ich Wolfram von Eschenbach, swaz ich von Parzivâl gesprach, des sîn
âventiur mich wîste,
etslîch man daz prîste: ir was ouch viel, diez smæhten
und baz ir rede waehten, 4.19 f.
我エッシェンバハのヴォルフラム、口伝に従いてパルチファルの物語を成せるに、
これを賞賛せらるる向きも多かりしが、貶罵して己の物語を飾りし仁もまた少なからざりき。
「パルチヴァール」の作者であるヴォルフラムは、作品中、みずからを騎士と称してはいるものの、それほど高い身分ではなかったらしい。もっとも貧しい階級に属する騎士で、詩人として王宮や貴族のもとで腕(と、いうより舌)を振るった、と考えられている。
生まれはドイツとフランスの境で、妻と、娘に恵まれたとか…。
自己主張の激しい人物だったらしく、作品中に、自分の手がかりとなるものを、あたかも「見つけくれ」と言わんばかりに書き綴ってあるために、かなり昔の人もかかわらず、謎はあまり多くない。要するに、キャラ立ってるので作品の中に書いた人の人格がバシバシ現れているのだ。わっかりやすい。(笑)
この人が書いた、アーサー王に関連した他の作品については、以下のとおり。
「ウィレハルム」(Willehalm)
「パルチヴァール」に続く、この人物の二番目の叙事詩は1215年ごろの作品と考えられている。
「バルチヴァール」がファンタジー的な要素を多く含み、幻想的であるのに対し、こちらは、十字軍遠征という史実を元にした作品となっている。異教徒との戦いを描いた「ウィレハルム伝説」とでもいうものがあり、登場人物と同じ名を持つ人物も実在した。
1215年は、第5回十字軍遠征を起こしたフリードリヒ2世が戴冠した年である。ヴォルフラムも、騎士の一人として十字軍を激励したかったのではないだろうか。
あらすじ>>
三位一体への祈りからスタート。
主人公は、トルース伯ウィレハルムである。彼は異教徒の王ティバルトから、美しい后アラベレを奪い、洗礼を受けさせてギーブルクという名に変えさせる。妻を奪われたティバルトは、もちろん怒り、ギーブルクの父王とともにウィレハルムを攻め、軍は散り散りとなってしまう。
大敗を喫したウィレハルムは、甥のフィフィアンツも失い、敵軍に包囲されて絶体絶命に陥る。
このためギーブルグは、新しい夫ウィレハルムに、異教徒の格好に身をやつして軍の包囲を抜けるよう薦めるのだった。
戻ってくるまでは他の夫人に接吻はしない、と誓って城を出たウィレハルムは、妹の嫁いでいる国へ援助を乞いに行く。しかし、妹の王妃も、義弟のロイス王も、援助を潔しとしない。キレかかるウィレハルムを止めたのは、彼の母であった。
なんとか援軍を出してもらうことになり、ウィレハルムは自分の国へ戻る。
このとき、ロイス王の宮廷で見つけた、レンネワルトという青年も一緒だった。
このレンネワルトは、素朴で純粋なのだが、怒り出すと手に負えない暴れ者という、一癖も二癖もある人物だった。しかも武器が棒である。騎士物語よりは、水滸伝に出てきそうなキャラクターだ(笑)
そんな彼には、王女アリーセという密かな恋人がいた。
ウィレハレムとともに戦い、城の包囲を解いたのち、彼はいずこへか遁走してしまうのだが、その時にも、アリーセとのつつましやかな語らいの場面が出てくる。
なお、この作品のドイツ語の原稿は、9巻の途中、戦いの決着がつくところで途絶えているが、フランス語の原稿には続きがある。
それによれば、レンネワルトは実は幼少時に奴隷商人に売られて行方不明になっていたギーブルクの実の弟だったことが判明し、彼は恋人の王女と結婚するのだという。
フランス語では、ウィレハルムはギヨーム、レンネワルトはレノワール、アリーセはアエリスになる。
作者が途中でこの世を去ったせいなのか、「ウィレハルム」は未完のままである。
「ティトゥレル」(Titurel)
ウィレハルムと平行して書かれたと考えられ作品で、二つの短い物語から成っている。「ティトゥレル」と名はついているものの、実際はジグーネとシーアーナトゥランダーという、若い二人が主人公の作品だ。
第一篇は、パルチヴァールの生まれる以前、ジグーネとシーアーナトゥランダーの、知られざる出会いと恋の物語。
「パルチヴァール」の物語の中で聖杯王をつとめるアンフォルタスの祖父にあたる、ティトゥレルが、年老いて、その位を息子フリムテルに譲るところから始まる。(家系図参照)
フリムテルの娘のひとり、ショイジーアーネはキオート公のもとに嫁ぎ、ジグーネを産むが、すぐにこの世を去ってしまう。そのために、ジグーネは、パルチヴァールの母であり、彼女自身の母の妹でもあるヘルツェロイデのもとに預けられることになった。
ジグーネは、この、ヘルツェロイデの宮廷で、グルネマンツの孫であるシーアーナトゥランダーと出会った。シーアーナトゥランダーは、従者としてガハムレトの教育を受けていたのだ。
やがてガハムレトが遠征するときになって、シーアーナトゥランダーも付いていくことになる。ヘルツェロイデとジグーネは悲しみ、思い人たちを送り出す。(そして多分、ガハムレトはこの戦いで命を落とす。)
ジグーネは、遠き恋人を思い、日暮れ時になると、城の上に立って、風景の中に恋人の姿を捜し求めながら愛の言葉を呟くのだった。
第二篇は、ジグーネが自らのためにシーアーナトゥランダーにミンネの奉仕を求める物語。
ある日、二人が森でピクニック(?)をしていると、側を飼い犬らしき猟犬が通りかかった。捕らえてみると、この犬の首輪には、物語が書かれている。それによると、犬の名はガルディフィアスといい、飼い主の名はフローリエという女性らしかった。
しかしフローリエは、恋人イリノート(アルトゥース王の息子)が試合によって命を落としたので、その悲しみのためにこの世を去っていた。犬は、フローリエの妹、クラウディテに譲られ、クラウディテは恋人のエヒクナハトにこの犬を譲ったのであるが、犬はそこを逃げ出してきていた。
ジグーネがこのような由来を読んでいると、犬は、彼女の手をふりきって再び逃げ出してしまった。犬を連れ戻して欲しい、と、シーアーナトゥランダーに頼むジグーネ。もし連れ戻したくれたなら、私はあなたのものになりましょう、と。
そのために、シーアーナトゥランダーは、全てを賭けて犬の探索に出かける。
この探索がシーアーナトゥランダーの命を奪うことになり、「パルチヴァール」でのジグーネの悲しみに繋がっていく。
このようにして、ヴォルフラムは、「パルチヴァール」では語られなかった部分を描いた。
その勢いで、フェイレフィースとゼクンディルレの物語なども書いて欲しかったのですが、その前にお亡くなりになってしまったようです。
外伝…。 ほかの外伝も、読みたかった…。
他にも、ヘルデン・ブッフに登場する英雄譚の一部、オルトニットの物語を手がけた、という説がある。
具体的な内容については、「オルトニット」のあらすじへ。