村の入口で、エリーが馬から降ろしてもらっているとそんな声が後ろからかけられた。ダグラスは、声をかけた人物を見て苦い顔をしている。 「遅かったじゃねえよ。なんで貴様は戦おうとしなかったんだ」 エリーが振り返ると、そこにはハレッシュが立っていた。隣にはフレアが立っている。 「はっはっは、すまんすまん。やっぱり戦いってのは女の人には見せられないものだからなぁ」 「すまんじゃねえよ。…奢ってもらうからな」 凄んだダグラスに、ハレッシュは頷く。まったく、と呟いてダグラスはエリーに視線を向けた。 いつもならうるさいくらいに声をかけてくる少女は、先ほどから一言も喋っていない。心なしか顔が青ざめているようにも見える。 「おい、大丈夫か?」 ダグラスが声をかけると、エリーは首を横に振った。 「ちょっと、気持ち悪い…」 「大変! エリーちゃん、宿屋で休んだほうがいいわ」 フレアが慌てて手を貸す。それにもたれかかるようにして、エリーは息をはいた。 「じゃあ、私が連れて行くからハレッシュさんとダグラスくんで荷物持ってきてね。さ、エリーちゃんいきましょう?」 「…はい」 そのまま宿屋に向かうエリーをいつまでも心配そうに見つめるダグラスにハレッシュは声をかける。 「俺たちがいない間になんかやったのか? お前」 その言葉にダグラスはムッとする。 「お前と一緒にすんな」 「俺は紳士だからな。まだ何もやってないぞ」 「……そっか? まあ、いいか。それよりも飯だ、飯」 「ここの料理はなかなかだぞ」 「どうでもいいけど、お前の奢りだからな」 馬の手綱をハレッシュが引き、荷物をダグラスが肩にかけ、2人は少し遅れて宿屋に向かった。 「大丈夫?」 心配そうに覗き込んでくるフレアにエリーはこくりと頷いた。 「ご心配かけちゃってすみません」 「いいのよ。気にしないでね。…えっと、何か果物とかだったら食べられるかしら」 その言葉には首を横にふる。 「今はちょっと…。また後で頂きます」 「そうね。あんまり無理しない方がいいわ」 その時、ドアが遠慮がちにノックされた。 「はーい」 フレアが扉の前に立って何か話をしている。死角になっていて誰が訪ねてきたかエリーの位置からはわからない。 「それじゃお願いするわね」 そうドアの向こうの人物に言うと、フレアはエリーのほうを向いた。 「じゃあエリーちゃん。私ちょっといってくるわね」 「あ…は、はい」 フレアがそのまま扉の向こう側に消え、代わりに違う人物が部屋の中に入ってくる。 「…大丈夫か?」 ダグラスだった。 「うん。大丈夫」 「……そっか。しっかし、どうしたんだ? 元気が取り柄のお前が気持ちが悪いなんてさ」 「…私が気分悪くちゃいけないの!?」 思わず好戦的になってしまう口調をエリーは止められない。迷惑といっていたことを思い出し、そして最悪な想像もひきつれてエリーの気持ちを突き落とす。 「そういうわけじゃねえけどよ。なんでお前そんなに怒ってんだよ。俺なんか悪いことしたか?」 「別に。そういうわけじゃないけどっ!用がないなら出てってよ。私といても迷惑なんでしょ?」 困惑したようにダグラスは否定する。 「なんだよ、それ。俺、迷惑なんていってねえぞ」 「言ってないだけで、心の中じゃいつも思ってるくせに!」 「おい、エリー…」 「無理についてきてくれなくてもよかったの! そんなの嬉しくもない!」 「…………」 「でてってよ!」 「…………」 「でてってったらっ!」 興奮したせいか、エリーの瞳から涙が零れ落ちた。それを手で拭ってダグラスを睨みつける。どうしてそんなことを言ってしまったのか、後悔がなければ嘘になる。 でも、このまま2人きりの状態を作りたくなかった。そんなことをしたら、これ以上傷つくような気がするから。 ダグラスが出て行った後もエリーは嗚咽を堪えていた。 「……もう、これ以上苦しめないで」 その言葉は音にならずに、窓からは傾いた太陽の光がただ差し込んでいた。 |