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トト Thoth(仏語:Thot)

古代名:ジェフゥティ、メヒ(Mhy)/ギリシア名;トゥート、トート、テウト、/別称・別綴り:フランス語・ドイツ語Thot、新バビロニア語Tihut
グレコ・ローマン時代の別名;テエフィビス 性別:男性


――――時と知恵を統べるもの

主な称号
真実を書くもの、神々の書記、時の主人、選別するもの、耳を預けるもの

主な信仰
広く信仰された、オールマイティーな神様。とにかく色んな役目がある。

最もよく知られた属性は「知恵の神」「書記の守護者」。文字(ヒエログリフ)を人に伝えたものとされ、書記たちの統率者。また、ピラミッドの建造方法などを与えたのもトトとされている。このことから分るように、ヒエログリフが成立した初期王朝時代には既に存在していた古い神と考えられる。知識人に「ジェフティ(またはトト)」の名を持つ人名が多いのは、この神様にあやかってのこと。また書記は自分の記載したものに「この書物を改ざんするものはトト神を罰を受けよ」とか、「トト神に誓って私は真実を記録しました」などと付け足すことがあった。
人口比率はそう高くなかった知識人の神であるため、一般向けに開かれた大神殿はあまり持たなかったが、書記学校など書き物に関係する場所には常にトト神の像が置かれ、礼拝所が設けられていたという。

また、バビロニア語つづりが知られていることからも分かるように、異国においてもある程度知名度を持っていた神である。

狒々の姿
ヒヒVer
トキな姿
トキVer

その他の役割は以下のようなもの。

・死者の審判においては、アヌビス神とともに死者の罪を計量する秤の傍に立ち、是非を判定。死者の名前を書いたリストを所持している。
・時を刻む神。水時計の開発者にして、暦をつける人。また、太陽の沈んだあとの夜の時間は、トト神が太陽にかわって地上を守護するという。
アビドス神殿の王名表・うるう日の発明者。月を騙して、それまでの暦には無かった閏日に該当する時間を手に入れたとされる。
・王が即位したときには、その王の名前を、永遠に朽ちない"イシェドの葉"に書き記す。
・神々の寿命を定めるとされた。
・中王国時代以降は、ヘルモポリスの万神殿の主もやっている。

…いつ休んでいるのだろう。この神様(笑

主にトキor狒々の姿で表現され、人間の姿で出てくることはない。古い時代にはセトとともに、オシリスの弟とされていた。
基本的に中立の立場であるらしく、神々の争いでは調停役を務める。
まとめると、トトの主な役割はこんなカンジだ。

司るもの
 ・知恵(文字、魔法、医術etc)
 ・時間(計測)
 ・法律(秩序、真実) など。

受け持ち
 ・技術、学問の開発
 ・書記官の監督
 ・裁判の監督
 ・夜間の秩序維持 など。

その他、異国(主にシナイ半島)ではトルコ石や銅鉱石を採掘に行ったエジプト人の守護者として、「遊牧者の主」「アジア人を征服するもの」と呼ばれている。このシナイでの信仰はハトホルよりも古い。古くはスネフェル王の時代から、シナイ半島の碑文に名前が登場しているが、何故トトが鉱山の守護神とされたのかは、よく分かっていない。

エジプトがローマ属州になった後の時代には、ヘルメスと習合した魔術の神「ヘルメス・トリスメギストス」としてオカルト的な意味での信仰を集めるが、元々のトト神の属性とはあまり関係なく。失われつつあったエジプトの知識が神秘的なものとして捉えられた結果である。なお、実際に関係づけが始まったのは、エジプト王朝・末期の時代である。

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ブトレマイオス朝の信仰として、トト神は託宣の神とされ「テエフィビス」という別名で呼ばれていた。
テエフィビスの託宣所にはトト神がトキの姿で描かれ、信者は祈りを捧げることで答えを得られたという。(ギリシャ神話のアポロン信仰あたりと混じってそう)

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ちなみに、彼の名前「ジェフ(ウ)ティ」が「トト」に変化した経緯を簡単に書くと…


ジェフゥティ(Djehuty)の、の最後のyは、古王国末期には発音されなくなっていた。
最初のDjも、新王国時代までには単純なDの音に変化。
その最初のD音が、新王国時代のうちにT音に換っていったので、

Djehuty⇒Dehut⇒Tehut
ジェフゥティ⇒ジェフト⇒テフト

さらにコプト時代に入って、最初のtの音がthの文字で表されるようになり、h音が消えたので

Thut(トゥート)

だいたい、こういう感じで変化したんだろうなぁー、と、いう推測に過ぎず、正確には何時ごろから「トゥート」に近い発音になっていたのかは不明だが、長い時代を経て、トトが信仰されてきた経緯が、名前の中に込められている気がする。

