海に行く訳 3/5 元々、寝ている時に見る夢の中の不思議な世界が好きだった。「事実は小説より奇なり」と云うけれど、都会で暮らしていると、そう珍しい事は起こらない。人によっては楽しい事も多いのだろうけど。 大ヒラメとの出会いは、まさに夢の中の出来事のようだった。 そして、その直後にもう一つ、夢の中みたいな出来事と出くわした。 スクーバを始めて潜りに行ったハワイ・マウイ島。当時、マウイがザトウクジラの名所だと云うことは知らなかった。展望台で外人さんたちが遠いブローを見て大騒ぎしているのを見ても、ふ 〜 ん、てなくらいだった。 しかし、水中で聞いたザトウクジラのソング ――― 。 沖合のモロキニ島、外側のドロップオフ。透明度は50m以上あったと思う。垂直の壁を背にして、底の見えない深いブルーのスクリーンを見ていると、クジラの声がした。その大きさといったら、それまで経験したことのない音圧なのだ。胸のあたりに共鳴して肌がビリビリ震えるのが判った。透視度50mのちょっと先、55mくらいの所に何か巨大な「意志」がいるような気がして、胸が苦しくなった。 もちろん、その声がクジラの声だと云うことは判っていたのだけど、海中に漂っている気配は動物のそれではなかった。何か、自然を超越した・・・、そう、まさに「夢の中の世界」がそこにあったのだ。 すっげぇなぁ! と思ったのはいいのだけれど、その後、困ったことになる。「夢の中」に較べると、現実があまりに退屈なのだ。 だから、また海へ。そして、やがてザトウクジラのいる、小笠原へ・・・。 「海に行く訳 4 / 5」への扉 |