ニーベルンゲンの歌-Das Nibelungenlied

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ジーフリト

Sivrid/Siegfried
(現代読み・別つづり:ジークフリート、ジーフリート)


【作中の役割】

ジークフリートの名で知られる竜退治の英雄。名剣バルムンクを手に、ニーベルンゲン族から奪った財宝を持つ、容姿端麗でカンペキな王子様。…と見せかけて、かなり横暴。ブルグントの美姫クリエムヒルトに求婚し、妻とするが、自らが過去に働いた裏切り行為のため、グンテルの王妃プリュンヒルトの激しい恨みを買う。
彼の暗殺を恨むクリエムヒルトは、エッツェル王と再婚し、エッツェル王の軍隊を使って、暗殺に手を貸した自らの一族を滅ぼすことになる…。


【作中での評価】

彼は身分にふさわしく懇篤な教育を受けたので、その生涯の天分からも、いかばかりの才能を身につけたことであろう。何かにつけて天晴れのものと見なされて、そのため父王の国の誇りともなったのであった。(23)
−語り手による人物紹介

王妃は以前ニーデルラントにおいて、これほど多数の武士にかしづかれてはいなかったように思われる。それはジーフリトは財宝こそ豊かに持っていたが、今エッツェルの前に見るほど多くの高貴な勇士はついぞもたなかったと信じられるからだ。(1368)
―ジーフリト亡き後、エッツェル王と再婚した際の語り


【名台詞】

「もし妹ぎみを、あの貴い王女なる美しいクリエムヒルトを私にお与え下さるなら、よろこんでお力添えをいたしましょう。それ以外には私の骨折りに対し、何らの恩賞も望みません。」(323)

会ったことも無いが美しいと聞くクリエムヒルトに求婚するためケンカ腰でウォルムス城に乱入したくせに、クリエムヒルトをはじめて見たとたんのぼせ上がり、手に入れるためなら何でもするとばかり、この台詞。くれないなら奪い取ると言ってた貴方は何処へ。


【解説】

実在モデルは不明。「詩のエッダ」や「ヴォルスンガ・サガ」など、古い伝承に登場する「シグルズ」が、彼の原型である。
「竜退治の英雄」として知られるが、実は北欧神話の中で退治したのは、竜というより「巨大な蛇」(ormr)。不死身の英雄という肩書きを持つ。

元になっている北欧の伝承では、ジーフリトは本来の両親を失い、小人のもとで修行したことになっているが、この「ニーベルンゲンの歌」ではジーフリトを由緒正しく身分高き王子にするため、両親がまだ存命しているという設定になっている。また、元の伝承では竜を倒し、竜が守る宝を手に入れたことになっているのを、竜退治と宝の入手を別の伝承として取り扱っているのも特徴だ。

眠れる戦乙女を目覚めさせた王子ということで、童話「眠れる森の美女」の王子のモデルになったともされるが、もともとの伝承では、童話と違い、目覚めさせた姫君を捨てて別の女性に走っている。
その、捨てられ欺かれた元戦乙女こそ、「ニーベルンゲンの歌」のプリュンヒルトなのだ。別の女性と結婚しただけならまだしも、その女性を得るためのダシに使われたとあっては、彼女がジーフリトに憎悪を抱くのも、無理からぬ話だろう。
ジーフリトが殺されたのは、いわば、自分の身から出た錆と言える。

容姿端麗、絶対無敵のヒーローでありながら、己の力にたのんで、後先考えず行動しすぎたジーフリト。彼の命取りは、裏切りを犯した自身の罪を軽んじ、プリュンヒルトの決して消えない憎悪を考えなかったこと。そして、鋼鉄の体を持つゆえ何者にも負けはしない、という奢りの心。
そして女心の激しさを理解していなかったことだと言えよう…。


【ホンネで語るキャラクター】

ええとこのボンボン(王子)で一人息子、容姿端麗、スポーツ万能。さらにニーベルンゲンの宝のお陰で稀代の大金持ち。これで若いとくれば、そりゃーお姫様もなびくだろうって。女のコたちからキャーキャー言われもしよう。(実際、言われてる)

でもな。どう考えてもこの人、バカでわがままだから。絵に描いたような「ぼん」だから。全てが力づくでものいわすマッチョキャラだから…。
逢った事も無いクリエムヒルトを「あの人、美人らしいよ」のウワサだけで妻にしようと思い立ち、その実家のあるウォルムスに殴りこみ。言った言葉は「クリエムヒルト寄越せ、さもなくば戦って国ごとぶんどってくれる!」
人々が驚きあきれたのも、無理はない…^^;

まあ、そんなこんなで、彼のやることは暴力沙汰ばかりで、ロクなことが無いんスよ。自分の家来を呼びにいったのに、家来をボコボコにして血みどろにするまで自分が主君であることを名乗らないとか(ストレス解消か?!)、女を力づくで虐げ指輪と帯を盗むとか(窃盗犯だし)、自分の妻を張り倒すとか(暴力夫だよ)、まともに読むと、ジーフリトは「殺されてもしょーがないくらいヤバい人」になってしまう…。

「ジーフリトが英雄の原型なら、英雄ってのはなべてガサツで浅いものなんだな…。」と、思いたくもなるものである。




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