アイスランド・サガ −ICELANDIC SAGA

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おまけ考察

神様の名を持つ人物名



 北欧の人物名には、神様の名前が入っている場合が多い。
 「ソルケル」とか、「ソルグリーム」とか、ソル…と、あるのが、それだ。この「ソル」のつづりは、「Thor」。トール神のことだ。

 ソルグリームのような男性名、ソルビョルグのような女性名、またソーラリンという男性名、ソールディスなどの有名な女性名など、アイスランドにはソールあるいはトールの名前を冠する人名がとても多い。太陽である「sol」もソルだが、それを除いても、アイスランド・サガに出てくる人物名は非常に多くがトールに関わっている。(トールの発音は、アイスランドでは「ソール」、スカンディナヴィア半島では「トール」。)

 では、他の神はどうだったのか。
 ぱっと見ると他の神の名前がつく人物はいなさそうだが、たとえばオーディンの場合、そのものではなく、別名、(グリームニル、ハーヴィなど)や、関係する動物(フラヴン=鴉、ウルヴァル・ウルヴル=狼)などをとってくることが多いという。
 そのほかにもフレイディース(女性名)などがある。


 ところで、古代エジプト人の名前にも、神様の名前が入っていることが多い。しかも、その神様は、階級によってだいたい決まっている。階級ごとに、信仰する神様が違うからだ。
 貴婦人階級だと「イシス○○」や「ムト○○」。
 武人・兵士だと「ホル(ス)○○」。
 墓や神殿の建造に関わる職人は「プタハ○○」…。
 このように、古代エジプトの場合はたいへん分かりやすいのだが、北欧の場合は、どうやら、階級ごとにキッチリ分かれているというふうではなく、名前に神々のついているからといって、その神を特に深く信仰していたかどうかは、分からない。
 何しろ文字による記録はキリスト教時代に入ってからのものだし、北欧には、親の名前の一部を受け継ぐという習慣があった。
 有名な祖先の名前を取ってくる場合もあった。ソール(トール)の名前が特に多いから、といって、トールが一番人気だったとはいえないようだ。

 ただ、天候神であるトールは特に農民階級に愛されたという説があり、庶民にとっては、オーディンよりもトールが一番だったのかもしれない。
 「エッダ」から見た信仰と、「サガ」から見た信仰との間には、少しばかり食い違いがある。
 その一部が、人物の名前にも現れているといえるのではないだろうか。


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