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第百二十五章:否定告白

ネブセニのパピルスより


否定告白は、おそらく「死者の書」内でもっとも有名な部分。オシリスを守る42柱の神々(その数は、エジプトの42の州に対応するという)の一柱ごとに対し、「私は〜をしていない」という否定を一項目ずつ、全部で42の項目について繰り返すシーンだ。
42柱の神が担当する42の罪とは、古代エジプト世界での「ありとあらゆる罪」を意味していたようだ。

この罪をすべて否定することは、「私は生きていた頃、何も悪いことはしませんでした。」という宣言になる。
ただし、自己申告だけでは来世に通してもらえない。この「否定告白」の次には、有名な「魂の審判」が待っている。産地偽装をしても、心臓を秤にかける検査でバレてしまうのだ。

以下、42の神々への語りかけの頭についている番号は、整理のためにつけたもので、実際の文書には存在しない。▽



勝利を得たるネブセニ曰く、

(1)「万歳、汝、アンヌ(ヘリオポリス)より来る、その股の長きものよ。我は不正を行わざりき。」
(2)「万歳、汝、焔に抱かれ、ケル・アハより出で来る者よ、我は暴力を以って略奪せざりき。」
(3)「万歳、汝、聖なる鼻にしてケメンヌ(ヘルモポリス)より出で来る者よ、我は何人にも暴行せざりき。」
(4)「万歳、汝、ナイルの発する所り出で来る陰食う者よ、我は窃盗を行わざりき。」
(5)「万歳、汝、ロ・セタウより出で来るネハ・ハアウよ、我は男も女も殺さざりき。」
(6)「万歳、汝、天より出で来る二重の獅子神よ、我は自らのために計量をごまかさざりき。」
(7)「万歳、汝、焔の如き二つの眼を具え、セケム(レトポリス)より出で来る者よ、我は偽善の行いをなさざりき。」
(8)「万歳、汝、帰る如く出で来る者よ、我は神に属する事物を窃収せざりき。」
(9)「万歳、汝、骨噛み砕く者にしてステン・ヘネン(ヘラクレオポリス)より出で来る者よ、我は虚言を発せざりき。」
(10)「万歳、汝、焔を強く燃え盛らせる者にしてヘト・カ・プタハ(メンティス)より出で来る者よ、我は食物を運び去らざりき。」
(11)「万歳、アメンテトより出で来るケルティ(ナイルの二つの水源)よ、我は悪口を発せざりき。」
(12)「万歳、汝、タシェ(フイオム)より出で来る、その歯の輝く者よ、我は何人をも攻撃せざりき。」
(13)「万歳、汝、屠殺の館より出で来る、血を飲み干す者よ、我は神の財産たる動物を殺さざりき。」
(14)「万歳、汝、アアベト室より出で来る、内臓を食らい尽くす者よ、我は偽善の行いをなさざりき。」
(15)「万歳、汝、正義と真理、二重のマアトの都より出で来る者よ、我は耕作せられたる土地を荒廃せしめざりき。」
(16)「万歳、汝、帰り往く者にしてバスト(ブバスティス)の都より出で来る者よ、我は邪推することなかりき。」
(17)「万歳、アンヌ(ヘリオポリス)より出で来るアアティよ、我はいかなる人にも反対して口を動かさざりき。」
(18)「万歳、汝、二重に悪を成してアアティの中より出で来る者よ、我は理由なくして己に関し譲歩せしことなかりき。」
(19)「万歳、汝、屠殺の館より出で来るウァメンティ蛇よ、我は人の妻を辱めしことなし。」
(20)「万歳、汝、彼に招来せられたるものを見、アムスの神殿より出で来る者よ、我は清潔に反対して何らの罪も犯さざりき。」
(22)「万歳、汝、聖なる者らの主にして、ネハツの都より出で来る者よ、我は何人にも恐怖を起こさせざりき。」
(23)「万歳、汝、言語にて命令し、ウリトより出で来る者よ、我は怒りの人にはあらざりき。」
(24)「万歳、汝、幼き子にしてヘク=アアトの湖より出で来る者よ、我は正義と真理の言葉に聾(ろう)ならざりき。」
(25)「万歳、汝、汝、言葉の処理者にしてウネスの都より出で来る者よ、我は争いを扇動せざりき。」
(26)「万歳、汝、秘密の都より出で来るバスティよ、我は何人をも号泣せしめざりき。」
(27)「万歳、汝、その顔の転向し、而して住家より出で来る者よ、我は不潔の行為をなせしことなく、人と同衾せしことなかりき。」
(28)「万歳、汝、アケクウより出で来る火の神よ、我は我が心臓を食らいしことなかりき。」
(29)「万歳、汝、ケネメトの都より出で来るケネムティよ、我は何人をも侮辱せしことなかりき。」
(30)「万歳、汝、己の供物を将来し、サイスの都より出で来る者よ、我は暴力をふるいしことなかりき。」
(31)「万歳、汝、諸々の顔の主にして、チェフェトの都より出で来る者よ、我は軽率に判断せしことなし。」
(32)「万歳、汝、知識を与え、ウントより出で来る者よ、我は…せしことなかりき、神に復讐せしことなし。」
(33)「万歳、汝、二つの角の主にして、サチウより出で来る者よ、我は言葉を使いすぎることなかりき。」
(34)「万歳、汝、ヘト-カ-プタハ(メンフィス)より出で来るネフェルテムよ、我は偽りを以って動作せしことなし。邪悪を行いしことなし。」
(35)「万歳、汝、ドゥアトより出で来るテム-セプよ、我は王に呪詛を発せしことなし。」
(36)「万歳、汝、其の心の勤労なるテブティの都より出で来る者よ、我は飲み水を汚せしことなし。」
(37)「万歳、汝、水のアヒにしてヌウより出で来る者よ、我は我が声をおごり高ぶらせしめしことなし。」
(38)「万歳、汝、人類に命令を与え、サウより出で来る者よ、我は神を呪いしことなかりき。」
(39)「万歳、汝、美しき湖より出で来るネヘブ-ネフェルトよ、我は不遜を以って動作せしことなし。」
(40)「万歳、汝、汝の都より出で来るネヘベカウよ、我は顕達を求めしことなかりき。」
(41)「万歳、汝、其の首の聖なるものにして、汝の住処より出で来る者よ、我は正当に所有物たるものを以ってするにあらざるよりは、我が財産を増加せしことなし。」
(42)「万歳、汝、自ら己の武器を将来し、下界より出で来る者よ、我は我が都にある神を心に侮りしことなかりき。」



