ディートリッヒ伝説-DIETRICH SAGA

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オルトニット


 オルトニット(Ortnit)は、ディートリッヒの祖先に関わりのある英雄の一人だ。
 12人力を持つロンバルディの王で、多くの武勇をたて、あらゆる敵をその前にひざまづかせた勇者だったとされる。

 ちなみに12人力という形容は、多くのサガに登場する。人並はずれた力の持ち主はだーいたい「12人力」なので、ま、てきとーに(笑) すごい力のことを100万馬力っていうのと同じ感覚で。

 この王様には妻がまだ無かった。どうしても目がねにかなう姫君がいなかったのだ。
 心悩ます若き王。奥さん欲しい…。
 と、そこへ叔父のエリアスがやって来て、「シリアの姫、シッドラートはいかがでしょう」と、言う。何でも、とても美しいのだとか。どんなふうに、って、とにかく美しいらしい。色んな形容詞が出てきて、さも見てきたように語るところからして、エリアス実はシリアまで行って来たらしい?

 そんなこんなで、この姫の容姿を聞いたときから王の心には姫の面影が住み着き、いつしかオルトニットは、水面に幻の姫君を見るようになる。
 エリアスは、自分がシッドラートを勧めたくせに、いざ王が姫君に求婚しようとすると、「シリア王は恐ろしい男だから」と、ひきとめようとして無駄に恋路をあおってみたりする(笑)
 もちろんオルトニットは諦めるはずもない。
 速攻で軍をととのえて、姫を嫁にくれないなら奪ってくれるわ、とばかり、はるばるロンバルディからシリアまで乗り込んでいこうとした。

 オルトニットが引かないのを見て、彼の母親(王妃)は、「仕方が無いから、これを指にはめてお行きなさい。」と、金の指輪を息子に託した。この指輪をはめてローマに行きなさい、小川の流れる丘に行くと一本の菩提樹が立っている。そこで不思議に出会ったら帰ってきなさい、というのだ。
 オルトニットが言われたとおりにすると…確かに、母の言ったとおりの風景が広がっている。
 菩提樹の下へ行ってみると、そこには、ひとりの子供がすやすやと眠っていた。

 なぜ、こんなところに子供が? といぶかしみつつ、抱き上げようとすると、子供はいきなり目を覚まし、ものすごい力でオルトニットに殴りかかった!
 オルトニットはビックリして子供と格闘をはじめる。なんとか押さえつけると、子供は苦しそうに、剣と鎧をやるから手を離してくれ、と懇願しはじめた。手を緩めると、子供は笑いながら王の手の指輪を抜き取り、するりと姿を消してしまう。むやみに手をふりまわすオルトニット。
 やがて子供は再び姿をあらわすと、鎧と剣を差し出して、言った。
 「この鎧は竜の血で鍛えたもの、いかなる剣にも傷つけられぬ。この剣は岩をも切り裂く力を持つ。我が名はアルベリッヒ、小人の王。そしてほかならぬ、お前の父親じゃ。」
 …子供に見えるが父親とな! ていうか小人っスか!

 父は何でも知っていた。
 息子がシリアの姫を嫁に欲しがっている。それなら力を貸してやろう、と。
 帰宅したオルトニットから、ことの次第を聞いた母親は、何も言わずにただうなづいていた。
 過去に何があったんですか、お母さん。

そこには、大人のドラマがありました。オルトニットが父親だと思っていた人は、妻を離縁して、小人の王にくれてしまった外道な人だったのだ。しかし生まれてくる息子に指輪を託しておいたということは、アルベリッヒも実はいい奴。いい奴だけど、その指輪ネタはシドレクス・サガと被ってます…。


 さて、暖かい風吹く5月のこと、オルトニットはシリアへむけ、メッシナから軍を率いて出航した。しかしアルベリッヒがいないので、何となく不安である。
 と、そこへ、姿を消したアルベリッヒがひそかにやって来て、まずわしがシリア王を説得してやろう、と言う。
 アルベリッヒの指輪には、姿消しの力があったのだ。

 姿を消し、ひとりシリア王の館に忍び込むアルベリッヒ。王を見つけ、耳元に「シッドラートをロンバルディの王オルトニットに与えよ」と囁くも、シリア王はこれを信じない。物の怪の仕業だとして、兵士たちを呼び寄せる。
 アルベリッヒは怪異を起こして逃げ去った。

 父、アルベリッヒから、説得に応じないため力づくで奪うしかないぞと聞いたオルトニットは、もとよりそのつもり、軍を率いて町へと攻め込んだ。先頭には、旗をかかげたアルベリッヒ。だが、この小人の姿は他の者には見えていない。兵士たちは、神に率いられている気持ちでシリア王の館へと攻め込んだ。
 その様子を、シッドラート姫はおそるおそる見ている。
 王は窓から自軍を指揮していたが、その時、何者かが王の髭を手早く引っ張った。あっと声を上げるシリア王。空中から、何者かのさざめきが聞こえ、姫を嫁にくれるかと問う。
 王は否と答えるが、そのたび髭は強く引かれ、しまいには何本かの髭が引っこ抜かれてしまった。

