古今東西・北欧神話
フリッグの首飾り
夫のカードでこっそり大きな買い物をして、それを隠す現代の奥様にも似た、面白いストーリー。
この物語には、フリッグの信頼された侍女、フッラ(Fulla)…この本ではフォラ(Volla)とも書かれている…が、登場する。
フリッグは装身具が好きで、美しい首飾りや指輪を多く集めていた。
そして、今までに無い装身具を得るためにと、なんと大胆にも夫・オーディンの黄金の像が祀られている神殿に忍び込み、像の一部を盗んで、小人に渡した。
(オーディンの像を黄金で造るようなことがあったのかどうかは、分からない)
出来上がった首飾りは、とても美しく、オーディンもそれを見て大喜びだったが、ほどなくして自分の像が欠けているのに気づいてしまい、疑いを抱き始める。
オーディンは妻にそれとなく尋ねてみるが、叱られることを恐れるフリッグは、もちろん、本当のことは言わない。オーディンはさらに、フリッグの首飾りを造った小人たちを呼び出して問い詰めてみるが、小人たちはフリッグに口止めされているので、首飾りに使った黄金は自分たちが地下から掘り出したものだと答える。
いくら脅しても小人たちは決して口を割らず、オーディンは業を煮やして、黄金の像みずからに口を聞かせ、黄金を盗み取った者を喋らせようと考え始めた。
それを知ったフリッグは、驚愕した。
像が喋れば、自分のしたことがばれてしまう。そこで彼女は侍女フッラを呼び出すと、どうにかならないかと相談を持ちかけた。
フッラの名は「充実」を意味し、実りの大地を意味するという。(※この本での解釈のため、当然異説もある)
彼女の金髪や黄金の髪飾りは秋の豊穣を意味する、と、この本は書いている。フリッグを大地の女神とするならば、フッラはその娘にも等しい存在だ、というわけだ。
フッラは、相談を聞くと思案して、ひとりの、恐ろしい顔をした小人を連れてくる。
北欧神話には小人は二種類おり、フレイ神の統べる光の小人アールヴたちと、地下世界に住む、醜い闇の小人たちがあるが、これは後者の小人だろう。(そして、神々に様々なアーティファクトを造り与えるのも、この地下の小人たちである。)
小人はフリッグに言う、頼みを聞く代わり、自分に微笑みかけて欲しい、と。
なぜなら自分は醜くて、今まで誰も、自分の顔を見て顔を顰めなかった者はいないのだから。
フリッグは、この、奇妙な頼みを承諾する。
小人は、黄金の像のある神殿へ出かけていき、見張りたちを魔法で眠らせると、像を粉々に打ち砕いてしまった。
そんなことは知らないのはオーディン、寝ないで考え出した「像に口を利かせるルーン」を早速使ってみようと、喜び勇んで神殿にやって来ると、なんと番人たちば眠っているわ、像は粉々になっているわ、努力は水の泡、犯人はわからずじまいである。
オーディンは驚きあきれ、同時に、落胆した。
そして、ふらりといなくなってしまったのである。(そんなことでヘソを曲げてるあたりが…)
オーディンがいなくなったことを知ると、とたんに、ヨツンヘイムの巨人たちの勢いが増してきた。巨人たちは、太古の昔、神々によって辺境に追いやられた恨みを晴らそうと、アスガルドめざして攻めてくる。世界は瞬く間にヨツンヘイムから来る寒気に覆われ、春が来なくなってしまった。いわゆる異常気象だろうか。
こうして厳しい冬が七月ほど続いたとき、人間たちの苦しみを見るに見かねたオーディンは、ようやくアスガルドに戻り、『寒気の鎖を断ち切った』。
冬は終わり、春が訪れる。
フリッグが盗みを白状したかどうかは、この話では、伝わっていない。
※追記−出典は、サクソ・グランマティクスの「ゲスタ・ダノールム」と判明。
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