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【エジプト限定】オーパーツコレクション

デンデラ神殿の電球(地下壁画)


デンデラにある、ハトホル神殿の地下室の壁に描かれた「電球」と言われる絵。
あまりにメジャーすぎて他所にツッコミページが山ほどあるので今さら追加してもしょうがないだろう、という気もするが、そこはそれ、自己満足というか一応コーナー趣旨として「コレクション」なので。(笑)
一通り用意しておくという意味で、もう一歩突っ込んだ説明をご用意しました。

まずは基本データ。
エジプト中流での観光基点となるルクソールの町から約一時間の場所にあるのがデンデラ。
古王国時代から二千年以上にも渡ってハトホル女神の聖地として信仰されており、古い神殿の上の新しい神殿が何度も建てられてきた。現在のハトホル神殿は、ギリシャ・ローマ時代に建てられたもの。中核部分は、プトレマイオス朝後期の王たち(クレオパトラ7世など)によって作られている。

…つまり、この神殿は、「古代エジプトの遺跡」というよりはギリシャ・ローマ時代の遺跡だったりする。^^;(広義では古代エジプト王朝に含まれるが、プトレマイオス朝の王たちはエジプト人ではない)

プトレマイオスの時代になると、エジプト古来の神様たちは役割や外観がそれまでの時代とはかなり異なってくる。
他の神様と統合されたり、一部だけ分割されたり。ピラミッドが作られていた時代やラメセス王がいた時代の信仰と同一ではない。だから、このハトホル神殿に刻まれた図が、エジプトじゅうの神殿でどこでも見つかる、ありふれた図というわけではない。(個々のパーツは見慣れたものだが)
壁面の碑文なんかも、文字数がえっらい増えていて読めない orz



さて、神殿の中へ入ろう。
デンデラ神殿には地下室は3箇所ある。その中で、一般公開されているのは聖域の奥にある ひとつだけだ。

なんか外国人の人がなかなか退いてくれなくてな。この地下室の入り口は、人ひとりがようやく通れるほど狭く、中は、すれ違うことも厳しいほど細いT字路になっている。電球っぽく見えるという絵があるのは、その通路の一番奥。
ただし同じ図柄は他にも神殿内に何箇所かあるので、よく出回っている「デンデラ神殿の電球写真」の全てが地下室のものとは限らない。

神殿の地下室という構造自体はほかの神殿にも存在が確認されており、そんなに特殊なものではない。神殿の地下室の使い方には、一般的に、次のようなものがある。

(1)神官の瞑想の間
(2)神像または祭儀に必要な道具を安置する場所

ここの場合、「狭い」「周囲がレリーフで埋め尽くされていて常時人がいることは想定していない」といったことから、(2)のほうがしっくりくるだろう。というわけで、とりあえず神像がここに隠されていたと仮定する。


地下室は通常、冥界、地下の世界を模している。夜間、地下室に置かれた神像は魂の抜けた状態にあり、眠りについているものとみなされる。

階段はぐるぐるらせん状になっているので、昇ってるうちにクラクラしてくるっスだが、神像は朝と共によみがえらねばならない。神官たちは、毎日、この地下室から像を神殿の屋上へと運び上げ、(階段の壁に像を運び上げる神官たちの姿と祈りの言葉が刻まれている)、太陽の光と熱で像に魂を吹き込んで蘇らせる。




屋上にはハトホル女神の顔がかたどられた12本(12ヶ月を表すという)の柱の立つ小神殿がある。ここが祈りの場所だったのだろう。
小神殿を過ぎて神殿の反対側、昇ってきたのとは別の方向にもう一本の階段があり、そちらから像は地上の神殿へ戻っていく。そして一日のお勤めを終えたのち、再び地下室に収められ、夜をすごす。


これを、太陽信仰の物語として解釈してみよう。
エジプト神話では、天は母なる女神ヌトそのものとされ、すべての天体は天の子供とされている。
太陽は毎朝、母ヌトのから生まれ、その体である天空を通り、夕方には再び母に飲み込まれる。

ハトホル神殿の中に作られたヌトの小神殿の天井には、この物語が描かれていた。(ヌトの頭が入り口側)
以下が、太陽を呑み、また生み出すヌトの姿。天は弧をなしているため、ヌトは手と足を大地につけ、体を折り曲げている。



また、太陽の沈む西の地平線の下には、全ての死者たちのゆく「地下世界」(冥界)があり、太陽は地下を西から東へ旅したのち、東の地平より復活することになっている。
神官たちが毎日行っていた儀式は、この神話上の概念の再現に他ならない。


――つまり、この神殿において地下室は冥界を現し、翌朝の復活に備えて死んだ状態にある神像が眠る、いってみれば「神の寝室」のような使われ方をしていたのではないか。というのが、資料をあさってみた結論だ。

もっとも、地下室は狭いため、まいにち神像を出し入れしてはいなかったかもしれない。年に何度かしかない祭儀、たとえば新月や新年の最初の日のような、特別の日にだけ用いられる神像または儀式道具が収められていた可能性のほうが、あり得るかもしれない。
実際、この神殿の多数ある部屋には「新月の日の祭りに使う部屋」「新年の祭りに使う部屋」といったものが存在する。(壁にそう書いてある)



では、地下室の壁を見てみよう。
エジプト神話の死生観は、地上=生ける者の世界、ホルス神が王として治める世界/地下=死せる者の世界、オシリス神が王として治める世界―― と、二元化されている。生者の世界をゆく太陽は昼の船に乗り、死者の世界をゆく太陽は夜の船に乗る。

