アイスランド・サガ −ICELANDIC SAGA

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勝利を決めるものたち 戦乙女と父なる神



戦乙女というと例のゲーム(ヴァルキリープロファイル By.ENIX)のせいで、「戦死者の魂を集めるものだ」いう認識を受けてしまっているようだが、彼女たちの主要任務は、単なる魂の回収だけではない。

 戦乙女の主な役目は、オーディンが目をつけた戦士たちに勝利を与えること、勝利へと導く手助けをすることなのだ。これをギリシア風に言うと、「勝利の女神さんがついている」と、いうことになる。
 彼女たちが、社長と秘書のように一対一の関係を築いていたのか、はたまた一人の戦乙女が何人かカケモチするような関係だったのかははっきりとしないが、おそらく、多くは前者のような親密な関係だったのであろう。
 オーディンのオーディション(笑)に合格し、選ばれた戦士たちは、オーディンの派遣した戦乙女たちに護られ必ず勝利する。
 しかし、時が来て、「もうそろそろいいだろう」とオーディンが考え出すと、たいへんこだわった演出のもと、美しく華々しく死んで次は天上での戦に備えねばならない。

 つまり、戦士たちは、人間界で修行を積んで、あるていど強くなったらアッサリ殺され、神々の世界へ転送されることになるのである!(これはゲームと同じ)
 だから、最初っから強い者ははやばやと天界に送られてしまうし、逆に、どんなに鍛えてもちっとも強くならない英雄は、見捨てられて神々の世界には行けなくなってしまうのだろう、多分。「英雄=早死に」の法則がここに。

 ちなみに、ゲルマンの信仰にある「戦場で名誉ある死を遂げる者は神の寵愛を受けている」と言われる理由はここにある。戦乙女がお迎えに来てくれてヴァルハラへ行けるということは、神々に「エライ英雄だ」と認められたことを意味するのだ。いつまで経ってもお呼びがかからず、自然死を待つようになる人は、「戦力外」と通告されたも同然。そのため、戦場で死にたいと、自ら槍で体を貫く戦士もいたという。
 日本で言うところの「切腹」に相通じるところがあるかもしれない。

 オーディンは、人の生き死にをたやすく決める。
 戦乙女はオーディンの手足であり、人間の英雄たちを鍛え、神の軍勢に加えるべくして働く営業まわりのサラリーマン(女性だからウーマンか)のようなものだ。
 もっとも、ゲルマン神話にはノルニルという運命専門の女神たちもおり、それぞれの戦士たちには、その家系の長を護る、つまり人につく女神<フィルギエ>というものもいる。
 ディシールというものもいるが、これはディース(神=dís)の複数形(dísir)なので、「神たち」という一般的な名前なのだろう。こちらは、「人につく」というものではなく、その土地ごとに存在する精霊というニュアンスのようである。

 さて、前述のノルニルに話を戻そう。
 ノルニルはオーディンたちアース神よりもはるかに古い巨人族の出で、何者にも抗えない運命を決定する。しかも、よく知られているように3人ではない。
 主要な3人の女神、ウルド・スクルド・ベルザンディのほかに、かなり沢山いる。その素性は、神だったり、巨人だったり、妖精だったりする。ノルニルという名前からして「ノルン」の複数形なのだから、言ってみれば、ノルニルとは運命を与える女神たちの「役職名」にあたるのだろう。


 運命の女神たちは、すべての子供に運命を授ける。この決定には、オーディンすら逆らえない。
 しかし、授けられた運命は大まかでアバウトなもので、「成功する、成功しない」だとか、「戦の多い人生」「早死に」だとか、その程度のようである。対して、家系を守護する女神(フィルギエ)たちは、個人を守護し、その個人を繁栄させ、災いから守り、細かい出来事にまで干渉している。

 もっとも、この家系の守護女神たちの興味は、守護しているその人物にあるのではないようだ。家系の繁栄は、家女神である自らの格上げを意味する。だから、家系を繁栄させようとして、その家でもっとも有力な者を助ける。もしその者が落ち目になったり、老いて力を無くしたりすると、アッサリ見限って他のものを選ぶ。選ばれた者は、女神の守護によって家系の統領となる。…
 家の没落を招いた一族の長が守護女神にサックリ殺されるサガもあった。

 戦乙女たちが、これにチョッカイを出せたかどうかは分からない。その家の繁栄に必要である勇者を、ムリヤリ天界に引っ張っていくことは出来たんだろうか。オーディンのしもべである戦乙女たちと家の守護女神たちとが張り合ったら、それはそれで大変なことになっただろうという気がする。
 そもそもディシールやノルニルなど運命を決定する女神たちは、妖精だったり巨人だったり、オーディンなどと同じアース神族だったりする。資料には、「良いノルニルを持つ者はよい人生を送り、小人の出身など悪いノルニルを持つものは悪い人生を送る」という記述もある。生まれる前に親を選べないのと同じく、守護してくれる女神さんも選べないとは、かなりイイ加減というかバクチ人生というか。

 これらに対し、戦乙女とは、ほとんどは神のしもべたる人間のことである。
 完全な神ではない。どこかの王の娘や、オーディンの隠し子(笑)、あるいは、何がしかの神の血を引く女性たち…だ。
 彼女らは役目を終えれば人間として結婚することがあるし、子供も産む。しかし、戦乙女という任務に当たっている間は、オーディンの支配下にあるため死んだり傷ついたりすることはないという。

 つまりは、ディシールも戦乙女も真の意味では「神」ではなく、人間にとっては未知なる力を秘めた強大な存在だというに過ぎない。結局のところ、運命を決める絶対の力を持つのは神であるオーディンとノルニルになる。
 なお、オーディンはとても身勝手で、今の今まで守護していた勇者を突然殺す気になったり、剣まで与えてかわいがっていた英雄を殺すために、その剣を奪ったうえ敵方に弱点を流したりもする。身内を守るとか、まとめるとかよりも、自分の欲望に正直に生きているような部分が大きい。

 こんなやり方に対し、女性たち(ノルニルも家女神も戦乙女も)は、なべて不快感を持っていたらしい。ノルニルは時々、オーディンに挑戦するような運命を紡ぎ出すし、ディシールたちはオーディンが不甲斐なくて新しき守護者(キリスト教)が現われたとき、自分たちの守護する者を腹いせに殺して去っていく。また、戦乙女のひとりプリュンヒルトは、オーディンに逆らって死ぬべき勇者を護ってしまったかどで、永遠の眠りにつかされていた。

 勝利を決めるものはオーディンであるが、統率制をもたないゲルマンの神々のこと…、結局は、みんなそれぞれ身勝手に、てんでバラバラに人間界に干渉していると言うのが、一番正しいのかもしれない…。
 余談だが、私は、勝手に運命決められて殺された人間の勇者たちって実はオーディンに反感持ってたんじゃないかと思う。なぜなら、オーディン(&フレイヤ)が戦死者の魂を集めるのは、来るべき世界の終末−ラグナロクにそなえるためだと言っているのに、いざラグナロクになったとき、誰も戦っていないからだ。

 …何故だ…^^;

+++
 余談だが、北欧には、人に幸運を授ける存在、ハミンギャ(Hamingja)と、いうものがあるようだ。この言葉は、そのまま運を意味し、「ハミンギャが見放した人=運の無い人」で、ある。
 アイスランドにおいては、現代でも「あなたにハミンギャが微笑みますように」という言い回しをするとか。
 このハミンギャというのも、ある意味では運命の神と言えるだろう。


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