アイスランド・サガ −ICELANDIC SAGA

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冒険者たちの神頼み トールの柱とオーディンの鴉



 海を渡る冒険者たちに見る信仰について語ってみよう。

 ゲルマンといえばヴァイキング。ヴァイキングといえば海の男。実はアメリカ大陸を最初に発見したのはどっかの冒険家ではなくて、根っから冒険を愛し未知なるものに挑んでいったゲルマンの海の男たちである。彼らは、文字で記される何百年も以前から海の向こうの大陸のことを知っており、そこの住民(インディアン?)と思われる人々とも交流を持っていた。
 
 ここでは、そんな彼らが、目標のない大海原を行くとき神々にどのような祈りをささげていたのか、ということを取り扱う。
 北欧神話の海神には、エーギル、ラーンなど、アース神でもヴァン神でもないものもいるが、彼等は人間の味方ではなかった。むしろ恐れを持って、「嵐の日は船を出してはいけない、ラーンの網に海底まで引きずり込まれてしまうから」と、いうふうな語られ方をしていた。

 陸地の見えない海の上で、どちらに行けばいいのか分からないとき、頼られるのは神々の父なるオーディンであった。サガの中に見られる英雄詩では、アイスランド発見にまつわる鴉の呪術が語られている。

 アイスランド・サガ[※植民の書]によれば、アイスランド島の発見者フローキ・ヴィルゲルザルソンは、3羽の鴉を連れて船に乗ったという。鴉は、オーディンの神が連れている、世界を見てまわるという、あの2羽の鴉にちなんだものである。
 フローキは、鴉に捧げものをして、道を示してくれるよう空に向けて放った。すると、3羽のうち1羽だけが風を抜けて真一文字に飛び、彼らに、その方向に陸地のあることを示したという。
 これが、のちにゲルマン信仰が最後まで残され、「エッダ」が編纂されることになる地、アイスランド発見へと繋がる。フローキは、以後フラヴナ・フローキ<鴉のフローキ>の二つ名で呼ばれることになるのだ。

 当時このような風習がよく行われていたのかどうかは定かではないが、このことから、「鴉は道を指し示すもの」である、と考えられていたことが読み取れる。そして、鴉によって新しい大地を発見することになったフローキは、鴉の主、つまりオーディンから勝利を与えられた勇者ということになる。


 続いて、発見されたアイスランドへの移住場面へ移ろう。
 ノルウェーからアイスランドへの人々の移住は、「北欧神話考察」でも紹介したように、ノルウェーの専制君主、ハラルド美髪王に対する反感から起こった出来事だったが、この移住には、もちろん神と信仰の移住も含まれていた。
 移住者の中のひとりソーロールヴ・モストラルスケッグという男は、大のトール信奉者で、自分たちとともにトール神もアイスランドに来ることを願っていたという。
 彼はアイスランドのフィヨルドに到達したとき、トール神の姿が掘り込まれた高座の柱を引き抜いて船から投じ、この柱が流れ着いた場所を聖地としてトールに捧げること、また、自分たちの入植地とすることを宣言した。
 果たして、柱はスネーフェルスネスという地の北に漂着した。ソーロールヴはその地をソールスネス<トール岬>と名づけ、岬の山をヘルガフェル<聖なる山>と呼んで何人も身を清めることなしに立ち入るなかれとした。

 この他にも、消えたフレイ神の像が移住すべき場所に現われる、などといった、媒介による神々の託宣が、サガの中には数多く登場する。ゲルマンの神々は、ギリシア神話のように巫女を通して託宣を下すことは稀であったらしい。(…そのわりに、神話の中には巫女という職業も登場するが…。)

 勇敢なるゲルマンの冒険者たちは、常に迷い無く己の力だけで突き進んでいったわけではない。
 時には行くべき方向を「神頼み」で、決めていたのだと、言ってもよいのではないだろうか。^^;


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