フィンランド叙事詩 カレワラ-KALEVALA

サイトTOP2号館TOPコンテンツTOP

第27章
Seitsemäskolmatta runo


 かくして、ポホヨラの女主人の家に殴りこんだはレンミンカイネン。
 幸いなことに、彼がたどり着いたとき、花婿イルマリネンは、花嫁とともに実家(カレワラにある)へ出立した後です。残っていたのは、みな、最後まで残っていたロウヒ宅のご近所の人々ばかり。宴は終盤にさしかかり、誰もがほろ酔い加減に、送り出された花嫁の、輝く未来を称えていました。
 そこでレンミンカイネンは、招待されていないにも関わらず、無作法にも大声を張り上げました。
 「オレが来たからには、ビールくらい出してくれるんだろうな?!」
呼ばれていない客がご馳走を要求するとは、とんだ痴れ者ですなまったく。しかし、これが彼の流儀なのです。

 ポホヨラの女主人は、また面倒な奴が来てしまったと眉をしかめながら、それでも表面上は平静を装って対応しました。
 「少しは静かにしていてくれないかい? あんたが静かにしているのなら、ここにいてもいいけどねぇ。」
 「何だと? …てめぇ、オレを呼ばなかったのは、一体どういう了見だ! おい、酒くらい出せよ!」
 「…ったく。もう宴会は終わっちまったんだよ。あんたに出すものなんか、ないよ。」
そう言われるのも当然だろうに、これを聞いた短気なレンミンカイネンは、あっさりキレてしまいました。
 「この女…。ポホヨラとカレワラの人間はことごとく招待しておきながら、わざと、このオレだけを呼ばなかったな?! ふざけんな! メシも出さねぇんなら、オレには大人しくしてやる義理なんかねぇぞ。」
と、客たちの前ですごんで見せます。
 これ以上、厄介ごとを起こして欲しくないロウヒは溜息。
 (ったく。だからイヤだったんだよ。この男は…)
勝てるかもしれないけど自分もそれなりに痛手を負うから、まともに戦うのは出来れば避けたい、という相手だったのでしょう。仕方なく、下働きのみすぼらしい少女に、残飯のような料理を運ばせます。
 …事実、残りモンのごはんだったのでしょうが。

 彼は、出されたビールの底にうねる蛇たち、つまりはロウヒの呪いを、母の助言に従って見破り、蛇をすくい出してからコップを飲み干し、さらに挑戦的な言葉を吐きつけます。
 「ふん。ろくな飲みもんも出さないようなら、あんたらはオレに、良い客人であって欲しいとは思わないわけだな。」
 「何だと。おい貴様」
と、ここで、いい加減頭にきて、前に進み出た者がいました。
 それは、ポホヨラの女主人ロウヒの旦那。イルマリネンとワイナミョイネンが求婚に来たとき、1人で大慌てしていた、あの、ちょっと頼りない普通の人間な旦那さんです。
 彼はこの物語の中でいちばん常識的で(魔女を妻にしてる、ということを除けば)、一番、どこにでも居そうなお方なのですが…。

 「誰にも招かれていないくせに勝手にやって来て、何て言い草だ! 貴様など、こうしてくれる!」

 旦那さん、ポホヨラの主人は、レンミンカイネンを沈めてしまおうと、魔法で池を出しました。おいおい、家の中なのにそんなんどないしてんねん、とかいう基本的なツッコミは、この物語には無用。魔法の歌を使える者は、この世のすべてを支配する…!
 よっぽど広いお屋敷だったのでしょうねえ…。
 しかし、旦那さんは普通の人なので、魔法も普通の人間レベルでした。その程度の魔法なんて、レンミンカイネンには効きやしません。
 次から次へ繰り出す呪文を、彼はいとも簡単に打ち返し、さらに小ばかにしたような顔。
 「おのれ…。めでたい宴をメチャクチャにするつもりか?! とっとと出て行け、この悪党め!」
それ以前に、家ん中で池やら狼やら召喚しまくった旦那さんご自身、家ん中をメチャクチャにしている気がしなくもないんですが。

 「ふん。あんた如きの力じゃあ、オレをどこかへやることは出来ねぇな。」
 「なんだと?!」
カッとした旦那さん、壁にかけられていた剣を掴みます。魔法が駄目なら剣で、ということでしょう。
 でも、コレもダメ。レンミンカイネンは単なる魔法使いではありません。魔法戦士なのです。もちろん剣の腕前も、人並み以上です。
 「ふーん、そう来るか。なら、オレの剣の腕を試してみるかい?」
 「望むところだ!」
余裕しゃくしゃくのレンミンカイネンは、剣を抜き、ポホヨラの主人と向き合いました。しかも、
 「あんたから先に攻撃していいぜ。」
と、敵将に塩まで送ります。さすがは戦い好きな青年、戦闘シーンに入ると異様に格好いいです。

 怒れるポホヨラの主人の激しい攻撃が繰り出されますが、レンミンカイネンはその攻撃を難なくひらりひらりとかわし、さらにはこんなことも言いました。
 「おい、ここじゃマズいぜ。家と客を壊しちまう。外に出よう!」
活き活きとして庭に飛び出したレンミンカイネンを追い、ポホヨラの主人も外に踊りだします。
 「来い! お前の剣のほうがオレのより立派だろう。だがあんたには、それが必要なのさ。あんた自身が、オレに斬られて死ぬためにはな!」
 「ほざけ―――この若僧めが!」
戦いはさらに激しさを増しますが、ポホヨラの主人の攻撃はかすりもしません。その間じゅう、レンミンカイネンは、ただ攻撃を受け流すだけです。
 それほどに、2人の力量には差がありすぎました。

 そうして、いいかげん打ち合いに飽きてしまったらしいとき。
 「ふん…。みじめなもんだな、あんたは。あんたの首は、夜明けのように紅だ!」
言うなりレンミンカイネンは、一撃のもとにバッサリとポホヨラの主人の首を切り落としてしまったのでした。
 すぱーんと首が飛び、ころころと庭を転がります。
 しかも。見守っていた客たちが愕然とする中、レンミンカイネンは、落ちたその首を掴んで侮辱します。
 「ざまぁねぇな。おい、誰かこいつの血糊を洗ってやるかい?!」

 「……。」
男どうしの決闘は止めてはならぬもの、これまでじっと見守っていたポホヨラの魔女ロウヒも、ついに堪忍袋の緒が切れました。
 そりゃそうです。目の前でダンナを殺され、しかも酷い侮辱を投げつけられたのですから。
 さしものレンミンカイネンも、はっとして口を塞ぎました。
 本気のバトルモードに入った魔女の気配は圧倒的。彼女は魔法で、武装した軍隊を召喚します。もちろん、レンミンカイネンを殺し、ポホヨラの主人の仇を討つために。
 「チッ…。こいつは、ちょいとばかりまずいかな。」
 幾ら彼だって、千人の魔法兵団相手に戦うのは、無理というもの。これ以上の長居は無用、とばかり、走って逃げ出すのですが…



{この章での名文句☆}

それがお前に必要だ、死んで別れとなる前に、
または首が切られる前に―――。

戦っている最中のレンミンカイネンの台詞は、やたら男前なものが多いです。さすが戦士。
逆に、ナンパ時のものは歯が浮くようなものばかり(笑)。
 


Back Index Next