クイズと著作権

第3章 クイズに於ける著作権問題


 本章では、前2章までで述べてきたことを前提として、具体的にクイズを楽しむ場面において、著作権法上で問題になりそうな場面について解説していくこととしたい。特に、クイズ問題の著作権者だけでなく、その他の権利者が絡んでくる場合もあるので注意してほしい。

 尚、記述が羅列的になってしまうので、Q&A方式とさせていただいた。


  Q1  クイズの問題を出題するのに許諾は必要ですか?
  Q2  クイズ問題集から問題を出してもいいのですか?
  Q3  外国のクイズ問題集を自分で翻訳して出すことは問題ありますか?
  Q4  絵や写真を使った問題を出す時には、どういうことに気を付けるべきですか?
  Q5  企画等でBGMを使用しても大丈夫ですか?
  Q6  イントロクイズと著作権について教えて下さい。
  Q7  問題集の編纂で気を付けることは何ですか?
  Q8  問題集を個人的にコンビニのコピー機でコピーすることは自由に出来ますか?
  Q9  問題をホームページに掲載するにはどんな権利処理が必要ですか?


Q1 クイズの問題を出題するのに許諾は必要ですか?

 この問いに直接答える前に、状況を設定しておきたい。以後特に断らない限りは、クイズ大会等の不特定多数の人々にクイズを出題するという状況と仮定することにしよう。この場合に著作物を提供する対象の人々が「公衆」という概念に合致する。限られた仲間内数人で楽しむ分には「公衆」とは言えないから、著作権の問題は発生しないと考えられる。それではサークルの例会の場合はどうであろうか。ここで注意しなければならないことは、著作権法の「公衆」の概念には「特定かつ多数の者」も含まれるということである(法2条5項)。よって、サークル員として面子は特定されてはいるが、その数が多数に及べば「公衆」の概念に合致することになる。具体的に何人からが「多数」になるかということを示す明確な基準はないので、各事案によって判断せざるを得ない。

 と言うわけで、質問に戻ると、クイズの問題を出題するというのは、通常は司会又は問題読み担当者がクイズ問題を読み上げて出題するという形式になる。クイズ大会である以上、これがないと始まらない気もするが、実はこの行為は、著作権のうちの一つ「口述権」の対象となり、著作権者の許諾が必要なんである。よって「当然に」は出来ません。しかしながら、殆どのクイズ大会では、その問題製作者は主催者側に参画しており、問題の利用については黙示的な許諾があったものと解せられる場合が多いであろうから、そうした場合には改めて「口述権」に対する許諾を求める必要はないと考えられよう。


Q2   クイズ問題集から問題を出してもいいのですか?

 Q1は、あくまで大会スタッフが作った問題を出題することを前提としていたが、例えば企画中に問題が足りなくなって、市販のクイズ問題集や、インターネットのどこかから拾ってきた問題集など、クイズ大会と直接関係のない人物の著作になる問題を出題する場合は、「口述権」の許諾が必要となることは、Q1からも当然のことである。

 また更に気を付けなければならないのは、誰かが作った問題で、当の作者がまだその問題を公表していない場合である。著作者には人格権の一つとして「公表権」があり、自らの著作物を、いつ、どのように、どういう条件で公表するかを決定する権利を持っている。例えば、他人が作成した問題で未だ公表されていない問題を内々で入手し、当人に断り無く大会等で出題した場合には、「公表権」の侵害となる可能性がある。但し、一旦問題集等の形で公表している場合は、一度公表した著作物には「公表権」は及ばないので、その心配は無い。その他にも、未公表の著作物の著作権を譲渡した場合には、公表につき同意したものと推定される(法18条2項)ので、その場合も大丈夫。

 尚、「公表された著作物」については、「営利を目的としない上演等」の場合には自由に利用できるという規定がある(法38条)が、これについては、Q5で考察したい。


Q3   外国のクイズ問題集を自分で翻訳して出すことは問題ありますか?

