■ニーベルンゲンの歌-Das Nibelungenlied |
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Hagene von Tronege/Hagen Von Tronje
(現代読み:ハーゲン・フォン・トロニェ)
【作中の役割】
ブルグントの国、随一の勇士。父はアルドリアーン。少年時代、人質としてエッツェル王の国にいたが、成長してからブルグントに戻り、グンテル王に仕えている。
近隣の国々からは恐れられ、ブルグントの国を語るとき、真っ先に恐れとともに口にされるほどの人物。
ジーフリトが宮廷でケンカを売られたとき手を出さず友好的にことが運ぶよう計らい、ザクセンとの戦い、イースラントへの求婚旅行で共に行動するが、そのジーフリトによる裏切りが発覚した時、猛烈な怒りによって殺害を決意するのも彼である。
クリエムヒルトは、信頼から夫の弱点を漏らしてしまったことを悔やみ、彼を激しく恨み、彼ひとりへの復讐のために血の惨劇を画策する。
それを知るハゲネは、クリエムヒルトの持つニーベルンゲンの黄金を奪い、ライン河へと沈めてしまう。また、エッツェル王と再婚して権力と財を持つことを恐れ、最後まで反対した。
クリエムヒルトからの招待の使者が来たときも、裏切りがあることを知ってはいたが、主君たちが行くと言っているのに、ひとり国もとで待つことが出来るはずもなく、自ら運命に身を投じる。
エッツェル王の国へ向かう道中、水の精たちから死を予言されつつも、運命に向かって突き進む姿は、騎士というよりは古代ゲルマンの戦士の姿である。
【作中での評価】
「例えば、あのハゲネという豪傑のことだけ考えてみても、あれは思い上がって、無礼なこともしかねぬ男だ。」(54)
−序盤、ニーデルラントの王ジゲムントが、息子ジーフリトにウォルムスへ行くことを思いとどまらせようと言う言葉
「だが往年の若者が 今はなんと老巧者となったか。その後智慧がまさってきて、獰猛な男となった。」(1798)
−ハゲネが若い頃に居た、エッツェルの宮廷の人々が語る言葉
【名台詞】
「天つ神もおん身に報いたまえ、親愛なフォルケールよ。
わしがどんな苦境に立って、悩むことがあろうとも、おん身ひとりの助けさえあれば、他に誰も要りはせぬ。」(1831)
エッツェルの宮廷で、クリエムヒルトの家臣たちに命を付けねらわれるハゲネが、フォルケールの助力に対して言う言葉。味方には絶大な信頼を得、敵には恐れられる彼が、ただひとり親友にだけは人間らしい弱気さを漏らすところが胸に響く一言。
【解説】
ジーフリトと並び立つ英雄として、物語の中では、かなり大きな役割を占める人物。
父はアルドリアーンという名で、かつてフン族の王エッツェルのもとに、人質として滞在したことがある。各国を遍歴したとも書かれ、見識が広い。もしかすると、フォルケールとも、その旅のどこかで知り合ったのかもしれない。
ジーフリト暗殺によって血も涙も無い悪漢として非難されることもあるが、実際は、リュエデゲールや、ヒルデブラントによって語られるスペインのワルテルなど、友情を結んだ相手とは決して戦わないという主義を貫く情の篤い人物である。ただし、それ以外の守る価値の無い約束や過去はバッサリ斬り捨てる武人的な非情さも併せ持つ。
そんな完璧無比で、単独でもやっていけそうなハゲネを支えるのが、弟ダンクワルトと親友のフォルケールである。
二人とも、戦闘においてはハゲネが全信頼を置くほどの働きを見せるほど強い。ハゲネ自身がブルグント一の強さを誇るので、窮地に陥ったときに助けを求めるのは、同じほどの強さを持つ彼ら以外にいないのである。強すぎる英雄は孤独になりがちだが、ハゲネは一人ではない。恵まれた境遇だったと言えよう。
ちなみにハゲネの実在モデルは不明。「〜フォン トロイエン」という名前がつくのは、ニーベルンゲンの歌と同時期になってからなので、この人物の起源とはあまり関係なさそうだ。
当時、苗字にあたる部分には出身地の名前がくるので、名前に入っているトロイア、またはトロイエンというのは、町の名前である。
そういう名前の町が実際にあったかどうかは謎で、作者がどのへんの町を想定していたのかについては、多くの議論がある。
トロイ戦争の「トロイ」と直接関係があるかどうかについても、諸説ある。
ブルグントの歴史家たちが記したとされる「トロイ滅亡その後」にまつわる"伝説"の中に、トロイの生き残りの人々が新たに町を作った、とか、伝説のプリアモス王がライン河の岸辺に新たな国を作った、とか、書かれていることから、その伝説を下敷きにして、「ハゲネはトロイの人々が新たに作ったライン河流域の町、トロイエンの出身」という"設定"で、ニーベルンゲンの歌が書かれたのかもしれないと言われている。
なお、ハゲネの役割は、ニーベルンゲン伝説に関わる他の様々な物語の中で少しずつ異なっている。
たとえば「ヴォルスンガ・サガ」の中では、妻ブルュンヒルトの嘆きを聞いたグンナルがシグルズ暗殺をもくろみ、それをホグニが止めようとする、という構造になっている。
ニーベルンゲンの黄金についても、それを手に入れるためにシグルズを殺したという伝説は存在せず、むしろシグルズを殺したことで手に入れたその黄金がもとで、アトリ王に戦いを挑まれ、一族の滅びを招いたとされる。
どの物語においても、ハゲネは勇猛果敢な人物として描かれ、ジーフリトとは異なるタイプの「英雄」として存在する。
「誰もが思い描く英雄の代表」であるジーフリトに対抗し、命を奪うことの出来る"唯一"のアンチヒーロー、それが彼なのかもしれない。
【ホンネで語るキャラクター】
もうめっさカッコいい男前キャラクター。自分、かなりラヴ。
そもそも、この「ニーベルンゲンの歌」のサイトを作ろうと思ったキッカケはこの人にあったりする。
サイト作った2001年当時、Web上にはニーベルンゲン関係のサイトは無かった。ちょろっと解説されてるサイトでは、ハゲネは極悪人扱い。オイ待てや、どこをどう読んだらハゲネ兄さんが悪なんだい、確かにジーフリト殺してますが殺される理由は、あるんだってば!
かくてハゲネ兄さんの汚名を雪ぐべくして語り始めたのは、このサイトのそもそもの始まりだった…。
ハゲネは繰り返し「恐ろしい」「冷酷」な人物と描かれながら、仲間にはとても恵まれている。
弟ゲールノートや親友のフォルケールもそうだし、主君たちも信頼をおいている。戦うことになったとき、ヒルデブラントが口にするのは彼が親友ワルテルとの戦いを拒んだ過去だし、ディエトリーヒも、自分の家臣を殺されていながらハゲネの命乞いをする。
恐れられはするけれど、憎まれているわけじゃない。むしろ多くの人の尊敬を集める人物、それが、この人だと思う。
男が男にホレるには、それなりの理由があると思う。本当に冷酷なだけの人間だったら、友達いないから。
人をひきつける本当の魅力ってのがある英雄だと思うんだよ。
たぶん本当は情に厚い人なんだと思う。そうじゃなきゃー、人は集まらないでしょ。見た目怖くても、知れば好きになれるから。実はいい人だから。ねっ、フォルケール!