MOUNTAIN「?」MOUNTAIN「!」
〜4〜






「うぅ、頭痛い…」
 そう言いながら、ヒューイは街中を歩いていた。今日は、非番である。昨日、調子がいいと思って飲みすぎてしまったらしく、朝から二日酔いに悩まされていた。ひさしぶりに感じている激しい頭痛と気分の悪さに、寮でおとなしくしていた方がよかったのかもしれないと後悔をする。しかし、もう遅い。
「……」
 流れる人ごみに身を任せながら歩いていたが、だんだんと自分を抜き去る人間が増えてきたのを感じてヒューイは一歩そこから外れた。目の前に少し休めそうな木陰を発見して、そこにどさっと腰を下ろす。これ以上の強行軍は、体力的に無理だ。
 ほっと一息ついて、昨日のメンバーを思い出す。ダグラスは、今日も朝から仕事のはずだ。ヒューイ以上に飲んでいた気がするのだが、酔ったような形跡は1つも見せなかった彼である。しっかりと仕事をしているに違いない。そして工房の主のエリー。彼女もまたかなりの量を飲んでいたはずなのだが、2人を見送るときも肌がほんのり上気している他はいつもと変わらなかった。別にヒューイが弱いわけではない。ないはずなのだが、そのことに少し疑問を抱いてしまうヒューイであった。
 さわやかな風がヒューイをまわりを通り抜けていく。それは、心地よく、頭痛をやわらげてくれているかのようだった。ヒューイは、そうすることが自然であるように目を閉じ、その風をもっと感じられるように努力する。
「あの…大丈夫ですか?」
 突然、頭上から声がした。まだ若い、少女のような声。ヒューイが目を開けると、そこには声の持ち主が自分を見下ろしている。
 まず、意識したのが服装。白で統一された服だ。顔を見、そして胸元にゆれているペンダントを見てヒューイは、その少女が誰であるかを悟る。
「シ、シスター?」
 そこに立っていたのは、女神アルテナのシスターであるミルカッセであった。こんなところに座っている自分を見て、心配したのだろう。いつもの笑顔に陰りが出ている。
「顔色が悪いですけど…」
 心配している顔を見て、ヒューイはあわてて首を振った。
「大丈夫です。ちょっと気分が悪いだけで」
 くらくらする頭を無理矢理押さえつけてそう言うと、ミルカッセはようやく笑顔を見せた。その笑顔にようやくヒューイも安心する。
「それはよかった。もしかして、なにかあったらと思って…」
 そう言ったミルカッセに、心配させてすみませんと笑顔で言う。少し頭が痛むが、彼女の笑顔に比べればそんなことはどうでもいい。
「大丈夫です、本当に。薬をもらいにエリーさんのところに行こうと思っただけで」
「あ、そうなんですか…」
 その言葉にかなり安心したらしく、ミルカッセはそれでは、と言って去っていく。その後姿を見ながら、ヒューイはぼおっとしていた。
 アルテナ神殿のミルカッセといえば、ザーグブルグの中でも5本の指に数えていいくらいの美少女である。その少女に声をかけてもらうことができ、ヒューイは天国に上るような心地であった。
「らっきー」
 思わずつぶやいた言葉は本心である。

「おいっ。何したんだよっ。お前!!」
 寮に戻るなり同僚に怒鳴られてヒューイは思わず目を白黒させる。
「別に…特になにも?」
 思い当たることはいろいろあるが、とりあえずここは当り障りのない答を返しておく。ダグラスとご飯を食べることはともかく、ミルカッセと会ったことを言うわけにはいけない。そんなことを口から滑らせた瞬間、まわりの同僚からいじめられるのは目に見えている。
「お前、今度の討伐、ヴィラント山になってるぞ!!」
「はっ?」
 同僚から教えられた事実は、ヒューイの理解力をはるかに越えるものであった。さすがに希望していたとはいえ、本当に事実になるとは思ってもいない。しかし、目の前にあるものはヒューイをヴィラント山の補給班にするというものであった。
「どうして?」
 ヒューイの声は誰の耳にも届かない。


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