 怒り狂う王をその場に残し、アルベリッヒはシッドラート姫のもとへ行く。
 姫は、戦を恐れながら、アポロンとマホメットとに祈っていた。
 異教徒がギリシアの古い神々をあがめている、という話は、同時代の騎士叙事詩に多く見られるモチーフ。史実ではない^^;)

 小人はささやく、
 「姫よ、キリスト教徒になれ。そしてオルトニットの妻となるのだ。」
天からの声かとはっとする姫の目の前で、今まで祈っていたアポロンとマホメットの像が宙を飛び、打ち壊される。
 イスラム教徒なので、最初から像なんか無いんだが、そこんとこも当時の人は分かってないので。)

 不思議な力におそれを成した姫君は、ふらふらと自分から城を出て、オルトニットに捕らえられる。
 姫をかっさらって逃げたオルトニット。さっそく叔父エリアスが姫に洗礼を施し、リーブガルトと名を変えさせ、船を出航させて帰国の途についた。

 リーブガルトとなったシッドラート姫は、自分が城を出た時の不思議を思い出し、あれはいかなる神の使いだったのか、と夫に問う。オルトニットは笑いながら、あれは神ではなく小人の王アルベリッヒだったのだと言い、頼んで、みなに姿を見せてもらう。
 人々は、この小さな気高い小人を美しいと賞賛し、気をよくしたアルベリッヒは、若い夫婦に様々な贈り物をして、去っていく。


 さて、それから楽しい生活が続き、いつしかリーブガルトは、遠く離れた故国のことを思い出すようになっていた。
 父は、きっと、自分のことを怒っているに違いない。
 そう思ううち、姫の故郷から使いが来た。オルトニットに贈り物を、と言うのである。シリア王の怒りもいつしか薄れ、春には訪ねてくるとのこと。贈り物の中には、大きな二つの卵があった。
 これを見た、オルトニットの館の巨人たちは、卵から、額に磁石をもった魔法蛙を孵化させることができると言う。
 興味を持ったリーブガルトは、では是非その魔法蛙を見せておくれと頼んでしまった。

 ところが、卵から孵化したのは蛙ではなく、恐ろしい悪竜。とてつもない速度で成長し、しかも、二匹はつがいとなって、多くの子らを産み落とした。
 国の主、オルトニットとしては、これを倒しに行かねばならぬ。
 二度と会えないことを予感した妻はしきりに引き止めるが、オルトニットは、自身の不安を押し切って、竜を退治しに出かけてしまう。言い残したのは、「もしも自分が倒れたら、竜を倒して自分のかたきを討ち、(※王の竜退治というと、ベーオウルフを思い出すところ。)指輪を持ってきた者を新たな夫とせよ。」という言葉。
 一匹の、忠実な猟犬のみを供として、彼は帰らぬ戦いへと赴く。

 途中、オルトニットは父アルベリッヒと出合った。アルベリッヒは、今戦っても勝ち目のないことを告げるが、オルトニットは、それでも行くという。ならば行け、そして立派に戦って来い…。

 こうして、オルトニットは山の中に分け入った。
 竜たちを探してあちこち歩き回るうち、疲れがたまり、そのうち眠りについてしまう。だが実は、それは竜たちの呪いによるものだった。
 オルトニットが眠っている間に、竜たちは周りを取り囲んでいた。犬は必死に吠え立てるが、呪いにとらわれた彼は、目を覚ますことが出来ない。
 そして…、
 勇士は、眠ったまま竜に引き裂かれて、無残な最期を遂げるのだった。


 館で待っていたリーブガルトは、ひどくうなだれて戻ってきた猟犬を見て、夫の身に起こったことを知る。
 しかし悲しむ暇も無く、残された財産と王位をめぐり、数々の貴族たちが彼女に結婚を申し入れる。夫の遺言を貫き通したい彼女はそのすべてを拒否し、館の奥(塔?)に、閉じ込められてしまう。当然、オルトニットの仇を討ってくれる者などいない。
 付き添うのは、ただひとりの召使だけ。打ちひしがれながら、リーブガルトは機を織り続ける。(※オデュッセイア?)
 いつか、立派な騎士が夫の仇を討ち、失われた小人の指輪を奪い返して、自分のもとにあらわれてくれる、と信じながら。

⇒フーグディートリッヒ、ウォルフディートリッヒの物語に続く。


◎ワンポイント◎
途中に書いたとおり、この物語には、これ以前に存在したたくさんの物語のモチーフを引き継ぎ、これ以降の物語にも転写されているものが、少なくない。

一説によると、オルトニット伝説は13世紀はじめ、ヴォルフラム・フォン・エッシェンバッハによって書かれたものだという。
だが、彼が最初に書いた、というわけではなく、それ以前(8世紀ごろとされている)に、元になる伝説が作られていた可能性が高いのだとか。

ヴォルフラムの代表的作品「パルチヴァール」については、別コンテンツとして独立しているので、そちらをドウゾ。
なお、13世紀ごろの他の作品についてのコンテンツは、こちら




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