クイズと著作権

第1章 クイズの問題は著作物か?


第1節 著作物とは何か

 ネット上でクイズと著作権について論じられた文章をあれこれ見ると、その結論として「クイズの問題は著作権の保護を受けない」とするものが大半であるが、果たして本当のところはどうなのかだろうか。やはり論点の一丁目一番地はこれであろう。

 その前に一つ言及しておかなければならないことがある。巷間「クイズ問題に著作権は有る/無い」という言い方が多用されているが、厳密に言うと、こういう言い方は正しくない(間違いとも言い切れないが)。一般に、著作権法によって保護を受けるものを「著作物」と呼んでおり、より正確に言うなら「クイズ問題は著作物である/ない」とか、判例とか専門書風に言うと「クイズ問題に著作物性は有る/無い」といった感じである。勿論「著作権が有る」と言って意味は十分に通じるのだが、議論を整理する意味からも「著作物」という概念と用語を使うことにしたい。

 よって最初に考えなければならないことは、クイズ(の問題)は「著作物」に該当するかどうかという点である。著作物に該当しなければ、当然著作権は発生しない。では「著作物」とは何なのかを知るため、ここで著作権法(以下たまに「法」と呼ぶ。)の定義を見てみよう。

著作権法(昭和45年5月6日法律第48号)
(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
 一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。

 と言うわけで、著作物の要件は大きく4つに分けられる。以下全体を概観した上で、クイズについて考えてみることにしたい。

1 「思想・感情」
 著作物たり得るためには「思想・感情」を表現したものでなければならない。これは逆に「思想・感情」を表現していないものは何かということから考えると分かり易い。例えば、日本の首都は東京である、とか、富士山の高さは3,776mである、とかの単なるデータや事実の羅列等である。
 判例によれば、「外部的表現に著作者の個性が何らかの形で現れていれば足り」るとしてる(注1)

2 「創作的」
 著作物たり得るために重要な概念がこれ、換言すれば「創造性」というやつで、何かしら作り上げたものに対して知的営為が認められる必要があるということである。ここに言う創造性は高度なものである必要はなく、厳密な意味で独創性の発揮されたものであることまでは要しないので、たとえ小学生が書いた作文であっても「著作物」たり得ることになる。
 判例によれば、「作成者の何らかの個性の表現されたものであることが必要である。文章表現に係る作品において、ごく短いものや表現形式に制約があり、他の表現が想定できない場合や、表現が平凡、かつありふれたものである場合には、筆者の個性が現れていないものとして、創作的な表現であると解することはできない」としている(注2)。判例的には「個性」がキーワードらしい。

3 「表現」
 著作物たり得るためには外部に表現されたものでなければならない。逆に言うと、アイデアとか理論とかはそれ自体では著作物ではなく、論文なりで具体的に表現されて初めて著作物になるということである。例えば、クイズの形式なんかはアイデアであって著作物ではないことになるが、それを企画書なり何なりで文章等の形で表現したものは著作物となりうる。

4 「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」
 この要件は、このどれかに必ず入らなければならないというものではなく、知的・文化的包括概念に入るかどうかで判断することになるが、さほど気にする必要はない。

 以上見てきた4つの要件の全てに該当するものが「著作物」ということになる。正直なところ、分かったような分からんような定義である。参考までに、先に引用した2つの判例で問題となった「当落予想表」(選挙の立候補者の氏名の上に◎とか▲を付した表)と「古文単語語呂合わせ」について見てみると、「当落予想表」については著作物性が肯定されている。一方、「古文単語語呂合わせ」の方は、控訴審では争点となった20の語呂合わせのうち3つに著作物性を認めている(注3)


第2節 クイズ問題の著作物性

 それでは、以上を踏まえて、クイズ問題の著作物性について考えてみよう。

 前述の4要件のうち、「思想・感情」と「創造性」については、クイズの問題を作る場合に於いて、何をどのように問うかという点に創意・工夫が認められるので、創作性が認められると考られるだろう。素材を各種ネタ本から得る場合にも、素材の選択という点、及びそれを問題文の形式に整え、時には他の要素を追加したりする行為は、これは極めて創造的なものであると言えるだろう。特に長文の問題では、あまり知られていないエピソード的な話から入り、段々と人口に膾炙した要素を配置して正解が導かれるようにする形式や、前振り("〜ですが"の部分)と後振り("では〜"の部分)との接合性や時には意外性の組み合わせ等が代表的な創造的営為であり、問題文の作者の個性が現れていると言って差し支えなく、「思想・感情」の要件もまた充足している。

