ヴォルスンガ・サガ/ワルタリウス

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ヴォルスンガ・サガ

―アトリの死とグズルーン三度目の結婚、物語の終わり―



夫を失い、悲しみにくれるグズルーンは、狼に食われれば死ねると思い、さまよい出て森に消える。しかしそこでは命を落とさず、歩くうちデンマークのハールヴ王の館にたどり着いた。ハーコンの娘ソーラのもとで三年半を過ごし、心の傷を癒していた。

母であるグリームヒルドはグズルーンの居所を知ると、すぐさま息子たちに迎えに行かせる。取れ戻した娘に和解を持ちかけ、かつてシグルズにそうしたように忘却の飲み物を飲ませると、グズルーンはすべて忘れて兄弟と仲直りする。

しかし彼女は、亡き夫のことまで忘れてはいなかった。グリームヒルドはグズルーンをブリュンヒルドの兄・アトリのもとに嫁がせようとするが、彼女はそれを嫌がる。アトリは彼女の兄弟を殺すと予言された人物で、その結婚は悪いことにしかならないと知っていたからだ。

結局はグリームヒルドの望んだとおりになり、グズルーンはアトリのもとへ嫁ぐが、二人の仲は決してむつまじいものではなかった。

***
ある晩、アトリは不吉な夢を見る。大切に育てていた二本の樹が枯れ落ち、二羽の鷹が飛び立ったまま帰らない夢。また、二匹の猟犬が自分の前で悲しげに鳴くという夢だ。グズルーンは冷たく、あなたとの間に生まれた息子たちが死ぬという運命でしょう、と答える。

アトリは、かつてシグルズがファーヴニルを倒して手に入れた莫大な黄金を欲した。それはグンナルとホグニが管理しているのだが、本来なら、それは妻グズルーンのもののはずで、自分にも手に入れる権利はあるのだと思ったのだ。

彼は黄金を手に入れんとして、使者ヴィンギをグンナルのもとへ行かせる。夫の企てを知ったグズルーンは、兄弟たちへの警告のため、アンドヴァリの腕輪にルーンを刻み、狼の毛を巻きつけて、使者に託す。
ルーンは気づかれ、改ざんされてしまうが、狼の毛を見たホグニは怪しみ、ホグニとグンナルの妻も、ルーンが改ざんされていること、不吉な夢を見たことから、出立をとめようとする。

だがヴィンギの巧みな言葉によって、グンナルは結局、出立を決めてしまう。

生きて戻れぬことを予感していた人々は、旅立ちに際し親しい人々に別れを告げ、アトリの国に着いたとき船を係留しない。
町に着くとヴィンギは欺いて連れてきたことを語り、去ろうとするが、その場でうち殺される。グンナルらは逃げずにアトリの城へ向かっていき、待ち構えていた王の軍勢と戦いになる。兄弟たちが窮地にあるのを知ったクリエムヒルトも参戦し、男にまさるほどの働きを見せる。
数は少なかったがグンナルたちはアトリの家臣たちを数多く殺し、多くの者が倒れた。
だが、しまいには二人とも捕らえられてしまう。

アトリは最後にとらえたグンナルの力を恐れ、心臓を抉り出して殺すよう命じる。だがアトリの家臣たちは、グンナルは殺さずに臆病者の奴隷ヒャッリ(ヒアリ、ヒャルリ)を殺したほうがいいだろうと言う。奴隷は悲鳴を上げて逃げ回る。それを見たホグニは、奴隷の悲鳴は聞きたくない、殺すなら自分を殺せと言う。

そのときグンナルも枷につながれていた。アトリはグンナルに、命を助けて欲しければファーヴニルの財産である黄金のありかを言えと迫る。グンナルは、弟の心臓が血に染まっているところを見るまでは答えないという。そこでアトリの家臣たちはヒャッリの心臓を抉り出して持っていく。

その心臓はびくびくと震えていた。グンナルは言う、これは臆病者ヒャッリの心臓だ。ホグニの心臓が、このように震えるわけがない。
そこで家臣たちは仕方なくホグニの心臓をえぐりにかかるが、そのときホグニは、声を上げもせず、ずっと笑っていたという。