 外国のクイズ問題集の問題も、先に検討した条件に合致すれば当然に著作物たり得ることになるが、我が国の著作権法の及ぶ範囲は、当然に我が国の主権の及ぶ範囲に限られている。しかし、著作権に関しては国際的な条約である「ベルヌ条約」(注1)が結ばれている。これはスイスのベルヌ(ベルン)で作られた条約で、日本は明治32年(1899年)7月15日に加盟している。この条約では、内国民待遇を採用しているため、締約国間では、外国人を内国民と同様に保護する義務が発生する。つまるところ、締約国民の著作物も我が国の著作権法の保護の対象と含めるということである。本条約により、世界の殆どの国民の著作物が保護の対象となっている現状にある。

 またベルヌ条約は無法式主義(丸cマークの表示を保護の条件としない)ので、方式主義の国々との調和を図るため「万国著作権条約」(注2)を別に結び、我が国も加盟している。更に、話がややこしくなるが、世界貿易機関(WTO)に加盟した場合には、「TRIPS協定」(注3)を包括的に受諾せねばならず、ベルヌ条約に加盟していない国であっても、TRIPS協定により、ベルヌ条約の基本的な部分は遵守する必要がある。

 よって日本が著作物を全く保護しなくて良い国は、世界を探すとアフガニスタンやイラン等の10カ国だけ(注4)という状況である。余談になるが、台湾は2002年1月1日にWTOに加盟するまで、一切の著作権関連の条約に加盟していなかったため、台湾の著作物は保護の対象に含まれていなかった。しかしそれは逆も同じで、台湾では日本の著作物が保護の対象ではなかったため、日本のCDやDVDの海賊版が出回りまくっていたわけである。そういう意味では、台湾がWTOに加盟したのは画期的な出来事であった訳だが、果たして台湾で日本の著作権が守られるかどうかは余談を許さないところである。

 前置きが随分と長くなってしまったが、要は条約の締約国民の作ったクイズ問題であれば著作権法で保護されるということが言いたい訳です。そして保護されるクイズ問題であれば「翻訳権」があるため、翻訳には原則として許諾が必要となるが、自宅で独り翻訳する分には特段許諾の問題にはならないのではないかと思われる。そして、日本語に翻訳されたクイズ問題は「二次的著作物」と呼ばれる(法2条1項11号)。二次的著作物とは、既存の著作物を翻訳・変形により新たに創造された著作物であり、この利用には原著作物の著作者と二次的著作物の著作者の双方の許諾が必要である(法28条)。

 「二次的著作物」の例としては、漫画の原作と作画が分かり易い。例えば『北斗の拳』は原作が武論尊、漫画が原哲夫であるが、これは武論尊が書いた原作という原著作物を原哲夫が漫画という形に翻案してできた二次的著作物である、と解釈する訳である。よって、『北斗の拳』を利用するには、原作者と漫画家の両方の許諾が必要であり、注意すべきは絵を使うだけだからと言って原哲夫の許諾だけを得ればいいというものではないということである。最近もめたのが『キャンディキャンディ』の事件で、漫画のいがらしゆみこがキャンディのキャラクター商品を許諾していたこと等に対して原作の水木杏子が訴えた事件で、最高裁で水木が勝訴している。(注5)

 話が逸れたが、つまり自分が翻訳したことにより創作した問題であっても、自分だけでなく原語で問題を著作した者も権利者であるから、その権利者に勝手に出題をすることは、Q1で述べた「口述権」の侵害となり得るという問題があるのである。また今後に述べる種々の権利も同様に、双方で行使すべきということである。尚、「口述権」の許諾の際には、当然にその前段階の「翻訳権」の許諾も合わせて得ることになるだろう。


Q4   絵や写真を使った問題を出す時には、どういうことに気を付けるべきですか?

