フィンランド叙事詩 カレワラ-KALEVALA

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第34章
Neljäsneljättä runo


 イルマリネンの報復を恐れたクッレルボは、早々と姿をくらましていました。

 行くあても、目的もなく、荒野をさすらうクッレルボ。自分は何のために生まれたのか。どこへ行けばいいのか。誰に望まれたわけでもない、誰に望まれているわけでもない。
 でも、自分はまだ死ねないのだと、彼は考えます。たとえ一族郎党がとうに無く、自分ひとりだったとしても、生きなければならないのだと。
 …同じような内容でも、ワイナミョイネンじいさんがぼやくのと彼がぼやくのでは、何か重みが全然違います。普通は逆でしょ、ジジイのぼやきのが深いもんでしょ。^^;
 クッレルボ、苦労してきたんだなぁ。(しみじみ)

 考えた挙句、彼は、もはや自分の存在価値は一族の復讐を成し遂げることにしかない…と、結論づけました。幼き日に、口に出して呟いたがために殺されかかった誓いです。
 けれど、父の一族を虐殺したウンタモ族に殴り込みに行こうとする彼は、1人の女に呼び止められます。
 その女が誰だったのか。誰にせよ、この女こそ、クッレルボのその後の運命を変えてしまった人物には違い在りません。
 「あんたは、まだ1人じゃなないわよ。あんたのお母さんは生きてるんだから。」
 何と、幼き日に引き離された母がまだ健在だと言う! 女は言います。「そこには、あんたの2人の妹さんもいる」―――と。どうやら、母は再婚して、クッレルボの知らない弟妹たちを産んだようです。
 何でそんなこと知ってんだ、もしかしてアンタ人間じゃないのか?!
 なんて問いかけ、クッレルボはしませんね。するだけ興味も無かったんでしょうか。その代わり、女を信じて、教えられた道をゆくのです。

 彼は、生まれてすぐに復讐を決意するような早熟な子供でしたから、もしかしたら母親の顔も覚えていたのかもしれません。

 長い長い道のりを旅して、ようやく母の家にたどり着いたクッレルボ。当然といえば当然かもしれませんが、母は最初、クッレルボが自分の息子だとはわかりません。しかし、話をしてはじめて自分の息子と気がつくと、彼女は、死んだと諦めていた息子の思いがけない帰還に涙を流して大喜びします。

 ふつーのお母さんだ。
 ふつーの親子感動のご対面シーンだよ。

 「…よかった。あんたのことは、もう諦めていたのよ。あんたは戻って来てくれた…。でも、きっとあの子は帰ってこないわね」
 「あの子?」
 「あんたの妹よ、2人のうち年上のほうが、行方不明になってしまったの。」
何と、再会するなりそんな話です。母親のほうも、息子に負けず劣らず不幸な人生を歩んでいた模様。
 母は言います。苺つみに行ったきり戻らない娘を探しに行くと、山々は応えてくれたのだと。山の轟きはこう言いました。「あんたの娘は、生涯戻ってくることはないだろう」。
 この、不幸な予言が成就するのは、この直ぐ後のことなのでした。


{この章での名文句☆}

他の人はその家へ帰り、自分の住処へ旅して行く。
俺は森の中に家があり、荒野に屋敷がある。


何だかんだ言って、一人ぼっちになるのは初めてだったクッレルボ。
生まれてはじめて、孤独の意味を知った瞬間かもしれない。


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