シャルルマーニュ伝説
-The Legends of Charlemagne

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ロランの歌−あらすじ3


「突っ込めーーーーー!」
もはやそうとしか言いようの無い場面展開である。フランスだからと言って「フォロー・ミー!」とは、言っていないのである(笑)
その時、ロンスヴァル平野に展開したるフランス勢の戦力をここに挙げてみよう。

第一団・第二団はフランス人からなる10万の騎兵。
第三団はバヴァリアのつわものからなる2万の騎兵。デンマークのオジエ・ル・ダノワが指揮をとる。
第四団はアレマン人から成る2万の騎兵。大公ネームが指揮をとる。
第五団はノルマン人から成る2万の騎兵。大公ネームとジョズランが編成し、老武者リシャールが指揮をとる。
第六団はブルトン人から成る3万の騎兵。隊長はヴェドン。協力にランスのテドバルト、オトン、ネヴロン。
第七団はポアトゥーとオーベルニュのつわものから成る4万の騎兵。大公ネームが編成し、ジョズランとゴドセルムが指揮する。
第八団はフランドルとフリーズのつわものから成る4万の騎兵。大公ネームが編成し、ラムバルトとガリシアのアモンが指揮をとる。
第九団はロレーヌとブルゴーニュの人々から成る5万の騎兵、大公ネームとジョズランによって編成され、大公チエリーが指揮をとる。
第十団はフランスの精鋭10万の騎兵。シャルルマーニュが直接率いる。これで総勢、42万である。

なんという水増し増員。そんなにいねーだろ常識的に考えて…

だが「突っ込めー!」だけに、つっこみ入れてる暇も無いほど戦場はめまぐるしく動き出す。
戦も最高潮なれば、ロランが力尽きるとき叩き割ったはずの角笛オリファンが復活して戦場で吹き鳴らされていても、もはやいささかの驚きも生じ得ない。
鬨の声上げられ、バリガンは大音声にてのたまう、「愚かなリ、愚かなリシャルルマーニュ! 我が前に立ちふさがるとは。逃れていればよかりしものを! ロラン亡き後、我らに刃向かい、勝つ見込みはあらじ!」
実は敵のほうがセリフが格好いい。まあ確かに、ロランと主力の12人衆亡き後とあっては、普通は勝ち目がないと思うわなあ…。何故かそうはならないのが物語のお約束だけと゛。

フランス側に対抗して、バリガンも10の師団を結成するが、敵側のためこちらの描写は非常に簡素である。
お互い同数としても80万を越す大軍勢である。血煙に霞む激戦の陣、ここからは脳内でハリウッド映画的な戦闘シーンを再生しながらお楽しみ下さい。


★騎士好きな方へのワンポイント

 このシーン、シャルルマーニュの軍勢の鬨の声は「モンジョワ!」異教徒の軍勢は「プレシューズ!」と叫んでいる。
 この鬨の声とは戦いながら叫ぶもので、戦士を鼓舞する掛け声であるとともに、フルフェイスの鎧を着ていても声で敵か味方かが判別できるようにするために、また、どちらの軍が優勢なのか声で分かるようにという実用的なものでもある。
 国同士の戦の場合、大抵、自分の属する国の首都や王の敬称であるが、一騎打ちの時は自分の領地の名前や恋人の名前を叫ぶこともあった。たとえば「アンジュー!」とか「イサベラ!」もアリ。要するに本人が元気づけられればそれで良し。
 しかし、カッコ悪い掛け声だと周囲が萎えるよね(笑)



…と、まあ、戦いは大群同士の混戦となるのだが、主力騎士がいないはずのフランス勢、なぜか強い。弔い合戦だからか。手負いの獅子か。
「なんと、フランスの手ごわいことよ」
「者ども続け! 汝ら勇士なり、われに続く意志なきものは、いまにして去れよ!」
「この戦いに手柄成したる者には麗しの姫をとらせようぞ、領土と身分も与え、取り立てようぞ!」
「皆のものよく聞け、ロンスヴァルにて討ち死にしたる汝らが愛しき者どもの仇を取られい! 異教徒に対する正義は我らにあり!」

異教徒に対する最後のセリフももちろん横暴だが、ロンスヴァルにてフランス勢が討ち死にしたのは、ひとえにロランのせいだろう…。

決着はなかなか着かず、草原を紅に染めてもまだ終わらない。双方、味方が次々倒れていくのを見て「これではまずい」とは思いはじめているのだが、憎しみの連鎖は止まらない。ついにバリガンとシャルルマーニュは出会い、一騎打ちとなる。バリガンの一撃はシャルルマーニュの兜を割り、頭皮を剥ぎ取って頭蓋骨まで露出させるが、そのとき目の前に現れた天使(と、いうか幻であの世見てるって)の叱咤のおかげで、シャルルは気を持ち直す。
くらえ反撃。渾身の力をこめた一撃は、バリガンの頭をスイカのようにカチ割って、異教の王を敗退させた。