 …乗ってるよね。夜の船。


しかし、夕方に沈んだ(死んだ)太陽は、翌朝、再び昇る(生き返る)とは限らない。
現代においては「太陽が規則正しく昇ることなんて当たり前」だが、古代においてそれは確約されていない不安な明日だった。だからこそ太陽の輝きに感謝し、崇拝し、確実に朝が訪れるようにと不安を打ち払うための様々な儀式が考えられた。そして、危険な夜の世界から確実に戻ってこられるようにと、多くの呪文や守護のしるしが考えられた。

 護符の図もあった。


そう、地下室に刻まれた多くの図と文字は、夜の世界をゆく太陽の復活までの道のりサポートのために書かれた呪文だったのだ。



デンデラのハトホルの夫は、エドフのホルスとされていた。
ここで太陽の化身として復活を描かれているのは、彼らの息子、ホルソムトゥス。(※ホルス神の派生で、ホルス○○という名前をもつ神様はけっこう沢山いる)
ホルソムトゥスは息子として「子供」の姿で描かれたり、ホルス=「鷹」として、または、世界に最初に誕生した原初動物の象徴として、「蛇」の姿で描かれる。そして、この碑文の中では、一般的にハトホルの息子とされていた「イヒ」神として出演する。

地下室にたくさん出てくる蛇は、ハトホルとホルスの息子:イヒ君(ホルソムトゥス、ホルス・セマァ・タウィとも同一視される)を、あらわす。上の写真で夜の船に乗って移動しているのも、この神様。



と、いうわけで、この図の中でびよよーんと長く直立した蛇が移動していたら、それは原則、主人公のイヒ君なのだと読むことにする。

これは多分、ママ(左)とパパ(右)にはさまれ、ご機嫌に地下世界を旅するイヒ君。
スイレンの花をかたどった杖の上に乗っている。

スイレンは、神話の中で、そのむかし太陽がはじめて世界を照らしたときに乗っていたという花。生命の象徴でもある。神様は一日たりとも仕事サボれません。花で力を蓄えて、また夜明けとともに地上に戻らなくては。

有名なアレそしてこれが、いちばん奥。つきあたりの絵。
光とともにスイレンの中から元気よく飛び出すイヒ君。

これは電球じゃない。光(後光?)だ…!




以上をもって結論づけるに、有名なこの絵は
光に包まれてスイレンから飛び出してくる寝起きのイヒ君と、
彼を空に押し上げようと頑張る皆さん

でした。

(二つに分かれているのは、上下エジプト、二つの国を表している可能性あり。)



フィラメントと勘違いされていた部分は、拡大するとヘビの顔だと分かる。まあ多分、だからこそ、エジプト学者も、何も考えずにここを訪れた観光客も、これが電球とは思わなかったんだろう…。


ハトホルの息子イヒは、新たに誕生する生命、命の再生を表す子供でもある。デンデラ神殿の前庭にある「誕生殿(マンミシ)」はまさにその儀式のために建てられたものだ。
死してまた生まれてくる太陽は、生命の循環と重ねて考えられた。太陽が地下世界で原初の海を通過して生まれるように、生命も新たな誕生のためには母の胎内という闇の海を通らなくてはならない、という思想である。ということで、この地下室は女神の胎内、子宮のような場所として作られた可能性もあるのではないかと思う。だとすれば、そこに置かれた像は子供の像だっただろう。



で、この壁の文章をここでばばーんと翻訳なんて出来ればカッコいいんですがね。そう簡単にいかないです。この時代の文章、やたら見たことのない文字が出てくるよ…。

というわけで速攻でギブったので、かわりに、全訳(英文)が海外サイトにあったのでURLを紹介しておく。 こちら
この中の文章と写真を一致させることは出来なかったが、一番写りのいい一枚の翻訳を試みてみた。
素人さんが一般書店で買ってきたエジプト辞書引いてるだけなので、正確な訳は無理! なんとなく雰囲気つかんでもらえればおけー。

元画像 単語を翻訳してみた

<たぶんこんな感じの文章>
ホルス・セマァタウィ(二つの国のホルス)について語られたナントカ〜
美しきハトホルの息子(?) (ハトホルの息子、良きxx かも)
<三行目は意味がよくわかりません>
偉大なる神々に愛されしもの〜 



まあ、その程度しか分からないんですが、 壁の模様は文字だから読めるよ ってこと、学者の解釈は根拠のあるもので、それに即した内容が確かに書いてあるようだ。と、いうことは伝わるだろうか。細かい単語はともかく、神様名の部分は間違えてない、ハズ。



デンデラの地下室の絵は、神殿まるごと、神話の思想も含めて包括的に解釈しなくてはならない。その狭い地下室にあるのは、古代エジプトの壮大な宇宙観の一部なのだ。パッと見て電球っぽい、と解釈してしまうのはとっても浅い。そんな解釈はもったいないぞ。

この神殿は保存状態がいいし、完璧に読むのは難しいものの、壁に書かれた絵+文字で祭儀の内容がなんとなく分かる。神秘的な(秘儀的な要素が多い)シンボルや絵は他にもたくさんあるので、オーパーツだとかいう発想は抜きにして、自分だけの「このレリーフが何かスゴい!」を、探せばいいんじゃないかな。

個人的に、ここの神殿はいつかもう一回行きたい。^^ 屋上から見るナイル対岸の崖は感動する。


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