■ニーベルンゲンの歌-Das Nibelungenlied |
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Ecel /Etzel
【作中の役割】
フン族の王。王妃をなくした後、寡婦となったクリエムヒルトと再婚する相手。自身は異教徒だが、キリスト教徒の騎士を多く抱える王だと書かれている。亡命中のディートリッヒ王ほか、様々な国の人々が客人としてこの王の宮廷にいる。
自分の身内の者たちを招いてくださいという妻の言葉に何の疑念も抱かず客人たちを迎える、かなりニブいお方。最後まで妻の企みには気づいていなかったようだ。
最後まで物語の蚊帳の外にいて、妻に利用されるだけされた。生き残りはするものの、その後の人生はあまり明るかったとは思われない。
【作中での評価】
「およそ立派に国を手に入れ、もしくは王冠を戴いた人のうちでも最も卓れた王者が、あなたの愛を得るために使者をつかわされたのです、お妃様。」(1227)
―使者のリュエデゲールがエッツェル王からの求婚の申し入れをしに来たと伝えた時のゲーレの言葉
「王者たるものは、一軍の先頭に立って戦ってこそ民の守護者たるにふさわしかろう。」(2020)
―戦おうとしないエッツェル王を嘲って言うハゲネの言葉
主人である国王がひどく憂えたのも当然のことであった。(いかに多くの親しき親族が、彼の目の眼前で失われたか。)
彼は敵前で僅かに自分の命を保つ有様だったので、不安に怯えつつ坐っていた。王たる位も何の役にも立たなかった。(1982)
―宴から一変、フン族とブルグント族が広間で激突した際の描写
【名台詞】
「これはしたり。およそ戦場に出て、あるいは盾を手にしたものの中でもならびない勇士であったのに。一婦人の手に討たれたとは嘆かわしい。わしは彼に恨みはあるが、悲しいことに変りはない。」(2374)
ラストシーン、ハゲネがクリエムヒルトに討たれたシーンでのセリフ。あーた、よりにもよって言うことはそれだけですかい?
そもそも何でこの戦いが起こったのか、分かっていたのだろうかこの人は。息子や弟を殺されたのだから和議を突っぱねるのも分からなくはないが、先に手を出したのは、王妃の企みに耳を貸したブレーデルですが。
この期に及んで、なんて見当違いのセリフなんだ。と呆れるほどの一言。
【解説】
実在するモデルはフン族の王アッティラ(アッチラ)。「神の鞭」と呼ばれた伝説上のフン族の王で、この王の時代にヨーロッパは民族大移動の混沌期を迎える。実際にブルグント族の国を壊滅させた王だ。
(違うのは、歴史上のアッティラはウォルムスへ直接攻め込んだが、伝説ではブルグント族を自らの居城に呼び寄せてから殺したという点
ニーベルンゲン伝説の後半は、この歴史的事実が元になっている。アッティラはアトリ、エッツェルと名を変えて、敵役のグンテルとともに、様々な物語に登場するのだ。
「ニーベルンゲンの歌」においては、10世紀のハンガリーの国王、シュテファンもモデルの一人になっているという。
歴史上のアッティラと違い、物語上のエッツェルはハンガリーの国に首都を置く。そのハンガリーに、アルパート公ゲーザの息子として生まれたのがシュテファンだった。その頃ハンガリーはまだ異教時代にあったが、シュテファンの妻となるギーゼラはキリスト教徒で、結婚の条件として(クリエムヒルトと同じように)異教徒のもとには嫁ぎたくない、キリスト教を国教として欲しい、と要求するのである。
王妃となったギーゼラは強行な改革を行い、シュテファンもそれを助けたが、あまりに血なまぐさい改革だったため、後世の歴史家たちは年代記を捏造したのだという。
すなわち、異教徒の処刑など血なまぐさい改革を行ったのはギーゼラのほうで、気の弱いシュテファンは、心を痛めつつ反対できなかったのだと。
この偽造された歴史が「ニーベルンゲンの歌」の作者の目に留まり、復讐に猛るクリエムヒルトを止められなかったエッツェルの姿になっていったのではないかと考えられる。
このような時代背景を考えると、「恐怖の王」とまで呼ばれたアッティラ王が、こんなにも弱々しい、嘆くだけの王に変化してしまった理由も納得できる。クリエルヒルトの「異教徒には嫁ぎたくない」というセリフも、エッツェル王の異教とキリスト教の混合も、物語の書かれる背景が、異教時代からキリスト教時代に突入してから起こった変化だ。
もしも彼が妃の悪しき企みを知り、止めようとしていれば、この悲劇は防げたはずなのだが。
【ホンネで語るキャラクター】
歴史上は血なまぐさく荒っぽく、いい意味でも悪い意味でも勇敢だった人が、騎士叙事詩の世界では見るも無残な軟弱君主に。ぶっちゃけ「オマエ何しに出てきたんだ…?」的な王様。これがラインからドナウまでの広い流域にわたる国を統べる王? これが?
一言言いたい。後妻に国乗っ取られてんじゃねーよ。
家臣をアゴで使うのは、クリエムヒルト。クリエムヒルトに口どめされたら、家臣団は彼女の企みを主君に打ち明けない。だからこの人、クリエムヒルトが自分の一族を宴に呼び寄せる口実で、ハゲネを暗殺しようと思ってることに全く気づいていない。
よほど人望が無かったのか。いや、部下は多いんだから人望が無かったわけじゃない。きっとブレーデルあたりが兄のかわりに国を治めていたんだろう。
もう一言言いたい。自分の軍隊使えよ!
広間にたてこもるブルグントの面々を遠巻きに取り囲むエッツェル王の配下の大軍。…しかし、エッツェルの部下で突っ込んでいったのはイーリンクのみ、他、人々は怖がって近づかない。いくぢなしすぎッ!
ムリに頼み込んでリュエデゲールを突っ込ませるも、当たり前だがリュエデゲールの軍だけで勝てるはずもなく死亡。実質、ブルグント族の猛者たちを倒したり捕らえたりして活躍するのは、この戦いに何の関係もなかったはずの、ディエトリーヒの軍だったりする。
――エッツェル王にはたくさんの家臣がいたというが、結局、ろくな家臣がいなかったんだろうな。ほとんどは金目当てで集まってきていた、勇気や忠誠に欠ける人々だったとか。大軍を率いていながら、自分とこの城にたてこもってる人々を引っ張り出すのに何も出来ないってのは、あんまりにも情けないだろうよ。なあ、エッツェル王…。