世論調査でも、リビングストンは大体50%ぐらいの支持率だったので、実際は奴が当選するのは自明のことと受け止められていた。『エコノミスト』誌に至っては、投票日も過ぎていないというのに「Mayor Ken」と銘打ち、表紙にもリビングストンを大写しにして、新たなロンドン市長の権限や「リビングストン市長」の分析の記事を載せていた。こんなこと日本でやったら大変なことになるだろうな。
さてここで英国の選挙一般については他日を期すこととして、先ずはロンドン市長選挙の投票方法から御紹介しましょう。有権者は2票持っていて、第1希望と第2希望の2人の候補者につき、その希望順位と共に投票する。そして最初は第1希望だけで集計し、その時点で過半数を超えた候補者がいれば当選。そうでない場合は決選投票となる。決選投票には上位2名が進出し、ここで初めて第2希望の票も加算する、という多少ややこしい方式になっている。
この方式の下、リビングストンは事前の世論調査に反して第1希望だけで過半数に達せず(第1希望の得票率:約39.0%)、保守党のノリスと決選投票までもつれ込んでしまった。で最終的な選挙結果を見てみると1位はリビングストン、2位がノリス(同27.1%)、3位が労働党のドブソン(同13.1%)、4位が自民党のクレーマー(同11.9%)だった。こうして見ると、保守党のノリス候補が結構頑張った感がある。選挙期間中に結婚式まで挙げた甲斐が有ったというものだろう。「今まで保守党に投票するなど考えたことも無かった人々が投票してくれた」とは本人の弁。一方の労働党公認候補たるドブソンは自民党のクレーマーと大差無い3位に終わっており、まあ有り体に言えばボロ負け。ドブソンは実はあまりロンドン市長に乗り気ではなく、むしろ閣内に残って保健相としての仕事の方を続けたかったのに、ブレアがリビングストンを立候補させないために保健相を辞めさせて無理に立候補させたという説が今でも有力で、そういう意味では同情を買っている(票には結びつかなかったが)。一方のリビングストンはブレアに色々と虐められてきたので、同情票がかなり出たみたいだ。
このロンドン市長選挙の最大の争点となったと思われるのは、ロンドン交通(地下鉄・バス)の問題だった。テレビの候補者討論会でも、これが主な議題になっていた感がある。基本的に政府は部分民営化(The Public Private Partnership)を唱えており、インフラ建設に民間の活力を導入しようという、何処かで聞いたような話、だと思う。リビングストンは当然これに反対、政府の助成金をもっと出せと主張。ドブソンは労働党公認だけあって部分民営化賛成。リビングストンが当選した今、政府は助成金を増やすのかねえ。リビングストンはGLCの頃、運賃を値下げして市民に歓迎された過去があるらしいけど。それにしても、もうちょっと高尚な(と言うのも変だが)争点は無かったんかいなとも思うが、結局政策論争というより、ブレアによるリビングストン外し是か非か、みたいなのが真の争点だったのではと思われる。
時に、私は勝手に「リビングストン=美濃部亮吉説」を唱えている。GLC時代にもかなりのバラマキ行政をしていたことで名高い労働党最左派のリビングストンは(そのために市民に未だに人気が有るというのも不可解)今後もその方針を改めるつもりもなさそうなので、いずれロンドンの財政が破綻するのではないかとの危惧が(特に反リビングストン陣営から)囁かれている。これはかつての美濃部都政とよく似た構図。それだけと言われればそれまでだが、一時期の日本で持てはやされた革新自治体の末路がどれも芳しくなかっただけに、ロンドンの先行きもどうなるか不安なものがある。
尚、ロンドン市長とは言っても、東京都知事ほどの権限が有る訳では無さそうだ。GLC廃止で、その権限が中央に上がったり、区に降りていったりしたので、最終的な決定権限は中央官庁が握ってたり、各区でそれぞれ実施したりといった状態が続いてる(幾らかの法改正はされたが)。『エコノミスト』誌の言葉を借りれば、ロンドン市長は「作曲家ではなく指揮者」なのである。結局「リビングストン市長」の最大の強みは、英国で最大多数の選挙民から支持されたという、抽象的な話なのである。但し、それは時としてそれはかなり強力なのだが。
さてここでロンドン市長と共に選挙されたロンドン市議会についても軽く触れておきましょう。市議会は市長と共にロンドンの統治機関であるGLA(Grater London Authority)を構成するのだが、この定員は何と25名。ロンドンの人口が700万人を超えていることを考えれば、かなり少ない人数だ。こちらの選挙結果は、労働党・保守党が9名ずつで同数という拮抗した状況となった(残りは自民4、緑の党3)。市議会の主な任務は市長の補佐役件お目付役といったところで、市長に対して助言したり公聴会を開いたりも出来るらしいが、2/3の多数で行わなければならないので、この労保拮抗した状況でうまく機能するかなかなか不透明。
因みに、前回の記事で述べたとおり、旧GLCの建物はゲームセンターや水族館になっているため、当然のことながら新たな市庁舎たり得ない。よって現在タワーブリッジ付近に新たな市庁舎を建設中とのこと。但し以前は2万人ほどいたスタッフは今回は約400人に大幅に圧縮されているのが大きな違いで、今はウエストミンスターの一角のロムニー・ハウス(43 Marsham Street, SW1=画像)に間借りしている。
新市長は、7月3日に就任し、任期は4年間である。