MOUNTAIN「?」MOUNTAIN「!」
〜6〜






「へっへっへ。王立騎士団っていったって、たいしたことねーじゃねえか」
「ちょっと騒ぎを起こしてやりゃ、こんなもんよ。おい、お前たち、はやめに詰め込めよ」
「へいっ」
 そう声がしたかと思うと、盗賊と思われる男達が数人現れた。不敵な笑みを浮かべ、手には袋を持っている。その様子から、補給班が積んできた補給物資を略奪するつもりだということがわかった。
「ん?これはなんだろうな」
 盗賊の一人が補給物資の中にある籠に気づいて、近づいていく。そこにあるのはあまりにも不自然で、盗賊の勘が何かを告げていたからだ。
「ん?」
 何か足元に違和感を感じる。しかし、今はそんなことに構っている場合ではなかった。目の前には宝の山があるのだ。
「なんだ?」
 その声につられてもう一人そばによってきた。やはり、足に何か違和感を感じる。しかし、その盗賊も首を傾げただけで、詳しく確かめようとしない。
 その途端、クラフトが破裂する音が背後で響く。
「何だっ!」
 盗賊の頭らしき人物が、声を上げた。その声に全員が振り返る。
 否。振り返ろうとした。
「動けねえ!?」
「どうなってんだ!?」
 先ほどの盗賊2人が、驚愕の声を上げた。刹那、盗賊が気づいた籠の中から小さい何かが現れる。
「ズブタフ槍の水!!」
 プリチェだった。籠の中に隠れて、盗賊に隙ができる機会をねらっていたのである。その絶好のチャンスにプリチェが投げつけたアイテムは盗賊2人を直撃し、そのまま深い眠りへと誘った。数秒も経たないうちに、2人はその場に崩れ落ちる。
「てめえ、何しやがる」
 その光景を見た頭が声を上げ、プリチェに向かって一歩、一歩近づいて行く。その形相はひどく恐ろしいものだった。普通の人ならば、その顔を見ただけで、逃げ出したくなるだろう。
 しかし、プリチェは人でなければ普通でもなかった。生来の性格もかなり影響しているだろうが、なんといっても、日頃からこのような場所での採取を当たり前のようにしている妖精である。逃げようと思えばこの状況下でもすぐに逃げられるし、エリーの持たせてくれたアイテムを駆使してこの修羅場を乗り切る自信もあった。しかし、そんなことをしなくても、今のプリチェには頼りになる仲間がいるのだ。
「それはこっちのセリフだ」
 いつの間にか、盗賊の頭の後ろに立っていたヒューイが剣をつきつけながらそう言った。
「馬鹿な!?」
「いつの間に!?」
 他の盗賊たちを牽制しながら、ヒューイは頭に静かな声で告げる。
「降伏しろ。君たちの行為は明らかに重罪だが、降伏すればまだ救いがあるぞ」
「仕方ねえ・・・」
 そうつぶやく声が聞こえ、ヒューイとプリチェはほっと息をついた。そこに少しではあるが油断が生まれる。
 それを見逃す盗賊ではなかった。
「甘いんだよっ!」
 盗賊は、剣先から逃れるとおもむろに懐からダガーを取り出し、ヒューイに向かって投げつける。
 キン、という音と共にダガーは地面に転がった。ヒューイが剣で叩き落したのである。
「へっ、やるじゃねえか。じゃあ、こいつはどうだい?」
 そう言うと、今度はダガーを3本連続して投げつけた。
 キン、キン、と金属音が聞こえる。ダガーの飛跡を見つめ、盗賊はにやりと笑った。ダガーには即効性の毒が塗ってある。少しでも触れたが最後、動けなくなるのだ。
 勝利を確信し、ヒューイの方を改めて見る。しかし、そこには盗賊の予想した姿はなかった。
 確かに腕から血が流れている。その傷はどうみても、ダガーのつけたものだ。だが、ヒューイは毒の回っている様子は見えない。
 そのことが盗賊にとってあまりにも予想外だった。今までもダガーの毒によって窮地を免れたことは数知れない。免れた数だけ盗賊はダガーの毒を信じ、疑わなくなっていた。その毒が効かない相手がいることを考えなくなっていったのである。
 そのことは、結果として相手に隙を見せることになった。
「甘いのはどっちだ!?」
 ヒューイが自分に向かって走って来たときも、盗賊はその光景を眺めているだけだった。その剣の柄で首の後ろを叩かれて、ようやく自分がどういう状況下にいたのかを思い知る。しかし、もうなにもできない。
「うわっ」
「逃げろっ」
 その様子を見ていたほかの盗賊たちが、きびすを返して逃げようとする。しかし、前方から影がそれは阻まれた。
「どこへ行く?」
 低い静かな声。しかし、その声は盗賊たちの動きを止め、力をなくさせるには充分であった。
「あ、エンデルクさまー」
 プリチェの場違いな声が響く。ヒューイはほっと息をついた。


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