ヴォルスンガ・サガ/ワルタリウス

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ヴォルスンガ・サガ

―シグルズとブリュンヒルドの死―


さて、ブリュンヒルドがグンナルと結婚した後、女たちは川へ水浴びに出かけた。ブルュンヒルドがグズルーンより先に川に入ったので、グズルーンが咎め、二人の間に口論が発生する。

そのときグズルーンは口を滑らせ、言ってしまった―求婚のため炎を乗り越えたのは、グンナルではなくシグルズだった。その証拠に、そのときブリュンヒルドの腕から抜き取られたアンドヴァリの腕輪は、自分が持っている。
証拠となる腕輪を見せ付けられたブリュンヒルドは青ざめ、欺かれたことを知る。(※1)

グズルーンは夜、夫シグルズにそのことを打ち明けるが、シグルズは言葉を濁してしまう。

ずっとシグルズを愛し続けていたブリュンヒルドは、胸の悲しみを抑えきれず寝込んでしまう。グンナルが様子を見に行くと、彼女は結婚に際するいかさまをなじり、グンナルを殺そうとするが、ホグニがそれを止め、彼女に足かせをかけてしまう。ブリュンヒルドは機織りを打ち砕き、嘆きの声を上げ、誰も近づけない。
そうして日々が過ぎ、グズルーンに強いられてようやくシグルズが逢いにやってくる。(彼はかなり嫌々ながらにやってくる)

シグルズはグンナルを愛するようにブリュンヒルドを説き伏せるが、彼女はただ一人シグルズのみを愛しており、言葉に耳を貸さない。自分の手でシグルズを殺せないのが残念だ、というが、シグルズもまた、自分の死はそれほど遠くない未来のことだ、と語る。

<まァそのあと、シクルズは男として最悪な泣き言をいっぱい並べますが平日9時台のドラマより激しい内容なので省略ー。(^^;) この部分を詳しく読んでみたい方は、こちらへどうぞ。>


そのあと、館を出たブリュンヒルドは、シグルズを夫に出来なかったことを嘆き続ける。グンナルがやってきて、何を悲しむのかと問うと、彼女はこう語る。シグルズは、グンナルに代わり求婚にやってきたそのときに、自分と床を共にした。自分はそれがグンナルだと思って処女を与えてしまったのに彼はグンナルに何も手出しをしなかったと嘘をついたので、自分とグンナル二人の敵である。(※2

さらにブリュンヒルドは言った。一つの館に二人の夫をもとうなどとは思わない。シグルズとシグルズの息子を殺さなければ、自分は実家に帰らせてもらう、と。
妻と名誉を失うことを恐れ、さりとて義兄弟の誓いを結んだシグルズを裏切ることも避けたいグンナルは、迷い、弟ホグニを呼び寄せる。

ホグニはシグルズを殺すことに乗り気ではない。このような強い縁者がいることは役に立つのだから、生かしておくべきだと言う。
しかし、妻を失いたくないグンナルは、妻の処女を奪ったシグルズは是非とも殺さねばならぬと考え、義兄弟の誓いに加わっていない、知恵遅れの弟、グットルムに、シグルズを暗殺させようとする。

蛇と狼の肉を食べさせられ、猛き心となったグットルムは、眠っているシグルズを襲って殺す。しかしグットルム自身も、シグルズによって殺される。グズルーンのあげる悲しみの声を聞いたブリュンヒルドは声を上げて高らかに笑うが、それは決して歓びの声では無かった。
グンナルは今更のようにブリュンヒルドを恐ろしい女と思った。

そこには、こう書かれている。その場にいた誰も、彼女の涙と笑い声の理由を理解できなかった、と。
彼女は語った。シグルズは姿を取り替えて求婚に来たとき、実は自分には何も手を出していなかった。シグルズとグンナルは義兄弟の契りを結んでいたのに、シグルズを裏切ったグンナルは不実である。自分は炎を乗り越えてくる人物しか夫としないと誓い、実際にそうしたのはグンナルではなくシグルズだったのだから、自分の夫はシグルズただ一人である、…と。

そして彼女は死のうとする。グンナルはホグニにとめるよう頼むが、ホグニは彼女を死なせればいいと言う。
ブリュンヒルドは自害するが、刃をつきたてながら未来を予言する。そして最後に、自分の亡骸はシグルズと同じ薪の上に横たえて火葬にして欲しいと頼む。

ブリュンヒルドは、こうしてシグルズとともに死んだ。




※1ブリュンヒルドがなぜ腕輪を見て青ざめたかについて、ポイントは3つ。

1.ブリュンヒルドは、未来を予言する力によりシグルズがグズルーンと結婚することを既に知っていた。
2.なので、シグルズが自分との誓いを忘れたことも、その運命に逆らえなかったことも、それ自体仕方が無いと納得しようと思っていた。
3.…しかし、腕輪を目にしたことで、シグルズが既に記憶を取り戻していたことを知った。

その腕輪は過去にシグルズ自身がブリュンヒルトに与えたものなので、それを取り戻したということは、グンナル王として求婚しに来たとき、シグルズはすでに記憶を取り戻しつつあり、過去に二人の間に何があったかを思い出していたことになる。
彼女の予知の力でも、どのようにして二人に誓いが破られるのかについて具体的な内容は分かっていなかったが、今やそれが、シグルズの心変わり(=裏切り)によるものだったことが分かってしまった。

ブリュンヒルドは既に、シグルズがグリームヒルドの麦酒で過去を忘却していることを知っている。(グンナルとの結婚式の時に再会して知ったと思われる)
だからこそ諦め、また今の夫グンナルは炎を越えて来たのだからシグルズと同等の力を持つのだと信じていたのに、それらは嘘だったと分かってしまったのだ。

”過去の誓いと、共にすごした日々を思い出したなら、なぜ今もグズルーンとともにいるのか、なぜ私が側にいるのに振り向いてもくれないのか?
しかも私を別の男に添わせるために、自ら姿を変え、私を欺くとは。”

気位の高いブリュンヒルドの胸の中には、こうした思いが渦巻いていたと思われる。


※2 これはブリュンヒルドの語る「嘘」。
シグルズがグンナルと姿を取替え、ゆらめく炎を乗り越えてブリュンヒルドに求婚にやって来たとき、彼らは間に剣を横たえて床を共にする。シグルズはグンナルに、姿を取り替えている間にブリュンヒルドを抱くことはしないと誓っているので、嘘はついてない。

…ただし、彼らが床を共にしたことがあるのは事実で、それはシグルズとグンナルが出会うより以前の話である。(なにしろ娘までいる)
その意味で、シグルズがブリュンヒルドを妻としたことには違いない。





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