主な称号
隠されたもの、生命の息、祈りを聞くもの、その姿神秘なるもの
主な信仰
基本的な姿は、二本の羽飾りを頭にのせた男性。元は地方神でテーベの主神ですら無かったが、新王国時代にテーベの町が首都になると、主神の座に一躍躍り出た。
エジプト王国が繁栄を誇った新王国時代を通して崇められた神で、アメンに仕える神官たちは国土の三分の一を支配するほどの権力と財力を誇った。絶大な信仰ゆえに影響力も大きく、宗教を担当する神官たちと、王族との間に亀裂が入り、のちに王権が衰える時代になると、神官たちが勝手に独立国家を作ってしまうことになったりした。
太陽神としては大きな所では「ラー」と「アメン」の二柱が存在したが、二神の関係については「
二つの神話、二柱の太陽神」を参照。
ざっくり書くとラー神の信仰中心地が古来よりの宗教都市ヘリオポリス(イウン/オン)で、アメン神の信仰中心地がテーベ。で、国の首都がラー信仰の中心だったヘリオポリス周辺から、アメン信仰の中心だったテーベへと移動したことで地位の逆転が起きたという感じ。二神を合体させた「アメン・ラー」神という名前で呼ばれることも多いが、これはアメン神がラー神の神威を乗っ取った姿でもある。
プルタルコスによると、その名は「隠されたもの」を意味するという。本当の名と姿は決して明らかにされず、本名の刻まれた本体は、冥界の奥深くに眠っているとされた。太陽神なんだから見えるんじゃぁ? と、言いたいところだが、もともと大気や雲に関係していた神とすれば、大気中に存在する「見えない神」のようなイメージがあったのではないかと思われる。
「見えない神」であるとともに多くの異名・別名を持つという中二病設定も持つ神で、アメン・ケムアテフとは「自らの時を完了したものであるアメン」、クネプとは「自らを生む永遠の神」のこと。創造神としての別名である。
他に通称として「アメン・アシャレヌウ」(多くの名を持つ者、アメン)、「形の神秘なる者」などを持つ。
●創世神としての信仰
アメン神が神々の頂点に立っていた時代には、かつてラー・アトゥムとしてラーが担っていた創世神の地位をも吸収する。創世神としてのアメンの姿は、たとえば新王国時代に編纂された「アメン・ラー賛歌」第100連では、以下のような呪文が唱えられている。
”原初のとき最初(はじめ)に生まれしもの、おおアメンよ。
始めに生まれしものにして、
その隠されたる姿、知られることなし。
かれの前に生まれたる神はなく、
いかなる神もかれとともになく、その姿を告げること能わず。
その名によりて名づけられたる母はなく、
かれを妊ませ「これこそ私だ」という父もなし。”
また同じ「アメン・ラー賛歌」第300連では、アメン、ラー、プタハは三柱同一の神であるという、三位一体的な思想も語られている。
創造神としてのアメンは、ケマテフ/ケムアテフという名で碑文に登場する。このときのアメンはヘビの姿で描かれる。(これはオグドアドの姿がカエルとヘビだったことに通じるかもしれない)
ケマテフとしてのアメンの息子は
イルトである。
●化身のヒツジ
アメン神は、しばしばヒツジの姿でも現される。クヌム神など古くからの羊神と違い、ツノが渦を巻いた新しいタイプのヒツジ(Ovis
platyura aegyptiaca)で表されることから、ヒツジの姿をとるようになったのは、中王国時代より後であると思われる。
ルクソール神殿やカルナック神殿前にずらりと並ぶ羊頭のスフィンクス群はアメン神の化身でもある。
●王の父として
王=ホルスの父は、古王国時代には太陽神ラーだったが、新王国時代にはラーの属性を吸収したアメン=ラー神となっている。特に女王を名乗ったハトシェプストなどは、自らの王位の正当性を主張するため積極的にこの「神の子」システムを利用し、アメン神を実父として繰り返し宣伝した。なお、下のカルナック神殿のレリーフでは、ハトシェプストは男性として描かれている。
神話
・もともとテーベ周辺の守護神だったモントゥ(メンチュ)の能力や役割を引き継いでいる。
・最初は地方神だったが、中王国時代、彼の守護地の豪族がエジプトの王にのし上がったことにより、一躍、主神の座に躍り出る。主要な神々の中では遅い出現となっている。
・のちに、ヘルモポリス系創世神話に名をつらね、原初の八柱神「オグドアド」に参列するようになる
・アレキサンダー大王が、アメン神殿でナゾかけの縄をバッサリ切った話は結構有名かも。ちなみにアレキサンダーがエジプトに来たとき、アメン神はアメン・ラー神という習合した姿で知られていた。
・エジプト内でも観光地として有名な、カルナック神殿、ルクソール神殿はアメン神のために作られたもの。
・多数の別名があり、「千の名を持つアメン」自体が別名の一つと化している。
また、その別名がさらにギリシャ語化して「クネプ」のように原型を留めない状態になっていたりもする。
<参考>
プルタルコス「テーバイの住人はクネプという神を信じている」→誰のことなのか探しに行ってきた
聖域
テーベ
DATA
・所有色―青、赤
・所有元素―大気
・参加ユニット―テーベ三柱神<アメン、ムト、コンス>、生殖三柱<アメン、ミン、カムテフ>
・同一化―ラー
・神聖動物―主に羊、創世神としては蛇、鵞鳥
・装備品―二重の羽根飾り
◎補足トリビア◎
【アンモナイト】
化石といったら真っ先に思い浮かべられるだろう「アンモナイト」とは、アンモン(Ammon)の石(-ites)、つまり「アメン神の石」という意味である。アメン神は羊の姿をとる神様だが、その羊の角の渦巻き具合がアンモナイトにソックリなのだ。
【アレクサンドロスとアメンの神託】
アレキサンダー大王がエジプトに来た際、シーワ・オアシスのアメン神殿を詣で、神官に「神の息子」と呼ばれた、というエピソードはあまりにも有名だ。しかし実は神官たちは「神の息子」ではなく、一般信徒に言うように「我が息子」と言ったのではないか、という説もある。「おお、我が子よ(オー、パイディオン)」というギリシャ語をエジプトの神官が「オー、パイディオス」と言い間違えたために、ギリシャ人は「おお、神の子よ(オー、パイ・ディオン)」と聞き間違えたのだ、という説だ。
これについては、エジプト人は代々の王たちを生ける神、神の子として扱っていたため、エジプト人にアレキサンダーをファラオと認めさせるためのパフォーマンスだった説も存在する。ギリシャ人は死者しか神格化せず、生きている神の子はあり得なかった、とはよく言われる話だ。実際、風刺作家ルキアノスの「死者との対話」という作品では、「神」アレクサンドロスが死後自分は神ではないと気づいたという内容が面白おかしく描かれている。