 見せる問題の場合は、例えば、或る絵を見せて作者を答えさせたり、顔写真を見せてその人物を回答させたりする形式が考えられる。この場合は、そのクイズ問題の著作権者以外の権利者を考慮する必要がある。すなわち、その絵を描いた作者やその写真を撮った写真家がそれらの権利者である。絵は「美術の著作物」、写真は「写真の著作物」としてちゃんと法律に規定が有る。

 そして、これらの絵画や写真を見せる場合に、どのように見せるかが問題となる。絵画や写真をそのまま提示して見せるだけであれば、特段問題はない。しかし、それらを筆記クイズの問題用紙に掲載するとなると、「複製権」の許諾が必要となる。また、「上映権」の範囲は従来は「映画の著作物」に限られていたが、平成11年の著作権法改正により、著作物の範囲に限定が無くなったため、全ての著作物にこの権利が認められるに至った。よって、例えばプロジェクター等を通じて絵画や写真を公衆に提示する場合には、「上映権」の許諾が必要となる場合が考えられるので注意が必要である。


Q5   企画等でBGMを使用しても大丈夫ですか?

 近年、クイズ大会では演出が凝ったものとなっており、入場シーンや勝ち抜けの場面等の節目でBGMが使われる場合が増えている。こうしたBGMを許諾なく利用した場合は、その音楽の著作者の「演奏権」を侵害する場合がある。「場合がある」と持って回ったような言い方をするには理由があって、この「演奏権」については多少注意が必要なのである。先ずは条文を見てみよう。

 著作者は、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として…演奏する権利を専有する。

 「公衆に直接見せ又は聞かせる」とあるので、クイズ大会の会場で曲を流すことは当然に該当する。また「演奏」という用語に惑わされやすいが、法第2条7項の定義の規定を参照してみると、「この法律において、「上演」、「演奏」又は「口述」には、著作物の上演、演奏又は口述で録音され、又は録画されたものを再生すること…を含むものとする。」とちゃんと書かれている。つまりは、生演奏だけではなく、CDを使って曲を流すことも当然に「演奏権」の侵害になってしまうのである。

 次に検討しなければならないのは、Q2でも少し触れた、法38条に言う「営利を目的としない上演等」の規定である。条文を見てみよう。

 (営利を目的としない上演等)
第三十八条  公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金(いずれの名義をもつてするかを問わず、著作物の提供又は提示につき受ける対価をいう。以下この条において同じ。)を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述することができる。ただし、当該上演、演奏、上映又は口述について実演家又は口述を行う者に対し報酬が支払われる場合は、この限りでない。

 本条により「公表された著作物」を無許諾で利用する為の要件は、「営利を目的とせず」「観衆から料金を受けず」「実演家に報酬が支払われない」の3つであり、この全て満足する必要がある。もしこの規定がなければ、国語の授業で教科書に収録された小説『無人警察』を生徒が朗読する為に筒井康隆に「口述権」の許諾を求めたり、文化祭の合唱コンクールで「夜空ノムコウ」を歌う為にスガシカオに「演奏権」の許諾を求めたりという煩わしいことになってしまうのである(とは言っても、合唱の練習に楽譜をコピーして配れば「複製権」の侵害である)。

 では、これをクイズ大会に当てはめて考えてみよう。

 「営利を目的とせず」については、素人のクイズ大会と言うのは基本的に営利を目的とするものではなく、クイズそのものを目的として開催される場合が多いから、この要件は満足する場合が多いだろう。営利目的を具体的にどう判断するかの一つの基準は、開催主体がそもそも非営利団体であれば、収支決算で黒字が出るかどうかというようなところから判断するぐらいである。

 次は「観衆から料金を受けない」という要件である。と言うのは、サークルの例会なんてのは当然に参加は無料であろう。ところが、クイズ大会となると、参加料という名目で金銭を徴収することが多いので、この要件には該当しないということになる。但し、料金とは著作物を提示することの対価としての金員と考えるべきであるから、BGMはそれ自体を目的としている訳ではなく、この要件からは外れるという考え方もないわけではない。

