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第ニ話 創世神話 inヘルモポリス


※マメ知識>ヘルモポリス…こちらはヘルモポリス・マグナのこと。
もうひとつ、ヘルモポリス・パルヴァという町がナイル河の下流にもあった。
ヘルモポリス・マグナについての詳細は地図にて確認のこと。


 つづけて、ナイル河の上流のほうにあるヘルモポリス、ヘリオポリスと並ぶもう1つの大きな宗教都市の創世神話をご紹介します。
 ここは知恵の神トトを主神とする宗教地域なので、太陽神ラーの創世神話とはちょっとばかし内容が違っています。


 世界には最初、原初の水ヌンしかありませんでした。この部分は、ヘリオポリスの創世神話と同じです。
 しかし、ここからが違いました。最初にうまれたのは太陽ではなく、カエルとヘビ。水の中に、いつしか4匹のカエル(オス)と、4匹のヘビ(メス)が、自然発生し、それぞれ、異種間でつがいとなったことになっています。
 自然発生とは、まるで微生物のようですね…。

 この神々は、八位一体(ギリシア語でオグドア)で、あることから、「オグドアド」と呼ばれていました。要するに、八神いても一柱ぶん。八柱いてはじめて一神ぶんの働きをする、かなり投げやりな神々です。

 お名前はそれぞれ、

 ヌンとナウネト(原初の水)
 フウとハウヘト(無限、不定の空間)
 ククとカウケト(暗闇)
 ニアウとニアウト(否定)
※()内は意味。左が男性名、右がそれを女性名に直したもの。

 さらに欠員補充として、4番目のカップルとして入れ替わる、ゲレフとゲルヘト(欠乏、不在)があり、常にベンチに控えております。
 たまにアモンとアマウネト(隠されたもの)も入りますが、これは、アモン(アメン)神がエラくなった時代に、神官たちがアメン神の信仰の古さをこじつけるため、ムリヤリ名前を入れたもののようなので、ここでは無視します。


 さて、この名前からしてヤル気なっしんぐな神々は、八人が勢ぞろいして、子供を作ろうじゃないかという話になりました。ヤル気が無いので、八人で卵一つ。しかも爬虫類&両生類のカップルなので、卵生なんです。出産カンタン。

 ところが、このときの八柱神は、ほんのちょっとばかりノッていました。
 生んだ卵は生みっぱなしじゃありません。海の中においとくわけにはいかない、と、いまだかつてないほどのヤル気を見せ、原初の丘を出現させて、乾いている丘の上に卵をのっけて、孵化させたのです。
 卵からは、親とは似ても似つかない(笑)、ヤル気満々の明るい太陽が生まれて空に上がり、世界を照らし出します。
 このとき、太陽には自分で浮かぶ力はなく、支えていたのは、原初の水から生えた、一本の美しい水蓮の花(ネフェルテム)だったのだとか。水蓮に太陽。エジプトにしては、妙に東洋的な、極楽浄土を思わせる情景ではありませんか。

 と、こうして子供(太陽)が巣立っていったあと…
 親のオグドアドたちは、何故か、明るくなった世界を巡回に出かけたようです。観光ですか。それとも、親としてのつとめを果たしたあとの老後の楽しみですか…。(果たしてるか? 本当か?)
 でもって、水戸黄門よろしく旅の途中、かなり気まぐれに、若かりし頃のプタハ神に技を教えたり、少々自己感の薄いアトゥム神の自己開示を促したりしていたとか、そういう半ば都市伝説的な神話が後から作られています。実在の水戸黄門と、テレビドラマの水戸黄門が違うようなものです。実際に行ったことない町まで出かけたことにされちゃったと…。
 そんなに人気があったか…?

 神々の名前は本質を現しますが、この神様たち、名前からしてあんまりよろしい方々では、なさそうです。
 実体は、マイナス要素の化身みたいなモンです。「暗闇」だの「欠乏」だのの神が明るい世界で暮らしていくのも、ちょっと問題ありですよね。

 そこで、彼らは封印されることになりました。
 封印場所は、日の沈む方向、すなわち西。
 封印場所の名は、「大地のはらわた」。ナイスネーミングだとは思いませんか。なんかカッコイイ。

 ちなみに、封印したされたのは、元は太古の知恵の神、狒々の姿をしたヘジュ・ウルだったようです。後の時代ではヘルモポリスはトト神の聖域なのですが、以前は、この古い知恵の神の町でした。
 時代が流れ、ヘジュ・ウル神とトト神の信仰が一体化した結果、トトがその役目を受け継いで、「封印の見張り番」になったのだそうです。
 伝説によれば、オグドアドが次に呼び覚まされるのは、世界が再び終焉を迎えるとき。すなわち、世界のすべてが混沌とした原初の水に戻ってしまったとき、もう一度、世界を作り直すときです。
 その時になり、トトが封印を解くと、大地と時の神でもあるタテネン神が大地の奥底に封印されてグースカ寝ている最長老・オグドアドを叩き起こしてきて、キリキリ働かせるのだといいます。

 …それって、「これ以上壊すものが何もないときは役に立つけど、それ以外の時は邪魔なだけ」ってことなんじゃー。なんて思ってみる。(オグドアドはきっと、最終究極魔法しか使えない、恐ろしい存在だったに違いない。)


【ワンポイント】

 紀元後に入り、キリスト教とエジプト宗教が合体した「コプト教」というものが生まれるが、このコプト教の創世神話には、「ヘリオポリス神話」と「ヘルモポリス神話」の原型らしきものが組み込まれている。マイナスイメージな混沌の化身の神様なども登場する。



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