古英詩 ベーオウルフ-BEOWULF

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部下の不始末、上司の責任

それは兵士隊の中で十三番目の武士、
戦闘の始まりを引き起こしたのは



 ベーオウルフの死は、国と民とを守ろうと、火竜と戦ったためである。だが、なぜ竜は人間を襲ったりしたのか。
 それは、ベーオウルフの部下に、竜の守る宝に手を出した輩がいたからである。(お約束)

 不始末をしでかして逃亡中だった卑しい男は、たまたま竜の巣を見つけて、「らっきー、これで許してもーらおっと」と、いう感じで、竜の巣から黄金の杯を盗み出し、それでご主人の機嫌をとろうとした。 ソイツがその場で竜に見つかって八つ裂きにされちゃってれば、こんなヤヤコシイことにならずに済んだのに。 おお、神は、こんなどーでもいい奴の身まで守ってしまうものなのか…。

 こいつに責任取らせりゃいいんだって。(ムリ)

 ベーオウルフら一行は、この男の道案内により竜の巣にたどり着くが、その後の戦いに男が出てこないところを見ると、どさくさにまぎれて逃げたのかもしれない。どちらにせよ、お咎め無しだ。
 ベーオウルフは、部下の不始末の責任を取って死んだことになる…。  だが、彼は文句ひとつ言わない。
 もう若い頃ほどの力は残っていないことを知りながら、誰かの力を頼りにはせず、自ら率先して竜退治の計画をたてる。自分用に、竜の火でも溶けない特別製の鉄の盾を作らせたのも、その証拠だ。
 老いた身でなぜ戦うのかと聞かれれば、自分は王であるから民を守らねばならないということ、自分がこの国で一番強いんだから当然だ、と言う。

 なんていい王様なんだ!

 だが、そんな気高い覚悟も、ビビリの部下たちには通じなかったのだ。
 竜におじけづいて、老いた王をただ一人戦場に残し、戦いもせず森に逃げ込む。愚か者め。 「お、王様は強いからいいよな」 「う、うん。きっと大丈夫だ」「オレたちがいなくったって…」とか、言い合ってたんだろうか。

 ただひとり、戦場に戻り王を助けたウィーラーフは、のちに激怒している。
 「お前ら、君主の恩を忘れたのか?! 武士にとっては恥の生命よりも死のほうが勝る! 人が貴様らの誉れなき振る舞い、逃亡が知られたあかつきには、一族の銘は奪われると思え!」

 まったく、そのとおりだ。
 何で王様一人が戦わにゃならんのだ。身内の不始末の責任はお前らにも関係あるだろうが。

 ベーオウルフもベーオウルフだ。
 誰かを責めることもせず、ただ黙々と戦いに赴く背中は、悲しすぎる。だったら、なぜ部下を連れてったんだ? 誰だって、1人で戦うのは嫌だろう。ほんとは誰か一緒に戦って欲しかったはずなのに、何で何も言わずに行ってしまったんだろう…。

 部下の不始末は上司の責任かもしれないけれど、1人ですべての責任を背負いすぎるのもどうだろう。
 何かあったら直ぐ部下のせいにする上司、シッポ切りが上手な政治家さんなどに、見せてあげたい、この責任感。
 部下を大切にするのはいいけれど、その優しさを汲み取れない連中が相手では、単に甘やかしているのと変わりない…。(涙)

 それでいいのかベーオウルフ!
 <彼は勇敢だった。だが、きっと部下の教育はニガテだったのに違いない。…なにしろ、人より優れた力を持ちながら、性格穏やかな王だったのだから…。>



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