クイズと著作権

第2章 問題作成者の権利


第1節 著作者

 さて、前章で縷々述べてきたように、クイズ問題も著作物と言って言えなくもないということがお分かりいただけたのではないかと思う。じゃあ著作物だったらどうやっちゅうねん、ということを本章では問題作成者がどのような権利を持っているかという側面から説明しよう。

 先ず「著作者」は問題を作成した者である。日本国著作権法は無法式主義を採用しているので、問題文を作成した瞬間に著作者に著作権が発生することになる。特段、丸にcを入れたマークを付したり、"All Rights Reserved"と書いたり、はたまた権利をどこかに登録したりする必要はなく(特許権は登録が必要)、著作物であれば当然に著作権法により著作権が発生して保護されることになっている。

 よって著作権法違反で訴えられたりした場合に、裁判所はその争点となったものが著作物であるかどうかの判断から始めることになる。と言うか、具体的な紛争が起き、その訴訟の中で裁判所が判断して初めてそのものが著作物か否かが決まる訳である。また、著作権は「物権」なので、所有権とかと同様に何人に対しても主張できる(「物権」の反対語の「債権」(金を返せとか)は契約関係にある人にしか主張できない)。

 尚、方式主義を採用している国も少数ながら存在する(南北アメリカ大陸の国(米国は除く)とか)ので、そういう国々でも著作物を保護されたかったら、丸cマーク、著作権者名、最初の発行年をひとまとまりで表示しておく必要がある。そうしておけば、方式主義の国でも著作物として保護される(万国著作権条約第3条第1項)。

第2節 著作者と著作権者

 さて、「著作者」と「著作権者」とは実は異なる概念である。がしかし、実際はこの二者は同じである場合が多い。「著作者」とは文字通り著作物を著作した人のこと。そして「著作権者」とは著作権を持ってる人のこと。どう違うんじゃい、と思われるかも知れないが、ここで想起しなければならないのは、著作権というのは財産権なので譲渡できる、ということである。すなわち、著作者が著作権という権利を誰か他人に譲渡した場合は、著作者であっても著作権者ではないし、権利を譲り受けた人は、著作権者ではあるけれど、著作者ではないということになり、それらを区別する実益が有るわけだ。例えば何かコンクールのようなもので作品を募集するときに、著作権は主催者に帰属しますという趣旨の文言がこっそりと入っていることがある。こういう場合に、応募者が著作者で、主催者が著作権者ということになる。あと多いのは、著作者が死んだ後に相続した遺族なんかが著作権者になる場合。

 また、著作者は著作権を譲渡してしまった後でも、財産的利益ではない「著作者人格権」という権利(後述)が残る。著作権は主に財産的利益を保護する為のものだが、著作者人格権は主に著作者の人格的利益を保護する為のものであって一審専属的な権利であるため、他人に譲渡できない。譲渡できないので「帰属します」とは言えず、そういう場合は代わりに契約書の中に「著作者人格権は行使しないものとします」という文言を滑り込ませることが多い。

第3節 著作者の権利

 では、著作権者には具体的にどのような権利があるのだろうか。よく言われるのは著作権というのは「権利の束」であるということ。つまり、色々な権利(「支分権」と言う)の集合体を「著作権」と呼んでいるのである。これらの諸権利を行使することにより、普通は著作権者は財産的利益を得ることが出来る(要すれば金が儲かり、著作物を作ろうという気になる)訳である。

 日本国著作権法の書き方は、例えば複製権であれば、「著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。」(著作権法第21条)と規定されている。素直に読むと、複製できるのは著作者だけということが書いてあるのだが、「複製する権利」のところを条約なんかでは「その著作物を複製することを許諾又は禁止する排他的権利を享有する」と書かれており、上述の諸権利もそう考えた方が分かり易い。つまり、複製したいという申し出に対して「複製していいよ」か「複製するな」かを言える権利なのであり、そして複製が許諾される場合に初めて金が動く訳である。

 さて、以下にクイズに関係しそうな権利について簡単に解説します。

1 財産的権利

(1) 複製権(第21条)
 著作権の中心となるのがこの複製権。英語で著作権をコピーライトと言うのも頷ける。見ての通り、複製することに対する権利である。しかし、複製権は法30条で制限を受けており、「私的な使用」のための複製には権利が働かないこととされている。(注1)