「我、勝利したり…。」

貴方も頭蓋骨が見えてますが。


やがて、夜が明ける。
いまやサラゴッズはシャルルマーニュの手にあり、生き残ったマルシル王の后はキリスト教に改宗することを誓う。
残るは裏切り者・ガヌロンの処罰のみ。罪人を率いて国へ戻った王の軍勢、哀れなるは、何も知らず待つ乙女なり。

オリヴィエの妹、オードは、兄と婚約者・ロランの帰りを今か今かと待っていた。だが、戻ってきた王の告げたのは、2人の死である。それだけではなくシャルルマーニュはこんなことを。「心配するな、替わりのものを探して取らせよう。わしの倅、ルイじゃ。いずれは王になる者、これ以上の者はあるまい。」
「ああ、なんと異なことを!」オードは泣き崩れ、こう答える。「ロラン様亡きあと、私はもはや生きながらえようとは思いませぬ!」
そして、その場に倒れ伏して死んでしまうのである。

ショック死だろうか。
だとすれば、半分以上シャルルマーニュのせいだろう。
(※ちなみに別の叙事詩では、シャルルの息子ルイはとんでもないドラ息子として描かれている。女性的に、そいつと結婚するよりは死んだほうがマシだという配慮だろう)


悲しみののち、ガヌロンの裁判は始まった。
罪状はイスパニヤ進軍中、ロランとオリエヴィエと2万の兵を王から奪い、12人衆を裏切ったこと。それすなわち、シャルルマーニュへの謀反である、と。
しかしガヌロンは堂々としてこう答える、「ロランめが私の死を望み、わざと使者に指名したゆえにでこざいます。私はロランに殺意を抱いたのであって王を裏切るつもりはありませんでした」
…私怨かよ、お前。
「私はロランに復讐したまでのことです。」
…でも他の12人衆と2万の兵が死ぬのは分かってたよね。

こうして一通りの答弁を終えたガヌロン、詮議の際、自らの一門の者を集め、王にとりなすよう耳打ちする。もしも自分を処刑せよと言い立てる者があっても、一騎打ちにてその者の口をふさぐようにとも。ガヌロンが「裏切った」という証拠は無い。マルシルが最初から裏切るつもりだったんだとすれば、ガヌロンが何もしていなくたってしんがりの軍は全滅したはず。今回は、それがたまたまロランの軍だったということで。
所詮は官僚の世界である。数のものいわせ反論を封じようとするガヌロン、異議を唱えたるはただ一人、ジェフロワの弟・チエリーのみ。

「物申す。ロランがいかにガヌロンに危害を加えたとて、ロランの王への奉公は、それを補って余りあるもの。(ぶっちゃけて言えば、「ガヌロンよりロランのほうが大事だった」と、言っている)ガヌロンには、ローラン殿を裏切りし由々しき罪あり。私は裁きを望みまする。また、ガヌロン一門の者に不服とする者あらば、我が剣にかけて成敗いたす所存!」

とか何とか言い出せば、一騎打ちの決戦になるのは騎士の常、所詮正義とは力のことか。
受けて立つはガヌロン一門よりピナーベル、チエリーと向かい合いて剣打ち合わす。だがここへきてもガヌロン側汚し。戦いながらピナーベル、賄賂やるからガヌロンを王にとりなせ、などと囁いて来る。「断固お断り!」チエリー烈火の如く怒り返す「お前こそ我がほうにつけ。この戦いをここで止めれば、貴様を王にとりなしてやる。だが、ガヌロンだけは断じて許さぬ」オイオイ。真面目に戦おうぜ、君たち。

そうこうしている間に決着の時は来た。ピナーベルの剣がざっくりチエリーの顔に切りつけ、チエリーの剣はピナーベルの頭を真っ二つ。
シャルルマーニュvs.バリガンの決着の着き方と被っているが、気にしてはいけない。
王は勝者チエリーを抱き寄せて、決闘を見守っていたガヌロン一門は30人、みな捕らえて絞首刑に処す。ガヌロンだけは、軍馬に四肢をくくりつけて引き裂かせる極刑に処する。
さらば、ガヌロンよ。かくて復讐は完遂されり。


そののち王は、イスパニアから連れ戻ったマルシル王の后に洗礼を受けさせ、ジュリアーヌと改名させる。
これで全てが終わった…というそのとき、大天使ガブリエルが現れて言う。
「シャルルよ、全軍をひっさげインフにある王ヴィヴィアンを救え。キリスト教徒がそなたの助けを待っておる!」
「やれやれ」と、シャルルマーニュは呟く。「さても我が苦労は尽きぬのか…。」
そしてフランスの偉大なる王は、悲しみを胸に抱くいとまもあらず、次なる戦に挑むのであった。


……なんか、打ち切りマンガの最終回みたいな終わり方ですよね。チュロルド師匠。

END



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