中世騎士文学/パルチヴァール-Parzival

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第七巻 ガーヴァーンとオビロート



主人公パルチヴァールが姿を消し、ここからは第二の主人公、ガーヴァーン(ガウェイン)が登場する。のちの15世紀に、マロリーによって書かれたアーサー王ロマンスではランスロットより格の低い扱いを受けている彼だが、この時代のガーヴァーンは「王の騎士たちの中で最も立派で、恥ずべき振るまいをしたことのない完璧な騎士」として描かれている。

さて前の巻の最後で一騎打ちの挑戦を受け、アルトゥースの宮廷から旅立ったガーヴァーン卿は、戦いに向う騎士と歩兵たちの一団を見る。訊ねてみると、それはリースの王、メルヤンツが、ある女性への愛を受け入れられず、怒って軍を率いてきたものだという。

メルヤンツの思い人は、父王が任命した後見人、リプパウトの長女、オビーエだった。メルヤンツは彼女に言い寄ったが、どうやら、けんもほろろにフラれてしまったらしい。しかしリプパウトは、主君と戦うことを潔しとしない。もちろん攻めてくるのは同じ主君に仕えた味方だから戦いたくはないし、かと言って何もしなければ殺されてしまう。

こういう時に、通りすがりの主人公が助けに入るのが騎士文学のお約束だが、ガーヴァーンはこれから決闘に向おうとしているところだ。約束の期日までに決闘の場所に着かなくてはならないので、ここで戦争に参加しているわけにもいかない。
思案した挙句、彼は、リプパウトの居城、ベーアーロシェ城に向う。状況を見定めようとしたのだ。

その姿を、城の上から二人の乙女が見ていた。メルヤンツの求婚をつっぱねた姉姫オビーエと、その妹で、まだ幼い少女であるオビロートである。小姓をひきつれ、武装しながら、戦いに参加する気配のないガーヴァーンを見て、オビーエは本人に聞こえるほど大きな声で、あれは商人に違いない、などと侮辱する。オビロートは姉の無作法を戒める。

そうこうしているうちに、戦いが始まった。主君を攻めたくないリプパウト公は、城門を塗り固めて、篭城のかまえに入っていたが、人々の強い要望を受けて、結局は応戦する道を選ぶ。騎士たちの声が響き渡り、双方の兵士たちが生け捕られていく。ガーヴァーンはただじっと、それを眺めていた。

城の上から眺めているオビーエは、それが気に入らない。城を守るシェルレスという騎士に言いつけて、城に商人が入り込んでいるので荷物を差し押さえてしまえと唆す。だが、ガーヴァーンのもとにやってきたシェルレスは、一目で相手が商人などではないことに気づく。
二人が仲良くなってしまったのを見ていたオビーエは、さらに気に入らない。今度は父のリプパウト候に、町に罪人が紛れ込んでいるので取り押さえてくれと嘘をつく。

なんでオビーエは、こんないじわるをするのか?
それは、実はオビーエはメルヤンツのことが好きで、メルヤンツこそ世界でいちばん素晴らしい騎士だと思っていたからである。
なので物語上の主人公、立派な騎士であるガーヴァーンが気に入らない。さらに、そのガーヴァーンを「立派な騎士」だと言った妹のことも気に入らない。なんてったって、私の騎士・メルヤンツが一番!

じゃぁなんでフッたりしたんだよアンタ。この時代にツンデレは無いんだよ。
素直に求婚を受け入れないから、あんたの国が大変なことになってるんじゃないか…。

 お父様と国のみなさん、ワガママ娘に振り回されてご愁傷様です。

――と、そんな苦労話を、リプバウト公はガーヴァーンに切々と語った。だがガーヴァーンも、これから決闘に向うところなので、約束に遅れるわけにはいかない。リプパウト公の援助の頼みを、軽く受け入れるわけにはいかないのだ。
返事は今夜まで考えさせてくれ。と言うガーヴァーン。その場を立ち去ったリプパウト公は、館の外で下の娘(オビロート)に会う。
オビロートはおしゃまに、私があの騎士に頼んでみましょう、などと言い出す。

この時代の騎士ロマンスのお約束として、位高い貴婦人にお願いされたことは、竜退治だろうが巨人討伐だろあが、受けなくてはならないのである。
据え膳食わぬはなんとやら。貴婦人の頼みを断ったら名誉が傷つく。オビロートはまだ ようじょ 幼いが身分高いお姫様には違いないのである。

おませな幼い姫君はガーヴァーンに迫った。
「お願い! 私たちに力を貸してください。どうか私の騎士として戦ってください。そうしたらね私のミンネを許しましょう(※あなたのものになります の意)
ガーヴァーンは思い出していた。そういえばパルチヴァールは、「神よりご婦人のほうを信じる」とか言ってたな。

「わかりましたお受けいたしましょう。でもあなたにミンネを許していただくには、もう五年待たなくてはならないようです」
偉いぞガーヴァーン、さすが騎士の鏡。乙女は口説いても幼女には手を出さない!
そりゃそうだ、いま手を出したらただの犯罪者だ。


かくしてガーヴァーンは、翌日、オビロート姫の騎士として戦場に立つ。盾には、ミンネを誓った婦人がいる印として、オビロートの服の袖が縫い付けてある。大軍が城の前を取り囲み、その中にガーヴァーンもいた。戦いが始まると、ガーヴァーンは次々に名のある騎士たちを馬から突き落とし、馬を奪い、味方のものとした。

向ってくる敵軍の中に一騎、皆から「名無しの騎士」と呼ばれている、真っ赤な鎧に身を包んだ素晴らしい騎士がいた。
…真っ赤。
そう、もう外見からして今さら言うまでもなく、旅立ったパルチヴァールである。なぜかメルヤンツ側に参加していたが、この戦場ではガーヴァーンとはすれ違う。その頃、ガーヴァーンはメルヤンツ王と一騎打ちをしていた。メルヤンツは倒され、傷を負って、城の中に引き立てられる。
 戦いの中で多くの人々が傷つき、倒れた。すべての始まりは、本当は両思いなのに素直じゃなかった気位の高い娘が、王の求婚を突っぱねたことである。

こうして、戦いは終わった。パルチヴァールは、自分の側の大将であるメルヤンツが捕虜になったことを知ると、自分が捕らえていたリプパウト側の捕虜を解放し、メルヤンツが釈放されるよう尽力してほしいと頼んで、聖杯を探すたびに戻る。
一方ガーヴァーンは、盾につけていた袖をオビロートに返し、リプパウト公とメルヤンツ王を和解させるべくテーブルについていた。

騎士の戦闘では、ルールとして、負けたほうが勝ったほうに”恭順に誓い”をしなくてはならない。これは、命を助けてもらうかわり、命じられたことを必ず守らなくてはならないという約束事である。
ガーヴァーンは言う。今回、自分はオビロートの騎士として戦った。だからメルヤンツは自分の捕虜ではなく、オビロートの捕虜である。
恭順の誓いは、オビロートにするべきた。

オビロートは、にっこり笑ってこう言った。「メルヤンツ王、あなたは姉を妻となさい。」

今ごろ素直になってももう遅いのだが、オビーエはようやく、メルヤンツへの思いを認めた。かくて皆の前で二人の婚約が成立し、リプパウトとメルヤンツも仲直りして、めでたし、めでたし。と、なったのである。

そして一人黄門様状態のガーヴァーンは、幸せに包まれたその国を後に、決闘の地へと旅を続けるのであった。





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