先ず「著作者」は問題を作成した者である。日本国著作権法は無法式主義を採用しているので、問題文を作成した瞬間に著作者に著作権が発生することになる。特段、丸にcを入れたマークを付したり、"All Rights Reserved"と書いたり、はたまた権利をどこかに登録したりする必要はなく(特許権は登録が必要)、著作物であれば当然に著作権法により著作権が発生して保護されることになっている。
よって著作権法違反で訴えられたりした場合に、裁判所はその争点となったものが著作物であるかどうかの判断から始めることになる。と言うか、具体的な紛争が起き、その訴訟の中で裁判所が判断して初めてそのものが著作物か否かが決まる訳である。また、著作権は「物権」なので、所有権とかと同様に何人に対しても主張できる(「物権」の反対語の「債権」(金を返せとか)は契約関係にある人にしか主張できない)。
尚、方式主義を採用している国も少数ながら存在する(南北アメリカ大陸の国(米国は除く)とか)ので、そういう国々でも著作物を保護されたかったら、丸cマーク、著作権者名、最初の発行年をひとまとまりで表示しておく必要がある。そうしておけば、方式主義の国でも著作物として保護される(万国著作権条約第3条第1項)。
また、著作者は著作権を譲渡してしまった後でも、財産的利益ではない「著作者人格権」という権利(後述)が残る。著作権は主に財産的利益を保護する為のものだが、著作者人格権は主に著作者の人格的利益を保護する為のものであって一審専属的な権利であるため、他人に譲渡できない。譲渡できないので「帰属します」とは言えず、そういう場合は代わりに契約書の中に「著作者人格権は行使しないものとします」という文言を滑り込ませることが多い。
日本国著作権法の書き方は、例えば複製権であれば、「著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。」(著作権法第21条)と規定されている。素直に読むと、複製できるのは著作者だけということが書いてあるのだが、「複製する権利」のところを条約なんかでは「その著作物を複製することを許諾又は禁止する排他的権利を享有する」と書かれており、上述の諸権利もそう考えた方が分かり易い。つまり、複製したいという申し出に対して「複製していいよ」か「複製するな」かを言える権利なのであり、そして複製が許諾される場合に初めて金が動く訳である。
さて、以下にクイズに関係しそうな権利について簡単に解説します。
1 財産的権利
(1) 複製権(第21条)
著作権の中心となるのがこの複製権。英語で著作権をコピーライトと言うのも頷ける。見ての通り、複製することに対する権利である。しかし、複製権は法30条で制限を受けており、「私的な使用」のための複製には権利が働かないこととされている。(注1)
(2) 公衆送信権(第23条)
「公衆送信」とは、公衆によって直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信を行うことと定義されている(法2条1項7号の2)。大雑把に言えば、テレビで放送したりインターネットに流したりすることを指す。よって、著作物に該当する問題を著作者に無断でテレビで使ったり、インターネットに掲載すると、この公衆送信権に違反にするので注意が必要である。
(3) 口述権(第24条)
口述とは、朗読その他の方法により著作物を口頭で伝達すること(法2条1項18号)であるから、典型的な例はサークルの例会やクイズ大会で、参加者に対して問題を読み上げて聞かせることが該当する。これも許諾が必要ということである。
(4) 翻訳権・翻案権等(第27条)
著作物を翻訳や変形するなど翻案することに対する権利。原著作物を転用する行為を指す。例えば、外国の番組が自分の問題を勝手に翻訳して出題していたとすれば、翻訳権の侵害である。
その他、クイズとは関連が薄いと思われる権利が幾つかあるが、ここでは割愛させていただきます。
2 人格的権利
続いて、著作者人格権について簡単に述べます。著作者人格権には次に述べる3種類があり、これらの権利が侵害されると、自動的に著作者は精神的損害を被ったということになる(立証する必要がない)。
(1) 公表権(第18条)
著作物を公表するか否か、もし公表する場合にどうやって公表するかってなことを決める権利。よって、他人が作った問題を勝手に公表すると公表権侵害になる。
(2) 氏名表示権(第19条)
著作物に著作者名を表示するか否か、もし表示する場合にどうやって表示するかってなことを決める権利。よって、他人の問題を自作であると表示すると氏名表示権侵害になるし、もし他人が匿名にしておきたかったのに実名を勝手に表示したりしても権利侵害となる。
(3) 同一性保持権(第20条)
著作物の内容を勝手に変えたりされない権利。よって、他人の問題を勝手に改竄したりすると同一性保持権侵害になる。但し、誤字脱字の訂正ぐらいであればよいとされている(通説)。
しかしながら、クイズの著作権を管理する団体は今まで認められていなかったので、権利者は自分の権利を自分で守り、自分で執行するしかない状態に置かれていた。しかし、昨年の制度改正により、権利の集中の分野も規制改革が実現し(注3)、JASRACの一元管理の時代は終わり、イーライセンス等の新たな音楽著作権管理団体が現れつつある。それに権利の集中管理を行う分野に制限がなくなったので(従来は音楽、小説、脚本のみ)、クイズの著作権を管理する団体が金輪際絶対に何があろうとも現れるわけがない、とまでは言い切れないだろう。
以上、著作者の権利について概観してきたが、次章では、クイズに関して通常行われている諸々の営為について、どこまで出来るのか、どこからが違法なのかについて、クイズ問題の著作権者以外の権利者の権利とも絡めて、より具体的に考察しよう。
<続く>
(注1)加戸「逐条解説」。尚、私的使用の問題については、次章でもう少し詳しく述べる。
(注2)小説は社団法人日本文芸著作権保護同盟、脚本は協同組合日本脚本家連盟(放送用)、協同組合日本シナリオ作家協会(劇場用)がある。
(注3)平成13年に従来の仲介業務法が廃止され、新たに著作権等管理事業法が制定された。