⑪明治二十七年旧七月大旱魃、天を祈りて早来ませとの神の使か 照るも照る日の本なれば照りもせむ 天が下とはなぜにいふ らん ⑫千町無田より九重山の煙を見て 世の中は朝な夕なに変れども み山の煙たゆる間もなし ⑬明治四十一年、森町にて郡長殿、書記官、および橋爪氏同席 宝山谷間谷間のもみぢばの こがれてうつる玖珠の川つら ⑭巳の元旦 明けぬれば雲も霞も晴れ渡り のどかに開く梅の初花 ⑮午の元旦、千町無田にて 豊国の茅の野原をにいはりし 住む人々の栄をぞ思ふ ⑯元旦 よき年のよき月たちて今日の春 のどかに匂ふ梅の初花 ⑰松上鶴(勅題) 朝日さす富士のすそのの松ヶ枝に 磯千代祝う鶴の声々 ⑱雪中松(勅題) 積む雪のあらしに飛ぶさまは 松の花とも見へにけるかな
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