(2) 公衆送信権(第23条)
 「公衆送信」とは、公衆によって直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信を行うことと定義されている(法2条1項7号の2)。大雑把に言えば、テレビで放送したりインターネットに流したりすることを指す。よって、著作物に該当する問題を著作者に無断でテレビで使ったり、インターネットに掲載すると、この公衆送信権に違反にするので注意が必要である。

(3) 口述権(第24条)
 口述とは、朗読その他の方法により著作物を口頭で伝達すること(法2条1項18号)であるから、典型的な例はサークルの例会やクイズ大会で、参加者に対して問題を読み上げて聞かせることが該当する。これも許諾が必要ということである。

(4) 翻訳権・翻案権等(第27条)
 著作物を翻訳や変形するなど翻案することに対する権利。原著作物を転用する行為を指す。例えば、外国の番組が自分の問題を勝手に翻訳して出題していたとすれば、翻訳権の侵害である。

 その他、クイズとは関連が薄いと思われる権利が幾つかあるが、ここでは割愛させていただきます。

2 人格的権利

 続いて、著作者人格権について簡単に述べます。著作者人格権には次に述べる3種類があり、これらの権利が侵害されると、自動的に著作者は精神的損害を被ったということになる(立証する必要がない)。

(1) 公表権(第18条)
 著作物を公表するか否か、もし公表する場合にどうやって公表するかってなことを決める権利。よって、他人が作った問題を勝手に公表すると公表権侵害になる。

(2) 氏名表示権(第19条)
 著作物に著作者名を表示するか否か、もし表示する場合にどうやって表示するかってなことを決める権利。よって、他人の問題を自作であると表示すると氏名表示権侵害になるし、もし他人が匿名にしておきたかったのに実名を勝手に表示したりしても権利侵害となる。

(3) 同一性保持権(第20条)
 著作物の内容を勝手に変えたりされない権利。よって、他人の問題を勝手に改竄したりすると同一性保持権侵害になる。但し、誤字脱字の訂正ぐらいであればよいとされている(通説)。

第3節 権利の集中管理

 ところで、全ての権利者がいちいち許諾をしていたのでは実際のところ煩雑に過ぎる。例えば、作曲家が自分の書いた曲をテレビで流す度に許諾を求められたりしていてはかなわんということである。よって、音楽の世界では著作権の集中管理をする団体があり、それが社団法人日本音楽著作権協会、通称JASRACである。ここは文部科学省の天下り法人である、なんてことはどうでもいいが、要はJASRACが権利者から著作権の管理を信託的に任され、権利者に代わって許諾を与え、金を権利者に代わって徴収するという仕組みになっている。音楽以外でも、小説や脚本にも同種の団体がある(注2)

 しかしながら、クイズの著作権を管理する団体は今まで認められていなかったので、権利者は自分の権利を自分で守り、自分で執行するしかない状態に置かれていた。しかし、昨年の制度改正により、権利の集中の分野も規制改革が実現し(注3)、JASRACの一元管理の時代は終わり、イーライセンス等の新たな音楽著作権管理団体が現れつつある。それに権利の集中管理を行う分野に制限がなくなったので(従来は音楽、小説、脚本のみ)、クイズの著作権を管理する団体が金輪際絶対に何があろうとも現れるわけがない、とまでは言い切れないだろう。

 以上、著作者の権利について概観してきたが、次章では、クイズに関して通常行われている諸々の営為について、どこまで出来るのか、どこからが違法なのかについて、クイズ問題の著作権者以外の権利者の権利とも絡めて、より具体的に考察しよう。

<続く>

(注1)加戸「逐条解説」。尚、私的使用の問題については、次章でもう少し詳しく述べる。
(注2)小説は社団法人日本文芸著作権保護同盟、脚本は協同組合日本脚本家連盟(放送用)、協同組合日本シナリオ作家協会(劇場用)がある。
(注3)平成13年に従来の仲介業務法が廃止され、新たに著作権等管理事業法が制定された。


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