英国情報−生活全般関係

英国の選挙制度(前編)


英国では6月7日に4年ぶりの総選挙が行われた。と聞いただけでは特にふーんというだけのことだが、よくよく考えると、投票日の6月7日は木曜日であって日曜日ではない。実は今回の総選挙は口蹄疫のせいで延期された経緯があるが、当初予定されていた投票日5月3日も木曜日である。更に言えば昨年のロンドン市長選挙も5月4日の木曜日に行われた。日本的感覚からすれば何故に平日に選挙をするのか(投票させるのか)?と思ってしまうところだが、英国ではキリスト教の影響からか日曜日は「働かなくてもよい日」ではなく「働いてはいけない日」のような扱いを受けているので、日曜日に投票という選択肢は元より無いのだろうと推察される。この事は後日掲載するであろう商店の営業時間の記事でも触れる予定(は未定)。じゃあ木曜日なのは何故かと聞かれると…すいません、そこまでは調査できておりませぬ。

投票時間は、午前7時から午後10時までとなっている。これならば平日に働いている大多数の労働者も朝か夜に投票できることになり、特に投票の機会が奪われるということでもないし、日曜は遊びに行くから投票なんて行かないよん、という人も減るかも知れない。

選挙権は18歳以上の男女に与えられている。日本でも18歳に引き下げようという議論がされているが、今のままでは単に投票率が下がるという結果しか招来しないことは明白。また英国人だけでなく旧植民地のコモンウェルス(近年英国はコモンウェルスで固まる傾向が強い)の人とアイルランドの人には同様に選挙権が与えられているのが大英帝国の残滓か。これまた日本でも在日外国人に選挙権を与えようとする動きがここのところ活発だけど、色々批判も有って法案は継続審議にされ続けている。英国の例はともかく、国籍も取らないで国政選挙に投票させろというのは妙な話に感じる。税金なら私だってバーネット区に住民税(Counsil tax)を払った。

それはさておき、英国人であっても選挙権の無い人々が存在する。その中で英国特有のものとして特筆すべきは、上院(貴族院)議員に選挙権が無いことである。俗世の政治からは離れた所に居てくれということなのだろうか。因みに、女王には選挙権がある、○か×か?というのはクイズになりそうだが、答えは○。但し、選挙権はあるが、投票することは反憲法的らしいので、実際に投票することはないようである。

英国の選挙権に関して特徴的なのは、登録制度の存在である。日本の場合、選挙人名簿を自治体の方で確定し、選挙が近付くと有権者に投票所への入場券を郵送してくる。この場合、有権者は完全に受け身である。一方で、英国の登録制度の場合、先ず自治体から各戸に誰が有権者かを尋ねる書類を送ってくる。これは毎年10月10日現在(北アイルランドでは9月15日現在)での選挙権の有無が基準となり、各人が書き込んで返送する。他方、日本での有権者は、当たり前だが投票日当日現在で確定させる。因みに、郵送されてくるこの書類、宛名はどうなっているかと言うと、「〜通り〜番地の住人の方へ」となっている。英国では郵便物がこれで届くのだから融通が利く、というより郵便物は住所に配達するのであって、宛名はどうでもいい、というのが英国郵便制度のようである(郵便制度についてはまた後ほど)。

さて、登録が済んで選挙人名簿は2月16日で確定し、その後1年間何があろうとこの名簿で選挙をする。ということは、少なくとも2月16日に選挙が行われるとしても、4ヶ月前の選挙人名簿を使うことになるし、翌年2月15日に選挙があると、1年4ヶ月前の、かなり古びた有権者名簿に基づいて行われてしまう。その後、転居した人が依然掲載されていたり、新たに転入してきた人は1年経っても投票できないなんちゅうことが起きる。英国の投票率の数字は、このような状況の下で投票が行われているという事態を考えた上で読まなければならないことに注意を要する。

まあでも流石にこれはおかしいということになって、2000年からは、10月10日現在のものを基本としつつ、追加登録・抹消を認める改正が為された。更にこの新制度の下では、初めてホームレスの人々も投票できることになった。実際、投票しているのかどうかは知らないけれど。

また一定の条件の下では、郵便投票や代理投票の制度も認められている。郵便投票は、以前は医師の診断書付きの病人とか海外駐在の軍人等にしか認められていなかったが、2000年の制度改正によって随分と要件が緩和された。日本の不在者投票制度も随分と緩やかになったもんね。また、代理投票の方は、亡命した人などに認められているものではあるが、殆ど利用されていないのが実情。

被選挙権は、21歳以上のやはり英国・コモンウェルス・アイルランドの男女に与えられている。これにも色々制限があって、やっぱり上院議員は駄目だったりするが、聖職者の立候補が禁じられているのが特徴的。でもこの聖職者の立候補制限はいずれ撤廃される見込みとなっている。

polling station
立候補に関して面白い制度と言えば、候補者は複数の選挙区から立候補できることが挙げられる。これは選挙活動を広汎にやらねばならず、あまり効率的とは思えないので実際の例はそれほど聞かない。でも、保険を掛ける意味でやりたい人もいることはいるだろう。1992年の総選挙で、3つの選挙区から立候補して3つ全ての選挙区で落選して更に供託金を没収された人もいる一方、1880年には3つの選挙区全てで当選したという例が有るようだ。複数選挙区で当選した場合、どこの選挙区で代表するかを1週間以内に選ばなくてはならない。この場合、それらの選挙区の次点の人々はやきもきすることになる。

この項の最後に投票所についても触れておきたい。日本だと大概は投票所として小学校や公民館等が使われていることと思う。英国でもそういう例が無いわけではないと思うが、駅前に忽然と「投票小屋」とも呼ぶべきプレハブ小屋が設置されたりする(画像)。これは通勤・通学者にはとっても便利。ついでに言えば、2001年の総選挙で設置された投票所は、英国全土で約45,000箇所とのこと。去年の日本の総選挙で設置された投票所は約53,000箇所であるから、単純に比較すれば日本の方が多いものの、英国の人口が日本の約半分であることを考えると、密度としては濃いと言える。

長くなってきたので、選挙制度の核心部分については、次項に譲るとしますか。


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