 「実演家に報酬が支払われない」については、BGMに生演奏を使う場合など殆どないだろうから、無視しても構わない要件である。

 以上見てきたように、参加費が必要なクイズ大会にあっては、BGMを使う為には許諾が必要という確率が高そうである。尚、最近までは、「音楽喫茶、ダンスホール、ディスコ等」を除いてはCD等によるBGMを自由に使っていいことになっていた。だから、喫茶店とかではBGMが掛け放題だった訳である。このことを定めていたのが法附則第14条なのだが、流石に諸外国から批判されて、平成11年の法律改正で削除されてしまった経緯があり、JASRACも平成14年4月からようやくBGMに関する使用料規程の運用を始めたところである。


Q6   イントロクイズと著作権について教えて下さい。

 イントロクイズとは、曲のイントロを聴かせることにより、曲名等を答えさせる形式のことである。これについては、公衆に対して音楽を聴かせるという点で、Q5で検討してきたBGMの問題と同じであって、演奏時間がBGMに比して短いという点が違うだけのことであるから、基本的にはQ5で検討した結果がそのまま当てはまると考えもらって差し支えないと思う。つまり、原則として著作者の「演奏権」の許諾が必要ということである。

 ほんの一瞬だけ聴かせるのと丸々一曲聴かせるのと同じというのは釈然しないという考え方もあるだろうが、法律的には「演奏権」に時間を限る旨の規定は存在しないのであるから、同じものと評価せざるを得ない。しかし、実務的には権利処理に当たっての金銭の多寡という点に反映されるのではないだろうか。


Q7   問題集の編纂で気を付けることは何ですか?

 クイズ大会終了後によく発行される記録集は、個々の著作物たるクイズ問題と同時に、「編集著作物」にも該当するので、個々の問題の作者とは別に、編集者もその問題集の著作権者となる。但し、単なる問題を羅列しただけでは「編集著作物」とは認められず、あくまで「素材の選択又は配列によつて創作性を有するもの」(法12条1項)でなければならない。また気を付けなければならないのは、保護される対象は、素材の選択及び配列により創作された具体的な表現物であって、素材の選択及び配列の方法そのものではないという点である。これは、アイデアそのものは著作物ではないという大原則から当然に導かれる結論であって、ある問題集の素材の選択及び配列の方法を利用して別のクイズ大会の問題集を作ったとしても、権利侵害ではない。

 普通の問題集ではないが、パソコン等で用いられる問題を集めたテキスト形式のデータベースについてはどうだろうか。こうしたものは編集著作物でも特に「データベースの著作物」と言われ、「論文、数値、図形その他の情報の集合物であつて、それらの情報を電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成したもの」(法2条1項十の三号)と定義されており、きちんと保護されているのである。要はコンピューターで検索できるように体系付けられているものである(編集著作物に言う「配列」はこの場合は問題とならない)。

 尚、「編集著作物」にしても「データベースの著作物」にしても、重要なのは素材の編集であるから、個々の素材そのものは必ずしも著作物である必要はない。例えば、英単語帳は編集著作物であるとされることが多いが、これは入試に出そうな英単語を選択して分類して配列してあるところに創作性が認められるものであるから、当然に個々の英単語が著作物である必要などないということがお分かりいただけるだろう。

 さて、問題集の中にたまに散見されるのが、漫画の一コマをコピーして貼り付ける場合である。これは明確にその漫画の著作権者の「複製権」の侵害である。又、偶にあるのが、そのコマの登場人物の吹き出しの中の台詞を書き換えた場合であるが、これは著作者人格権の一つの「同一性保持権」の侵害となるので、これまた注意が必要である。特に「同一性保持権」は、「私的使用」(法30条1項)の場合であっても制限されることはないので、ごくごく内輪の場合であっても、改変すると須く権利侵害と見なされてしまう。


Q8   問題集を個人的にコンビニのコピー機でコピーすることは自由に出来ますか?