 その他の要件についても、クイズの問題は問題文として当然「表現」されているし、知的・文化的包括概念に入ることも然りである。

 しかし、当然ながら以上述べたような要件から外れるクイズ問題というのも存在しうるだろう。「日本の首都は何処?」「答え:東京」に著作物性が有るかと聞かれると、かなりの確率で否定的に解すべきだと思う。さはさりながら、短文のストレートな形式の著作物性を否定するものではなく、素材の選択や表現形式によって創造性や作者の個性が認められる場合は多い。結果として、通常のクイズ番組やクイズ大会で用いられているクイズ問題の多くは著作物性を有するということになろう。

 結局のところ、「クイズ問題」に著作物性が有るのか無いのかという問の最も正確な答えは「そのクイズ問題によって個々に判断すべき」というものである。既に述べたように、何ら創造性の無いクイズ問題というのも確かに存在はするのかも知れないが、だからと言って「クイズ問題は著作物ではない」ということにはならないのであって、著作物となるクイズ問題とそうではないクイズ問題がある、ということなのである。そういう意味で、少なくとも「凡そクイズ問題なるものに著作権は無い」とする主張は失当である。

 例えば、前に述べたように、「古文単語語呂合わせ」は20のうち3つだけしか著作物性が認めらなかったが、さりとて「古文単語語呂合わせ」は著作物ではない、とは言えないことと同じである。また「交通標語」についても、その著作物性を肯定する判例(注4)があるが、「交通標語」は著作物であると敷衍して言えるわけでもない。結局は、個別具体的に判断していくしかないのである。

 また「クイズ問題は事実の羅列」に過ぎないので著作物ではないとする主張が一部に有る。この「事実の羅列」という概念で参考になると思われるのが新聞記事の著作物性である。

 著作権法第10条第2項に「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道は…(中略)…著作物に該当しない」との規定があることから、新聞記事は著作物ではないという「誤解」が一部にあるようである。しかし「事実の伝達にすぎない」という限定が付されていることに注目すれば、事実の伝達以上の新聞記事であれば著作物となるということであるとされている。「事実の伝達にすぎない」記事とは、「人事異動とか、死亡記事のように、誰が書いてもこうなると思われる事実を忠実・簡潔に伝達するような報道記事」(注5)のことである。これをクイズ問題に応用して考えれば、誰が作っても同じような問題文になってしまうような事実の伝達にすぎない問題でなければ、著作物性を肯定して良いと考えられる。

 また、たとえ個々の問題が著作物でなかったりしても、それらを編集したクイズ問題集のようなものは「編集著作物」として著作物性が肯定され得る。「編集著作物」とは、「素材の選択または配列によつて創作性を有するもの」(著作権法第12条第1項)と定義されている。素材は、著作物であってもなくても関係ない。著作物とされた例としては、英単語帳とか職業別電話帳のようなものがある。ホームページも編集著作物と言えるかも知れない。

 あと、問題集の一形態と言えるだろうが、クイズ問題が集まってデータベース形式となっていることもある。それが「情報の選択又は体系的な構成によつて創作性を有するもの」であれば法第12条の2に言う「データベースの著作物」に該当し得る。尚、「データベース」と言う為には、コンピューターで検索できるようになっている必要があることは言うまでもない(著作権法第2条第10号の3)。

 次章では、クイズ問題が著作物であることを前提として、だったらどういうことになるのか、ということを説明しよう。

<続く>

(注1)東京高判昭和62年2月19日「当落予想表事件」
(注2)東京地判平成11年1月29日「古文単語語呂合わせ事件」。
(注3)東京高判平成11年9月30日「古文単語語呂合わせ事件」の控訴審。「あさまし」の語呂合わせ「朝めざましに驚くばかり。」、「あやし」は「アッ、ヤシの実だ。いや、シイタケだ。」、「ひがひがし」は「『日が東に沈む』というひねくれた奴」の3つについて著作物性が肯定されたが、それぞれ「朝目覚ましに驚き呆れる。」、「あっやしの実だ、いや、しいたけだ、そーまつぼっくりだ、不思議だな。」、「日が東に沈むとはひねくれている。」の複製権侵害等は否定。また、そもそも著作物性が否定された語呂合わせは、例えば「やうやう」の「ヨーヨーだんだんうまくなる 。」等。
(注4)東京地裁平成13年5月30日。「ボク安心 ママの膝(ひざ)より チャイルドシート」という交通標語の作者が「ママの胸よりチャイルドシート」を著作権侵害として訴えた事案。著作物性は肯定したが、著作権侵害は否定。尚、平成13年10月30日の控訴審もほぼ同旨だが、著作物性の肯定についてはやや後退。
(注5)『著作権法逐条講義三訂新版』加戸守行著(社団法人著作権情報センター)p.122。この逐条解説本は著作権界の「聖書」「コーラン」の如き扱いである。


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