ニーベルンゲンの歌-Das Nibelungenlied

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ヒルデブラント

Hildebrant/Hidebrant


【作中の役割】

亡命中の主君、ディエトリーヒとともにエッツェルの宮廷の食客となっている老戦士。名の知れた人物である。
ブルグント勢とは、リュエデゲールの領地で出会い、その後も友好的だが、リュエデゲールが倒されたことを聞き、出陣せざるを得なくなる。争いを好まず、部下を押しとどめようとしたが、出来なかったようだ。
戦闘後、クリエムヒルトが自らの兄グンテルの首をはねさせ、捕らえられたハゲネを自らの手で殺すのを目撃するに及び、クリエムヒルトを誅殺する。


【作中での評価】


【名台詞】

「何者がお供したらよろしいのでしょうか。生きているご家来はすべてお側におるのです。それはすなわち私ただ一人で、ほかの者は残らず死に絶えました。」(2318)

リュエデゲールの死を聞いて、手勢を率いて様子を見に行ったところそのまま戦闘となってしまい、ブルグント勢は主君グンテルとハゲネ、アメルンゲン勢は主君ディエトリーヒとヒルデブラントしか残っていない状態での台詞。せつなさに胸が痛いです、師匠。


【解説】

ヒルデブラントは、ディエトリーヒの幼少時から使える老臣であり、自分の甥や主君の従兄弟が倒れても怒りに身を任せないなど落ち着きのある人物で、自らの正しいことを信じ、ここぞという時には立ち止まらない。そんな人物である。

彼の名前が最初に見られるのは、「詩のエッダ」の歌の一つに数えられる、古ノルド語の詩「ヒルデブラントの挽歌」である。
そこでの彼は兄弟殺しとして語られており、そのエピソードは「シドレクス・サガ」(=ディートリッヒを主人公とした英雄叙事詩)にも受け継がれている。

ディートリッヒの師父(剣術指南)、片腕となる老戦士として登場するヒルデブラントは、ブルグント側におけるハゲネの位置に相当する。

ヒルデブラントの率いるディエトリーヒの部下たちとブルグント勢は、ほとんど成り行き上、戦闘に巻きこまれ相打ちとなってしまう。人々が武装して出かけるのを止めようとするなど、戦いを望んではいなかったが、結局、悲劇を止めることは出来なかった。その悲しみをあらわす悔悟が【名台詞】にチョイスした台詞に出ているように思う。

敵対することになっても、ハゲネやグンテルへの「戦士としての尊厳」は忘れず、生け捕りとすることで戦いを終わらせようとする。
彼は何より、礼節と、人としての道理を重んじた。
だからこそ、その尊厳を踏みにじり、自らの憎しみのために生け捕られた二人を無残に殺してしまうクリエムヒルトに怒り、彼女を殺すのだと思う。

悲劇を引き起こした張本人であるクリエムヒルトの復讐の完遂と、彼女自身の死によってこの物語は幕を閉じる。その幕引きをしたのは、他でもない、このヒルデブラントなのである。



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