 問題集を例えばコンビニのコピー機でコピーする行為は、単純に考えると複製しているのだから「複製権」の侵害になりそうである。しかしながらの「私的使用」(法30条1項)に該当する場合がある。つまり、複製したものをみんなに売りつける訳ではなく、自分で楽しむためだけにコピーするのであれば「私的使用」に該当し、著作者の「複製権」が制限されてしまい、結果としてコピーしても違法ではないことになる。この規定のおかげで、我々はテレビ番組をビデオに録画できるし、また借りてきたCDをMDに録音しても「私的使用」に該当するので法的には何ら問題がない(もし疚しい気持ちで録音してた人がいたら、今日から堂々とコピーしましょう)。

 しかし、更によくよくこの第30条をよく読んでみよう。

(私的使用のための複製)
第三十条 著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。
 一 公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器(複製の機能を有し、これに関する装置の全部又は主要な部分が自動化されている機器をいう。)を用いて複製する場合
(以下略)

 ここで言う「公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器」とは、まさにコンビニ、生協、会社等に置いてあるコピー機のことである(注6)。つまり、このような公衆用の自動複製機器を使って複製した場合は、私的使用とは見なされず、「複製権」の侵害となってしまうのである。これでは、自分で買った個人用コピー機を使うしか合法的コピーが許されないという甚だ厳しい法的構成と言わざるをえない。

 しかししかし、更に逆転がある。法の附則を見てほしい。

附則
(自動複製機器についての経過措置)
第五条の二 新法第三十条第一項第一号及び第百十九条第二号の規定の適用については、当分の間、これらの規定に規定する自動複製機器には、専ら文書又は図画の複製に供するものを含まないものとする。

 と言うわけで、「当分の間」は、文書用のコピー機は含まれないことになったので、結論としては、コンビニのコピー機で何の許諾もなく、私的使用の為にコピーが出来るということになり、めでたしめでたしである。


Q9   問題をホームページに掲載するにはどんな権利処理が必要ですか?

 問題をホームページに掲載する場合には、準備段階で問題をサーバーに複製する必要があるため、先ずは著作者の「複製権」の許諾が必要である。

更に、ホームページ上で公衆が閲覧可能な状態に置くということは、「公衆送信権」の許諾も必要である。この「公衆送信」は送信を行うことを対象としているので、例えホームページ上に掲載されている場合であっても、「いやこのページは人気がなくて、未だ誰にも閲覧されていない、すなわち送信されたことがないのであるから、公衆送信ではない」という強弁が不可能というわけでもない。こういう事態に対処するため、法23条には「自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む」とちゃんと書いてある。「自動公衆送信」とはインターネットを通じた送信等のことであり、「送信可能化」とは、送信することが可能な状態であって実際に送信されたかどうかは問わないというものであるから、要はアップロードした瞬間に違法ということである。

 絵や写真を使った問題をホームページに掲載する場合には、問題文のみならずその絵や写真も一緒に掲載する場合がある。その時には問題作成者だけでなく、その絵や写真の著作者にも「複製権」「公衆送信権」の許諾を求める必要が出てくる。

 またイントロクイズ等の場合で音楽をmp3等にしてホームページに掲載する場合にも、その音楽の著作者の「公衆送信権」の許諾が必要である。問題となった米国のナップスターや日本ではWin MX等についてはこうした点から権利侵害な訳である。

 音楽の場合で更にややこしいのは、著作隣接権の問題があるからである。ここで初めて出てきた「著作隣接権」とは、著作者ではないが、著作物の伝達に創作行為に準じた行為があることから特別に認められているものであり、権利者は実演家・レコード製作者・放送事業者・有線放送事業者である。例えば、「襟裳岬」を著作した者は岡本おさみと吉田拓郎であって、森進一ではないが、森進一の歌唱による著作物の伝達行為に創造性に準じたものを認め、実演家としての森進一は著作隣接権を持つ、という仕組みである。