以上42。
これだけでは意味がよく分からないと思うので、「古代エジプト神々大百科」(東洋書林)で取り上げられている42の神々の出身地と担当する罪についての表を以下に写しておく。

名前については、上に書き出した「埃及死者の書」が意味のわからない言葉をカタカナのままにしているのに対し、「古代エジプト神々大百科」では敢えて名前を意味に訳している。

(カナ)ネハ・ハアウ→(意味)危険なもの

また、直訳に近い言葉を、意訳することによって意味をある程度整理している部分もある。意味を整理してしまうと、取り違えや、古代人と現代人の感覚の違いによって間違いが生じていることもあるので、注意してほしい。
もちろん、誤訳が新しい版で修正されていることもあるはずなので、比較するのが一番だ。

(直訳に近い)その股の長きもの→(意訳)彼方まで闊歩する者

番号 神名 〜より来る 担当する罪 補足
1 彼方まで闊歩する者 ヘリオポリス 虚偽・不正
2 火を抱く者 ケルアハ 強奪
3 鼻の大きいもの ヘルモポリス 貪欲 鼻が大きいとは、ヘルモポリスの猿神
ヘジュ・ウルを表すかもしれない。
また、神の呪文は「鼻息」と表されることもあったため、
呪文の支配者であるトト神を表すかもしれない。
4 いつくもの髭を飲み込むもの 洞窟 盗み
5 危険なもの レースタウ
(ロ・セタウ)
殺人
6 対なすライオン 天空 食物の廃棄 アケル、ルティといった地平線の神は、
顔が東西についている「対なすライオン」の姿で
表される
7 火のような眼を持つもの レトポリス 不正
8 火炎 後ろ向きに出現 供物を盗むこと
9 背を砕くもの ヘラクレオポリス 嘘をつくこと
10 炎の緑なるもの メンフィス 食物を持ち去ること 6および8との違いが不明瞭
「食物を盗むこと」?
11 洞穴のもの 西方 不機嫌
12 歯の白いもの ファイユーム 逸脱 ファイユームの鰐神セベクには
「その歯白きもの」という別名がある
13 血を食うもの 畜殺場 聖牛を殺害すること
14 内臓を食うもの 三十の家 偽証 内臓を食らうといえば、
冥界の下級神ババイが思い出される。
ババイは神々の法廷で公然とラーを批判したため、
ラーの怒りを買い、冥界に送られたという
15 真理の主 マアティ パンを盗むこと やはり10との違いが不明瞭
パンだけ特別?
16 さまようもの ブバスティス 盗み聞き
17 青白いもの ヘリオポリス 無駄口を叩くこと
18 二重に悪しきもの アンジェト 口論
19 ウァメムティ蛇 処刑場 不倫
20 自らもたらすものを見るもの ミンの家 非行
21 老いたるものの上にいるもの イマウ 恐れさせること
22 破壊するもの クソイス 逸脱 12とかぶってます
23 混乱をもたらすもの ウェリト 短気なこと
24 若いもの ヘリオポリス州 真実に耳を貸さぬこと
25 予言するもの ウェネス 混乱をもたらすもの
26 祭壇のもの 秘密の場所 騙すこと
27 背後に顔のあるもの 不正の洞窟 少年との性交
28 足の熱いもの 黄昏 怠慢
29 暗闇のもの 暗闇 喧嘩
30 自らの供物をもたらすもの サイス 不当行為
31 いくつもの顔を持つもの ネジェフェト 性急
32 告発するもの ウェチェネト 神像を傷つけること
33 いくつもの角を持つもの アシウト 饒舌
34 ネフェルテム メンフィス 悪行、邪悪を行うこと
35 テムセブ ブシリス 国王に対して
呪文を唱えること
36 思うがままにふるまうもの チェブ 水中を歩くこと 泳ぐのではなく歩く?
37 水を打つもの 深遠 大声
38 人間に命令を下すもの 自らの家 神を罵倒すること 神殿は「神々の家」と呼ばれる。
神にとっての自らの家とは、自らの神殿を指すのだろう。
39 よきことを授けるもの 銛州 不明
40 いくつもの力を授けるもの 都市 自分を別格と見なす
41 鎌首をもたげた蛇 洞穴 不正な蓄財
42 もたらし与える蛇 静寂の地 冒涜 テーベの墓所の守護女神で蛇の姿をとるメルセゲル女神は
「静寂を愛するもの」と呼ばれる。
静寂の地とは墓所、もたらし与える蛇とは
メルセゲル女神のような役目を持つ
蛇の神と考えられるる





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