フィンランド叙事詩 カレワラ-KALEVALA

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第19章
Yhdeksästoista runo


 到着したイルマリネンは、さすが紳士的な男だけあって、いきなり「嫁になれ!」とは言いません。
 まずは魔女ロウヒに言います。「あなたの約束してくれた娘さんをいただきに来た。」ロウヒも、娘の気持ちは既に決まっているようですし、サンポを造ったら嫁にやると約束したのも事実ですから、断ったりはしません。

 が、そのかわり、注文をつけます。
 「もちろん今、あの子に嫁入りの仕度をさせているよ。ただ、あんたには、鋤を使わずにマムシ畑を耕してもらわなきゃあ困るねえ。」
えっ、この期に及んで、まだ結婚に条件があるんですか?! と言いたいところですが、どうやら、これは結婚に際して用いられる、一種の「ナゾかけ」のような儀式のようです。

 与えられる3つの難題に対し、婿となる男性が、許婚(いいなずけ)と力をあわせ挑む―――、結婚前に、果たして2人が夫婦としてやっていけるかどうか、確かめようというのでしょうか。ポホヨラは母系社会であるらしいことからしても、(父は尻に敷かれている^^;)このような確認が必要だったのでしょうか。

 なお、この「3つの課題」は伝承によって違っており、「熊やら狼やら捕まえてくる」「釣具を使わず魚を釣る」「馬を捕らえてくる」「灼熱サウナに入る(笑)」などまちまちのよう。「サンポ鋳造」がこの3つの課題の中に含まれる、ショートカット版の話もあるようです。

 もちろん、それがどんな課題であるにせよ、最終的にイルマリネンはすべてを許婚の助言でこなし、彼女を手に入れることになるわけですが。


 で、その間、ワイナミョイネンは何をしてたかっていうと?
 …あっ、まだ戸口で硬直してます(笑)。
 「はああ…。わしはなんて情けない男なんじゃあ。」
負けたことが、余っ程悔しかったと見え、かーなり落ち込んでおります。しかも、彼は負け惜しみのように言うのです。
 「ふん…若いうちから子供つくって家族なんか持っちゃ、自由がなくなるわい。今に後悔するに決まっておるわ。」
おいおい、だからって年取りすぎても何でしょうよ。まあ…確かに当たってはいますが。

 ちなみに、ワイナミョイネンはその昔、「婚儀を司る神」だったものが転じて人間の英雄になったものだと言われています。
 結婚に関わる神だったころの名残なのでしょうか、彼はこの章の最後で、「老人が若い娘に思いをかけること、他の者と競って求婚すること、嫁にもらうこと」を禁止する、と宣言してしまいます。
 それって自分の首も締めるんじゃないの? と思ったあなた。大正解。

 神および神に近い存在は、自分の口にしたことを決して破ってはならないのです。何せ、そこは言葉が力を持つ国、呪文と知恵の世界―――、なのですから。


{この章での名文句☆}

馬を隠すのはわけないが、見事な山羊をかくまうのは、
乙女をかくすのはむずかしい

ちょっと待て。未婚女性は山羊と同じ価値しかねぇってのかい。


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