 そしてこの実演家とレコード製作者も、著作隣接権としての「録音権(録音物の複製も含む)」と「送信可能化権」を持っているので、著作者だけでなく、実演家とレコード製作者からもそれぞれ許諾を求める必要があるのである。

 参考までに、JASRACでは音楽をホームページに掲載する場合にどのような手続きを設けているのか紹介しよう。  JASRACの使用料規程では「インタラクティブ配信」としてホームページ上での音楽配信が定められている。先ず、商用配信と非商用配信とで扱いが分かれるが、クイズ関係は非商用配信(商用は配信することで利益を得る場合)に当たるので、以下は非商用配信として話を進めたい。(注7)

 次に、ダウンロード方式とストリーミング方式とに分かれる。ダウンロード方式の場合、ファイルそのものが複製されてパソコンに取り込まれるのに対し、ストリーミング方式ではそれが残らず、Real Audioのように接続している間だけ聞ける。そして、ダウンロード形式では10曲まで、ストリーム形式では曲数に制限なく、ともに年間の包括使用料は10,000円である。曲単位では、1曲につき年額1,200円、1年以内の利用の場合月額150円である。つまり、これだけ払えばホームページに音楽を載っけてもいいわけだ。因みに、歌詞だけを載せる場合は、ストリーミング方式扱いとなるらしい。

 最近では音楽著作権を集中管理しているのはJASRACだけに限らないので、その音楽を管理している事業者はどれかということから探す必要がある。まあ言うても殆どはまだJASRACなんだけど、ザ・ブームやスピッツの曲だったらジャパン・ライツ・クリアランスが管理してるし、パール兄弟の曲はイーライセンスが管理している。それに加えて、どこにも信託せず自分で管理している権利者というのもいる。例えば、松本人志は権利を信託していないので「ようかん夫妻」を使いたければ、松本本人から許諾を貰おう。

 以上で、「クイズと著作権」は終わりです。異論反論オブジェクションがあれば申し出て下さい。


(注1)正式名称は「文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約 (Berne Convention for the Protection of Literary and Artistic Works)」。1886年、フランスの作家ビクトル・ユーゴーが中心となって、スイスのベルン(フランス語読みでベルヌ)で結ばれた条約。現在、149ヶ国が加盟。
(注2)英語名は「Universal Copyright Convention (UCC)」。93ヶ国が加盟。
(注3)正式名称は「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(Trade-Related Aspects of Intellectual Property Rights)」。人格権を除いたベルヌ条約の履行を求めている。
(注4)アフガニスタン、イラン、シリア、コモロ、キリバス、ツバル、ナウル、バヌアツ、マーシャル諸島、ミクロネシアの10ヶ国。
(注5)平成14年5月30日東京地方裁判所の判決 を参照。判決文中で当事者が仮名になっているが、ばらしてしまうと、A:名木田恵子、a:水木杏子、B:五十嵐優美子、b:いがらしゆみこ、である。
(注6)その他、8ミリビデオをVHSにダビングするような機械もこれに該当するが、あまり見掛けない。
(注7)45秒以内は「視聴」として許諾料不要とJASRACの規程にはあるが、これはあくまで営利を目的とした場合であるから、非商用配信の場合には適用されない。



<参考文献>
『著作権法逐条講義 三訂新版』加戸守行著(社団法人著作権情報センター)
『著作権法詳説 全訂新版』三山裕三著(東京布井出版)
『著作権法ハンドブック』著作権法令研究会著(社団法人著作権情報センター)
『詳解著作権法 第2版』作花文雄著(ぎょうせい)
『月刊コピライト』(社団法人著作権情報センター)



クイズクイズと著作権