全く震えない心臓を見て、グンナルはこれこそ剛勇ホグニの心臓、と言う。
そして、アトリにこう告げた。黄金の隠し場所を知るのは自分とホグニだけだったが、今や自分ひとりだけになった。自分は語らないので、もはや黄金のありかは誰にも分からないだろう。

グンナルは蛇牢に放り込まれる。グズルーンは兄に竪琴を渡し、縛られたグンナルは足で竪琴をひいて蛇たちを眠らせるが、一匹の大きな毒蛇だけが眠らない。その蛇はアトリの母の化身だったと言われるが、グンナルの心臓に噛み付いて、命を奪うのだった。

こうして兄弟たち全てが果てたのを知ったとき、グズルーンは夫を非難する言葉を発する。アトリが兄弟たちの償いをしようと言うと、彼女は、では、弔いのための宴を開いて欲しい、と言う。そこで盛大な宴がもよおされた。グズルーンは表面上、優しく夫に接するが、心の中は冷たかった。アトリに恥をかかせようと思った彼女は、アトリとの間に生まれた二人の息子を捕らえて殺し、その血をぶどう酒に、心臓を焼いて料理にして夫に飲み食いさせた。そして、あとで子供はどこかと聞かれたときに、それをばらしたのだ。

アトリとグズルーンはひどく言い争った。しかしそれだけでは終わらない。ホグニの、生き残っている息子ニヴルングが復讐のためにやってきて、グズルーンと共謀して王の寝込みを襲う。そしてそのあと、館に火を放ち、郎党すべてを焼き殺してしまうのだ。

****
こうしてアトリの一族も絶えたのち、グズルーンは石を抱いて海に入るが、死ぬことは出来ない。
ヨーナクル王の町に流れ着いた彼女は、ヨーナクル王と三度目の結婚をし、息子たち、ハムジル、ソルリ、エルプを得る。(※エルプについては、グズルーンの実子ではないという伝承もある)シグルズとの間に生まれた娘、スヴァンヒルドもそこで育てられた。

スヴァンヒルドは美しく、その瞳は太陽のようであったという。ヨルムンレク王がその美しさを聞き及び、息子ランドヴェールと家臣のビッキに命じて求婚にゆかせる。それは悪くない申し出だったので、グズルーンは娘を行かせた。その帰り道、ビッキは王子ランドヴェールに囁く。
スヴァンヒルドは若く美しい。あなたの父王のような老人ではなく、あなた自身が彼女に愛されればよいのに。

そう言っておきながら、帰国したビッキはヨルムンレク王に告げる、あなたの息子は、あなたの妻となるべき姫の心を奪ってしまった。
ビッキの悪い言葉に乗せられたヨルムンレクは、息子を絞首刑にしようとする。ランドヴェールは羽根をむしられた鷹を父に送って、思いなおすよう願うのだが、ヨルムンレクが処刑の中止を言い渡すより早く、ビッキの差し金で刑が執行されてしまっていた。

さらにビッキは、不実を働いたのはスヴァンヒルドなのだから、彼女も殺さなくてはならないと言う。スヴァンヒルドは城門に縛り付けられ、馬がけしかけられるが、彼女の目が放つ輝きのため、馬たちは近づけない。そこで頭に袋がかぶせられ、目が見えないようにして、彼女は馬に踏み殺された。

娘の死を知ったグズルーンは悲しみ、三人の息子たちに、姉の仇を討つように命ずる。息子たちは自分たちが生きて帰れぬことを知り、母に別れを告げて旅立っていく。一人残されたグズルーンは嘆きの言葉をつぶやき、シグルズのことを思い、そして物語から姿を消す。

旅立ったハムジルとソルリは、途中で弟のエルプを殺してしまう。(理由については様々説があるが、彼らは中のよい兄弟ではなかったようだ)
しかしやがて、彼らは弟エルプを殺してしまったことを後悔することになる。復讐を遂げるのに、二人では戦力が足りなかったのだ。
二人はヨルムンレクの腕と足を切り落としたが、エルプがいないので首を切り落とすことが出来ない。

グズルーンは息子たちが刃で傷を負うことの無いよう武具を整えていたため、誰も彼らに剣を突き立てることは出来なかったが、そこへ片目の老人(オーディンのことだろう)が現れ、石を投げれば殺せると教える。
それで二人は、四方から石を投げつけられ、打ち殺されてしまうのだった。


…ヴォルスングのサガは、こうして終わる。…





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