ちなみに、現在に生き残る、古代エジプト語の「子孫」、コプト語ではトウト(サヒーディック方言)、トーウト(ボハイリック方言)と、なっているそうです。

※語形変化の調査は古代エジプト史料館さんにご提供いただきました。


神話
・ヘリオポリス系、ヘルモポリス系、双方の創世神話に顔を出す。

・トト神は創世神の一人であり、言葉によって世界を形作るとされる。誕生のし方については諸説あり、世界の始まりに、自らの力で石から生まれた「孫悟空的発生」説がいちばん有名。セト神の頭をカチ割って誕生したというユニークな神話もある。

・死者の守護者としても人気が高かったようで、「死者の書」では、トト神の守護と助力を願う文句が、繰り返し語られている。

・死者の名簿をつくり、生前の行いなども記録している。「トトのくちばしはペン」と語られることもあるが、ペンが無いときはほんとに嘴で書いてたんだろうか。どこまでも職務熱心なお方(涙)

・ホルスとセトの戦いにおいてはホルス側につき、セトに傷つけられたホルスの目をハトホルとともに癒したとされる。そのため、ホルスの目「ウジャト」を持つ姿で表されることもある。

聖域
主にヘルモポリス
その他、個人の礼拝堂など。

テーベ西岸に「トトの丘」と呼ばれる頂があり、第11王朝のスメンクカラー・メンチュホテプが築いた神殿跡がある。この神殿は、さらに古い時代に立てられた神殿の上に建てられており、シリウス星のヘリアカル・ライジングの方向にあわせて作られたとされる。
何百年もの間に、星の出る方向がわずかに変わってしまったため、星の位置がずれるにともない、神殿の土台も向きを変えて作られている。

DATA

・所有色―黒、白、赤
・所有元素―風、大気
・参加ユニット―知恵の神コンビ<トト、セシャト>、死者の裁判コンビ<トト、アヌビス>
・同一化―なし
・神聖動物―狒々、トキ
・装備品―ペンとパレット、書記のタスキ、または水時計、巻物


◎補足トリビア◎

・ZOE
ゲーム(TVシリーズもあるが)「Z.O.E」シリーズで主人公が搭乗する機体「ジェフティ」は、この神様がモチーフ。顔が黒くてとがってて、黒トキっぽい。飛んでるときの背中からの噴射が羽根っぽい。ただし、その美麗なグラフィックゆえにプレイ中は酔いまくりである。とりあえずグラフィックを楽しめばそれでいい。ちなみにラスボスのアヌビスが強すぎて倒せなかったゲーム音痴は私です。ボスケテ。

・トートバック
「トートバック」の「トート」は、トト神とはまったく関係ない。

・壁ドンのトト
某乙女ゲームをアニメ化した作品において、教師役で登場するトト神が毎話ごとに壁ドン(※壁にドンと手をついてヒロインに顔を寄せる)を行っていたことから付いたエピセット。現在における新たな称号である。なおその作品は神々が経営する神々の問題児を集めた学校という設定であり、攻略対象は基本そこの生徒として登場する神々なのだが、隠しルートに入ると教師であるトトも口説くことができる。トト様とってもイケメン。
中の人はトト神とのEDが真EDだと思っている。

イエス・キリスト誕生の神話はエジプト起源? トト神が受胎告知してた…
ラー神「おい、なんか今年は時間が多いんだけど」 トト神「……。(ニヤリ)」



【Index】



【二つ存在する「トトの町」、どっちが発祥?】

エジプト神話で知恵の神といえば、トト神だが、この神には様々な属性があり、そもそも以前はどういう姿で信仰されていたのかがはっきりしない。それでは面白くないな、というわけで、トト神の起源と、本来の発祥地など探してみようか、と思う。確たる証拠はなく、ほとんどの部分を、定説と自分の想像力から補ってみたので、話半分で聞いて欲しい。

まずは、分かり易いところからということでトト神の名前の由来から入ってみたいと思う。
トトの古代エジプト語の名前は「ジェフゥティ」。これは、ジェフウトの町のもの、という意味だ。大抵の神様は、出身地の町の名前を名乗っており、バストの町のもの→バステト、ベヘデトの町のもの→ベヘデティ、といった具合。つまり、とてもアリガチな名前なのである。

つまり、のちにエジプト全土で信仰されることになる「トト神」は、かつては、ジェフゥトという一つの町でのみ信仰された、小規模な土地神だったのだろう、ということだ。
エジプトの神々はもとは土地に密着した土地神形式なので、ある地域が大きな都市に発展したり、国家の中心地になったりすると、その地域の神の神格が上がり、広い範囲で信仰されるようになることが多い。

