「赤毛のエイリークのサガ」
「エイリークル」になっている本もあるが、つづりの最後のrを発音するか、しないかについて、専門的なことはよくわからないので、今のところ保留。多いのは、エイリークという表記のほうだ。
アイスランド・サガは実在の人間の実際の記録であるため、このサガに登場する人々は、実際に存在した人物だ。その中でも、サガのタイトルにつけられている人物、エイリークはグリーンランドの発見者である。
彼は農場の奴隷をめぐるいざこざで殺人を犯しハウカダルルを追放されたあと、さらに長椅子用の木材をめぐる争いで、ソルゲストルという男と揉めることになる。争いは、互いの手勢を率いた本格的なものとなり、ソールスネスの民会で有罪を言い渡される。王権の支配するノルウェーと違って、各地区の人々が自治をするアイスランドでは、罪人はその地区の人々自身がひらく民会によって裁きを受けることになるのだ。
彼に言い渡された判決は、「3年間の追放」。しかし、彼はこの3年間をただ待つことはせず、クノル船と呼ばれる大型の商船に家畜や食料を積んで、仲間たちとともに冒険の旅に出る。かつて、仲間が見たという新天地を目指すというのだ。
遥か西方、グリーンランドの発見と移住。彼がこの地に「緑の陸地」と名前をつけたのは、その響きがよければ、人々の心をひきつけるだろう、という考えからだった。
それは、アイスランドでキリスト教が公認される15年ほど前のこと。
結局、この地への移住は失敗に終わるのだが、 新天地を目指した冒険者たちの魂は、サガの中で今も熱く生きている。
さらに、このエイリークの息子レイヴの話も残されている。
彼は、ノルウェーのオーラーヴ・トリュグヴァソン王に仕えていたが、布教に熱心なこの王がグリーンランドにも布教しようとしたのを受けて航海に出て、道に迷い、偶然にも新たな陸地を発見する。
このことから、レイヴは<幸運のレイヴ>との2つ名で呼ばれるようになり、以後、彼の兄弟やが何回にも渡って、アメリカ大陸とその周辺の島々に渡航することになる。
この物語の中で「スクレーリンギャル」と呼ばれているのは、アラスカインディアンだろうか。
彼らの間に接触があったのは10世紀のことなので根本的な因果は無いが、双方の神話において、ワタリガラスが大きな役割を果たしているのは、なかなかに面白い。
物語の中に語られる「レイヴの小屋」の探索や、当時の人々が記した古い地図など、考古学的にも面白そうな分野だ。
現在、アイスランドには、アメリカ大陸を指差して立つレイヴの像が建てられているという。
ただ、タイトルや冒頭とは裏腹に。全体を通してみた場合、この物語は、エイリークの息子のひとりソルスティンと結婚し、のちに寡婦となった女性、グズリーズルが主人公のようにも思われる。
彼女はヴィーヴィル、エイリーク、さらにカルルスエヴニといった主要な人物の家系に何度も登場する。そして、物語は、彼女の家系にのちに生まれた偉大なる人々(キリスト教にとって、だが)を語るところで終わっている。
物語の中で、キリスト教の布教が行われ、エイリークが信仰をめぐって妻といさかいをおこしている中、古い信仰の歌を知っていた最後の世代であるグズリーズル
が、キリスト教の司祭たちの母として描かれて物語が閉じられるのは、いかにも布教時代らしい終わり方ではないだろうか。
家系図/それぞれ、家系図の中心っぽい人物の名前をつけてあります。<>内は、通称、あだ名。おんなじ名前の人が何回も出てきますが、赤線を引いてある「グズリーズル」以外は全部別人です。 名前の「ル」は、発音の関係上ついている本とついていない本とがあったので、他の本でルがついていない人は、とりあえず()でつけてみました。
<家系図1 アウズル>
<家系図2 ヴィーヴィル>
<家系図3 エイリーク>
<家系図4 カルルスエヴニ>
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