信仰の発祥は、時代的には、古王国時代の初期より以前である。
ピラミッドの建造方法を考案したという歴史上の人物、学者にして建築家イムヘテプ(イムホテップ)の墓には、彼の守護神として、トキの姿をした知恵の神・トトの像が収められていた。また、ピラミッド・テキストにもトトの名前が登場している。と、いうことは、イムヘテプの生きた第4王朝時代には、すでに、トキの姿をしたトト神が、国家の神として広く信仰を集めていたのだろう。

トト神の神聖動物であるトキの棲息分布地は、だいたい下エジプトの辺りである。トキがエサを取る泥地は、ナイル河の下流地域に多い。そう考えれば、なるほど、トト神という発想が生まれそうなのは下エジプト地域だろう。トト神の信仰発祥地は下エジプト、デルタ地帯であると書かれている資料もある。

しかし、ナイル河が増水する季節になると水没するファイユーム地方もエジプトトキの棲息地に入っており、すぐ上流にはヘルモポリス、つまり「トト(ギリシャ人はヘルメスと呼んだ)神の町」が存在する。デルタではなく、実は上下エジプトの中間あたりの沼地で発生した信仰だった可能性も無いとは言い切れまい。というか、トト神の信仰中心地とされる「ヘルモポリス」、神話の系統として「ヘリオポリス」と対照的に語られるその町は、上エジプトにある。下エジプト発祥だとしたら、信仰中心地が何かの理由で移動しないといけないのだ。


ところで、トトはトキの姿で現されるとともに、狒々の姿も持つ神である。
この第二の姿、狒々の姿というのは、トキの姿をしたトト神よりも古い時代に存在した「ヘジュ・ウル」という名前のヒヒの姿をした太古の神を吸収したときに獲得したものだとされている。
つまり、知られているトト神とは、二柱の異なる神が習合することによって誕生した神なのだ。

ヘジュ・ウルという名前の意味は「大いなる銀のもの」。つまり銀の毛を持つ大きな狒々だったのだろうと予想される。
こちらは、上エジプト起源だということがほぼ確定していて、現在かろうじて残されているヘルモポリスの神殿の入り口にも狒々の像が立っている。信仰が確認できる時代は、先王国時代より古い、まさにエジプト王国の黎明期だというから、さきのイムヘテプの時代から遡ること数百年から500年くらい。ちょうど上エジプトの王朝が下エジプトを統合して広がっていく時期と重なるため、どこかで下エジプトの知恵の神と上エジプトの知恵の神が融合し、一柱の神として信仰を重ね合わせていったというのもアリなんじゃないか。

もとが別々の場所で発生した別々の神で、後々の時代に同じ神様になったんだとすれば、発祥地も二つあるはず。なんだが、
…実は、都合よくヘルモポリスという名前の町が2つある。

 下エジプトはココ

ここが「ジェフウト」の名前で呼ばれ、トキを州標章とする町である。

 上エジプトはココ

「ヘリオポリス」と対照的に語られる「ヘルモポリス」で、古名はクムヌまたはケメンヌ。トト神が主神とされた大きな宗教センターである。


そんなわけで、トト神には、故郷がおそらく二つある。

<仮説>
トト神は中王国時代までは下エジプトの神だった。
そのころヘルモポリスではアメンやオグドアドといった神が主要な神として崇められていた。
中王国時代になると、アメンはテーベの主神となり、オグドアドから始まるヘルモポリスの創世神話は、ヘリオポリスの太陽神ラーによる創世神話と習合して、独自の教義は薄れてしまった。そのため、両者の神話に深く食い込んで、国家神の座を不動にしたトトが、古王国時代と中王国時代の間あたりに上エジプトのヘルモポリスの主神になった。現在知られているような性格の神になったのも、同じ時代なのだろう。

<カンタンまとめ>
以下のニ柱を合体させて超進化させるとよく知られているトトさんになります。

■ジェフゥティ(下エジプト発祥)
洪水期になると川べりに集まってくるトキの習性から、増水の季節、天気などを告げるとされた。
三日月形のくちばしが月の神という属性を生んだのではないか、という説もある。

■ヘジュ・ウル(上エジプト発祥)
好戦的、戦いの神の側面を持つ。猿の性格上、好奇心旺盛。
名前に含まれる「銀」とは、古代エジプトでは月をあらわす色だったため、月の神という属性を生んだのではないか、という説がある。


もともと二種類の神様が持っていた役目が統合されたのだとすれば、神話の中で好戦的に描かれる場面と温厚に描かれる場面が混じっている理由も分かる。
ある時は「軟弱者」とラー神に罵倒され(おとなしい)、ある時はトンズラしたセクメト女神を強制送還する(力強い)というような性格の破綻っぷりは、双方の神話の、もともとの起源が異なるためだったのかも、しれない。



【Index】